昔助けたスライムが最強スライムになって最弱の僕にやってきたので、テイムして自由気ままにスローライフを目指します!

なるとし

第1話 闇の世界と光の世界

 


「……」


 倒れる寸前の廃墟のような木造の家の軋むベッドの上で僕は目を擦りながら朝を迎えた。


「っ……」


 一気にプレッシャーが僕の身の上にのしかかった。


 数ヶ月間滞納している家賃、高すぎる学費を払ったことによる懐事情、次の学期の学費の工面、食事代などなど……


 貧乏な生活によってもたらされる苦しみが僕の喉を絞めているようだ。


 両親が亡くなってから一年くらいの時間が過ぎた。


 遺産は親族のおじさんがほとんどもらい、仕送りはしてくれない。


 金がない。


「……」

 

 だが、何かを思い出した僕は再び目を瞑って意識を集中させる。


 何も見えない茫漠とした黒いイメージしか見えない。


 属性を持っている人は、複雑なパターンが見えたりするのだが、何も見えない。


「今日もダメか」

 

 属性に目醒めてないことにガッカリしながらベッドから降りた僕。


 洗面台へ行くと、荒んだ顔をした男の子の顔が鏡に映る。


 バサバサする黒髪、生気のない瞳。

  

 ひどい顔だ。


 昨日水辺に行き、タライで汲んできた冷たい水で体を洗った僕は制服に着替えた。


 黒と白を基調としたこの制服は最難関と言われる名門、王立マホニア魔法学院のものだ。


 制服には所々穴が空いていたり、生地が痛んでいる。

 

 僕の名前はレオ。


 15歳の平民だ。


 これから僕は、この闇の世界から光の世界へ旅立つのだ。


 


 王立マホニア魔法学院。


 ラオデキヤ王国の王都の一等地に君臨する魔法学院で、魔法研究者と強い魔法使いを育成し、この国の将来を背負う人材を育てることを目的とした教育機関である。


 マホニア魔法学院は選ばれたものしか入学が許されず、最難関と言われているため、入学試験を突破できるのは幼い頃からエリート教育を受けていた貴族の子女だけと言われている。


 そんなところに平民である僕は通っている。



 僕が正門をくぐると、囁き声が聞こえてきた。


「あ、最弱平民じゃん。縁起悪い」

「ほら、見てみて、制服汚いわよ。洗ってないのかしら」

「近寄ってはなりませんの。平民菌が移りますから」

「あいつ、属性にまだ目醒めてないんだよね」


 もっと小さな声で言ってほしかったな。


 全部聞き取れるぞ。


 まあ、今に始まったことじゃないけど。


 僕は慣れている。


 陰で悪口言われるのも、そして……


「グルルルルル……グアアアアア!!」


 やつにやられるのも。


「あああああ!」


 自分のクラスがある建物目掛けて歩いている僕に、大きなオオカミのようなモンスターが襲ってきた。


 オオカミのようなモンスターは爪で倒れている僕を攻撃してくる。


「っ!」


 痛い。

 

 爪が僕の肌を食い込んでいる。


 数十秒ほどが経つと、気持ち悪い声が聞こえた。


「ひひひ!おい、ウル、その辺にしときな!」


 やつのモンスターであるウルは攻撃をやめ、やつの方へゆっくりと歩いてゆく。

 

 金髪でいかにも人をいじめるのが得意そうな顔の彼にウルという名のモンスターは尻尾をふりふりしながら懐いた。


 やつはウルを優しく撫でる。


 今日は登校時間から仕掛けてくるのか。


 にしても、僕を攻撃したウルの姿がおかしい。


 体が普段より大きく、毛並みも良くなり、向けてくる視線も前より鋭い感じだ。

 

 そして、赤いツノが生えている。


「いい朝だな。くそ最弱平民!」

「……」


 やつは僕を見下し、気持ち悪く口角を吊り上げる。


 倒れている僕が反応しないでいると、やつはコメカミに血管を浮かせてキレ始めた。


「おい、くっそ平民が、俺の話が聞こえねーのかよ!」


 言って、やつは僕の方へ近づき、お腹を蹴り上げた。


「あっ!」


 蹴り飛ばされた僕はお腹を抱える。


 痛い。


 今日はいつにも増して気合いが入っていやがる。

 

 僕が惨めな格好を晒していたら、やつの取り巻き二人が加勢した。


「おい最弱平民!バロン伯爵家の長男であらせられるアラン様のお言葉が聞こえねーのかよ!」

「生意気にもほどがあるだろ。もうすぐアラン様はCランクの魔法使いになられるお方だぞ」

 

 語気を強めて僕に言葉攻めを浴びせる取り巻き二人。


「Cランク……」


 アランのやつは確かにDランクのだったはずだが、もうすぐCランクになるんだと?

 

 僕が小さな声で口ずさむと、取り巻きのうち、一人が説明を加える。


「ウルくんの姿を見てみろ。この子は昨日まではDランクのノーマルウルフだったが、アラン様の強い力に導かれ、Cランクのハードウルフに進化したんだよ!」


「……」


 そうか。


 またアランのやつは強くなったのか。


 と、僕が暗い顔をしたまま、顔を俯かせていると、アランのやつが僕の方へやってきて倒れている僕の胸ぐら掴んだ。


「本当に懲りないやつだな。なんでこんな仕打ちを受けてもここに縋りついてんだ?言ってみろよ」

「……」

「マホニア魔法学院の卒業証書が必要か?それとも人脈?就職先探し?」

「……」


 僕は彼から目を逸らした。


 すると、腹が立ったのか、アランのやつは鼓膜を破る勢いで言う。


「クソが!!イライラさせずに早く言ってみろよ!!じゃないとお前、殺すぞ」

「……」


 殺すか。


 やつがこんな言葉を言うのは初めてだ。


 もし、殺されてしまえば、僕は約束を果たすことができない。


 僕には二つの約束がある。


 一つ目の約束は守ることができなかった。


 だから、二つ目の約束は何があっても守らなければならない。

 

 僕は消え入りそうな声で言う。


「約束、しましたから……」

「約束?」

「立派な魔法使いになるって亡くなった両親と約束しましたから……」


 僕に言われたアラン。


 やつは僕の胸ぐらから手を離して立ち上がった。

 

 そして


「あははははは!!!!!!」


 げらげらと笑い出す。


 彼の笑い声に釣られる形で取り巻き二人も大声で笑い始めた。


 うちアランの取り巻きの一人がお腹を抱えながら話す。


「立派な魔法使い?あはは!!最弱平民のくせに、なかなか面白いこと言うな」

「属性を持たない最下位Fランクくそ雑魚平民が立派な魔法使い……お腹壊れりゅ……うっへへ!」


 僕は握り拳を作った。


 彼はみんな貴族家の子らだ。


 経済力も立場も権力も彼らの方が上だ。


 だけど、この悔しい気持ちは無くならない。


 そんな僕に冷や水をさすようにアランが腰をかがめて低いトーンで言う。


「ならーねよ」

「え?」

「お前は立派な魔法使いには絶対ならねーよ」

「……」

「2年生にもなって属性なしだ。無駄な希望なんか持たずに早くこの学院から出ていけ。ここにはラオデキヤ王国の貴族だけでなく、他国からの留学生も多い。お前みたいな貧乏畜生がでしゃばったらラオデキヤ王国の恥の上塗りってわけだ」

「……」

「出ていかないなら、もっとひどい目にあわせてやる」

「……」

「俺に1年間散々いじめられてきただろ?わかるよな?」


 いやだ。

 

 学院をやめるわけにはいかない。


 やめてしまったら、僕はも親との約束も守れなくなる。


 だとしたら、僕は……


 僕は……


 だけど、僕にはやつに逆らうことなんかできない。


 相手はかの有名なバロン伯爵家の長男だ。


 身寄りのない平民一人殺した程度で、罪に問われることはないだろう。


 僕は口を開けようとした。


 その瞬間、









 透き通った女の子の声が響き渡る。


 声のする方へ視線を向けば、そこには一人のメイドを連れて凛々しく佇んでいる美少女がいた。


 亜麻色の長い髪、深海を思わせる蒼の瞳、吸い付いた象牙色の肌。


 制服から伸びる肢体はシミ一つなくすらっと伸びている。


 そして女性であることを主張するように、胸は白いシャツを押し上げている。


 彼女が向ける視線には、名状し難い威厳があり、アランと取り巻き、周りの生徒らは一瞬固まった。


 だが、やがてアランは気持ち悪く口角を吊り上げて立ち上がっては、彼女の胸をチラッと見、貴族らしく品のある挨拶をするために姿勢を変える。


「おやおや……これはこれは失敬。ラオデキヤ王国稀代の名宰相と言われるメディチ公爵家のキュロス様の一人娘であらせられるカリナお嬢様ではありませんか。さすがラオデキヤ王国随一の美女と言われるだけあって、今日もとてもお美しい。同じクラスであることを光栄に思っております。そんなあなたにこんなお見苦しいところをお見せしてしまい、大変申し訳ございません」


 アランが謝罪すると、取り巻き二人も彼女に頭を下げる。


 だが、彼女は微動だにせず検分するように腕を組んでアランを見下ろす。






追記


久々に新作です!


仕事で結構忙しかったので執筆を二〜三ヶ月間休んでましたけど、やっと連載ができるようになりました!!


 

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