第29話 珍パーティ


「なるほどのう……。わしが居なくなった結果が早速現れたってところじゃろうの――」

と、ルグドア改め、ルーが言った。


 前にルーが言っていた、魔族の魔力を制していたという話。あれはやはり本当の話だったと信じていいのかもしれない、と、エルトは思い始めている。


 しかし、その規模のダンジョンが各地でポンポンと生成されるようなら、それこそ数十年も待たずにこの世界は魔族に蹂躙されてしまうだろう。なんと言っても、このグランエリュートの冒険者ギルドでもトップランカー級のパーティが壊滅させられたのだ。

 これを制するとなると、冒険者ギルドだけでなく王国兵も導入した大規模な軍事作戦を展開することになる。


「――そうなると、また勇者の必要が生じてくるよなぁ」

とゲラルドが言った。


「――いや、それは困る」

と応じたのはエルトだった。


 エルトとしては、別にそれらを制圧することに関しては問題ないと思っている。

 が、「勇者パーティの復活」はダメだ。

 現在この世界に残っている前勇者パーティのメンバーはエルト一人だけだ。さすがに国王から何かしらの達しが来ることは明白だ。

 エルトは、「コンビニオーナー」を続けたいのだ。


「お前が勇者になるってわけじゃないだろう? 勇者はまた生まれるだろうさ」

とゲラルドが言ったが、

「いや、それが大変なんだよ。絶対、国王は僕のところに召集を掛けるだろうさ。それで勇者を探せって話になる」

とエルトが応じる。


「じゃったら話は簡単じゃな。エルが潰せばよいではないか」

と、言ったのはルーだった。


「お? おう、そうか! そりゃそうだ。今回の件、まだ王国には報告してねぇ。今のウチに潰しちまえば、報告せずに済む。そうすりゃ、「勇者パーティ」は必要ねぇ。ルグ……、あ、いや、、さすがだねぇ!」


 ゲラルドは思わず「ルグドア」と言いそうになるのを言い換える。実はさっき、そういう呼び方をするようにルーから直々にからだ。

 「ルーちゃん」と言った時にやや表情が引きつっていたように見えたが、まあ、そのうち慣れるだろう。


「僕が!?」

「エルはそれともまた勇者探しの旅に出るつもりか? 店、やりたいんじゃろう?」

「まあ、いっそのことお前が勇者になれば一番簡単なんだがな?」


「勇者は、やだ。あんなの、前勇者アイツだからできたことだよ。なんだかんだ言って、ああいう性格じゃないとできないものなのさ。僕にはあれは真似できないよ」

と、エルトは返す。

 実際、前勇者アイツはなかなかによくやった。全世界の希望と願いを一手に引き受けて常に笑顔を絶やさず余裕を見せる。実際の魔物との戦闘はそんなに甘いものではないというのに、常に余裕で試練を乗り越えたかのように振舞い続けた。


 この世界において「勇者」とは、人々の希望そのものだ。


 そういう資質を持つものなど、世界広しと言えどもそうそう簡単に見つかるものではない。


「――まあなぁ。アイツはああ見えて、本当に大した男だったよ。近しい人間から見れば、ただのお調子ものにしか見えねぇが、実際、アイツが世界にもたらしたものはとてつもなく大きな希望だったからなぁ」

とゲラルドも応じた。


「ふうん。わしにはあまりよくわからんが、実力ではエルの方が数倍上だったがのぅ?」

とはルーだ。ルーは実際勇者パーティと戦っているわけだから、その力量というのはもちろん経験済みなわけだ。この評価はまさしく正しいと言える。


「ルーちゃん、よ。人間てのは、適材適所っつうのがあるんだよ。「勇者適正そういう意味」ではエルは前勇者アイツには遠く及ばないのさ」

とゲラルドが言った。


「――まあ、そういう事だ。でも、やだなぁ。やっぱりしか方法ないよね?」

とはエルト。

 しか、というのはもちろん、自分が行って壊滅させるということだ。


「わしは、コンビニが楽しいからの。店がなくなるのは、正直、いやじゃ」

「仕方がない。俺も付いてってやるからよ?」

「おお、あんちゃん、男気があるねぇ? じゃあ、わしも付いてってやるかの?」


「はあ!? ゲラルド、言葉が逆だろう? 付いてってやる、じゃなくて、ついて来てくれ、だろう? それにルー、なんでお前までついてくるんだよ? 僕とゲラルドの二人でいいよ、もう」

とルーを制するエルトだったが、


「かかか、まあ、暇つぶしじゃ、と言うばかりでもないのじゃが――。まあそれはおいおい話すとする。とにかく、今はそのダンジョンを放置しておくわけにはいかんじゃろう?」

と、ルーが返す。


「じゃあ、決まりだな。おお! なんか、急に楽しくなってきやがった。前勇者パーティ最強の魔術師に、魔王、そしてこの俺ギルマスのパーティ結成だなんてよぉ!」

と、満面の笑みをたたえるのはゲラルドだ。


 なんだか話がおかしくなってきたが、まあ、とにかくそのダンジョンは放置しておくわけにはいかないだろう。

 エルトもここはさすがにこの方法が一番だろうと考えていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る