第38話 怠惰帝 プルディシオ=ソリス
「……よくもやったな、勇者!!」
妹アウロラの敗北消失を
見た目十歳のイケメン少年なだけに、そうやって怒りの表情を浮かべると
怒りの表情のプルディシオの姿が下に沈み、見えなくなった。
完全に
ソリス兄妹の暗黒体は他の二人のモノと比べてバカでかいが、造形にはさほど違いはないようだ。
顔や身体は真っ黒で、顔には野球ボール大の二つの光る穴と、ギザギザの白い刃の生えたスイカのような三日月型の口だけしかない。
そして、頭の両脇に生える巨大な一対のツノ。
まるで漫画のキャラクターかのような印象を受けるが、身長十メートルの巨体ともなると笑ってもいられない。
ほれほれ、見ろ見ろ。暗黒体の左腕が伸びてその先が……何だありゃ。斧か? 妹アウロラの暗黒体は右腕がハンマーになったが、兄は斧か。何とまぁ凶悪な。
オレは韋駄天足でプルディシオの周囲を駆けた。
照準が付けられなければ、攻撃は当たらないと思ったからだ。
その間に、弱点を見つけてやる。
ところが、暗黒体と完全同化したプルディシオはそんなオレの思惑をまるで無視して、斧と化した左腕をいきなり地面へと振り下ろした。
「
地面に叩きつけられた斧を中心に、砂を割って勢いよくマグマが噴き出した。
まるで間欠泉のように、空高くマグマが噴き上がる。
「何じゃこりゃぁぁぁぁあああ!!」
オレは慌てて避けた。
だが、吹き付ける熱波が強力すぎて、直接マグマに触れてもいないのにあっという間にオレの皮膚が
それだけじゃ無い。火の粉が大量に舞い、オレの服に引火する。
「ぅあちちちちちちちちちちちちちぃぃぃぃ!!」
火傷した手で燃えた服を強引に引き千切って捨てたオレは、距離を取るべく全力で走った。
ところが、充分な距離を取ったはずのオレの進行方向の地面がみるみる煮えたぎったかと思うと、いきなり砂を割ってマグマが噴き出した。
「うわっとぉぉぉぉ!」
どうやらこの闘技場は既にプルディシオの支配下にあるようだ。
急角度で避けるオレの前方に次々とマグマが噴き出す。
「逃がさないよ、勇者さん! 黒焦げになるといい!」
プルディシオの声に愉悦の色が混じる。
ふっざけんな! 勝利宣言するのはまだ早いんだよ、坊っちゃん!!
オレは前方に広がるマグマの壁をジャンプで華麗に飛び越えた。
マグマのすぐ傍を通過したからか、またも皮膚に火ぶくれができる。
これが痛いの何のって。
弱っていないプルディシオ相手では、避けられる可能性が高い。
それどころか、攻撃モーション中に後ろに回り込まれることだって考えられる。
探し切れなかったら強烈な反撃が来るぞ。
さぁ、何をするのが正解だ?
ギュィィィィィィィィン!! ギュィィィィィィィィン!!
その時、オレの耳に異音が聞こえた。
蟲笛の音だ。アタッチメントを着けて回すとこの音がするのだ。
リーサが闘技場内のどこかで、蟲を怒らせる音を発生させている。
次の瞬間、闘技場の床の砂が盛り上がって、巨大ミミズが乱入して来た。
思ったより近くにいたらしい。
お供の巨大ダンゴ虫や巨大羽蟲も続々と闘技場に雪崩れ込んで来る。
「何だ、これはぁぁぁぁ!!」
「うっは、凄ぇ!!」
オレとプルディシオは同時に叫んだ。
どうやら巨大ミミズは一体では無かったらしい。
プルディシオがしゃにむに斧を振るって巨大ミミズを傷つけるも、他の巨大ミミズに襲い掛かられ、にっちもさっちも行かないようだ。
その様子は、まさに巨大怪獣大決戦。いや、凄い凄い。
ヒュン!
蟲を避けながらプルディシオから少し距離を取って避難したオレの足元に、小さな皮袋を結え付けたボウガンの矢が突き刺さる。
リーサだ。相変わらずいい腕をしている。
オレは急いで皮袋を開け、中身を取り出した。
オレの手のひらの上で転がった直径三センチほどの黒い玉。
夜空を封じ込めたかのように綺麗でありながら、持つ者を呪うかのように禍々しく光る玉。
それは、怠惰帝アウロラ=ソリスの
オレは愛剣シルバーファングの柄をスライドしてカバーを開けると、そこにアウロラの魔核を嵌め込んだ。
すでに入っていたグラフィドとアヴァリウスの魔核の隣にすっぽりと収まる。
蓋を閉じると、握った柄から禍々しい気がオレに流れ込んでくる。
オレは剣を正面に立てて持つと、剣に向かって叫んだ。
「怠惰帝アウロラ=ソリス! オレに力を貸せぇ!」
その声に応えるように、柄の中に仕舞われたアウロラの魔核が光り輝く。
「必殺! 大地の呼び声!!」
オレは叫びと共に、剣を地面に叩きつけた。
次の瞬間、オレとプルディシオの距離が現状百メートル近く離れているにも関わらず、プルディシオの足元でピンポイントに局所地震が発生した。アウロラの力だ。
ズズゥゥゥゥンン!!
巨大ミミズと格闘していた暗黒体のプルディシオが、地震に足を掬われ、たまらず倒れ込む。
「旦那さま、無事?」
リーサがオレに走り寄りながら、腰に付けていた皮袋を放ってきた。
すかさずキャッチすると、それは水筒だった。ありがたい!
喉がカラカラだったオレは中の水を一口で飲み干すと、水筒をリーサに返した。
「ふぅ。少し落ち着いたぜ。リーサ、蟲笛はもういいぞ。蟲どもを撤退させてやってくれ。……さて、最後の一踏ん張りだ」
水筒を抱えたリーサが、オレの勝利を毛ほども疑っていない絶対的信頼の目で頷く。
いい女だよ、お前は。
「んじゃ、行ってくる」
オレはリーサにひと言だけ言うと、プルディシオの暗黒体目掛けて、韋駄天足で一気に迫った。
「吠えろ、シルバーファング! 第二の牙、
巨大な幻影の剣を構えたオレが、プルシディオに迫る。
オレの特攻に気付いたプルディシオの顔色が変わる。
慌てて立ち上がろうとするが、残念、こっちの方が早い!
「ソード・インパクト!
覇王殲滅剣はプルディシオの暗黒体に当たると、当たった
プルディシオが慌てて崩壊しつつある暗黒体を捨て、本体のみで逃げようとするが、すでにブーストモードに入っているオレから逃れることは不可能だ。
高速移動したオレは、闘技場の中央で足をもつれさせ転がったプルディシオと
逃げることは不可能と悟ったプルディシオが、地面に座り込んだまま泣きながらオレを見上げる。
「……僕は……死ぬの?」
「肉体は滅ぶ。だが、魂はオレと一緒だ。お前の妹もすでにオレの中にいる。心配はいらない」
オレは優しく微笑んでプルディシオを見た。
コイツは人食いの化け物だ。でもそれはそういう風に生まれついたからであって、コイツの責任じゃない。
酸素を吸う動物から酸素を吸う権利を奪うのも、水を飲む動物から水を飲む権利を奪うのも間違っている。
でもこのまま人間を食わせるわけにもいかない。
だから、オレがお前から人間を食べるための身体を奪い、その分、
それならいいだろう?
「しゃーない、僕の負けだ。持って行くがいいよ」
オレは剣を振り上げると、ちょっとだけ悔しそうに微笑むプルディシオの身体を縦に一閃、真っ二つに斬った。
砂の上に、プルディシオの
夜の闇のように暗く、銀河のように光り輝く魔核だ。
同時に、プルディシオだった
「オレがお前の業を背負うよ、プルディシオ」
オレはプルディシオの魔核を拾うと、優しく抱き締めた。
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