第11話 オニギリの力(ちから)


「いらっしゃいませ~! 本日発売の握り飯オニギリいかがですか~?」

「梅、昆布、シャケはもちろんですが、当店イチオシは「ツナマヨ」ですよ~」

「パリパリ海苔タイプとしっとり海苔タイプ、両方ご賞味くださいませ~」


 という掛け声につられて、お客さんたちが「握り飯オニギリ」の棚へと殺到している。

 冒険者が特に多いようだが、一般町人客も一度試してみようと家族の人数分程は手に取ってくれている。

 携帯食料ベントーが好調だったおかげで、当店の携帯食料部門に関してはかなりの信頼度があると言っていいだろう。

 「海苔」に関しては、これまでの携帯食料ベントーにも使用していたものを使っている。一度でもウチの携帯食料ベントーを食べたことがある人ならば、その海苔と白飯の相性が抜群にいいということは知っているはずだ。

 

 この世界にはプラスティックが無い為、もちろんビニール包装材もない。

 実は、この「握り飯オニギリ」の商品開発にあたって一番苦労したのが「包材」だった。


 プラ系包材が無いこの世界では、食料用包材は基本的に2種しかない。

 「木」と「紙」だ。


 「木」はしっかりと箱を構成できる包材であり、丈夫でもある。少しぐらいの衝撃では壊れない。が、反面、やや重く嵩張かさばる傾向がある。この点、木箱を使う携帯食料ベントーは実は冒険者がターゲットなのに冒険者にとってかなり不便な特徴でもあった。

 それを創意工夫し、様々な形状を吟味した結果、立法体型の箱という形に落ち着いたわけだが、これはこれで充分の信用を得ることができている。


 対して「紙」は、どのような形のものでも包むことができる汎用性つかいやすさを備えている。しかしながら、欠点としては、水分に弱いことと、強度の弱さだ。ある程度の水分を含む「握り飯オニギリ」を包むと、やはり、長時間持たず数分で破れたりぼろぼろになったりしてしまった。


 そこでエルトは第3の包材についてもすでに候補を用意しておいたのだった。


「ん? この「握り飯オニギリ」という商品は個別包装なのか? 一個一個包装されてるぞ?」

「それより、この包んでいるものはなんだ? 紙とも木とも違う……」

「ああ、もっと柔らかくて丈夫なものだ――何かの皮か?」

などと、棚に並んでいる「握り飯オニギリ」を物色しながらお客様の数人が話し込んでいる。


「それ、実はサッサの葉なんですよ?」

と、そのお客様の背中越しに声をかけたのはリーリャさんだ。


「え? これって木の葉なのか!」

「サッサの木ってどんなのだ?」

「あれだろう? 7月祝祭の時に飾りを付けるやつだろ?」

とその冒険者風の客たちが答えていた。


「はい。さすがですね、よくご存じですね。実はその中でもこのオオサッサの葉が一番大きい葉なんですよ。それを使って包んであります」

と、リーリャさんが応じた。


「でも、それだとパリパリ海苔ってどうなってるんだ?」

「確かにそう思いますよね? じゃあ、一つほどいてお見せいたしましょう」


 そう言ってリーリャさんは、棚から一つ「握り飯オニギリ」を取ると、その包装を手際よくほどいてゆく。

 周囲のお客さんたちが興味津々にリーリャの手元を覗き込んでいる。


「まずは、外包みを解きます。すると海苔が現れます。ここで外包みは取り除かず開くだけにしておきます。そして、海苔の内側に見えた内包みをこうやって取り除きます」


 スッ――。


と、内包みの先端を引っ張ると木の葉の内包みがするりと抜けた。するとそこに三角形の白飯が現れる。


「おお! なんてことだ! 白飯が現れたぞ!?」

「おおぉ!」

「なんと、そんなに簡単にするりと抜けるのか!?」

と、口々に喚声が起こる。


「あとは、こうやって海苔で白飯を包めば……、ハイ、完成です!」


 リーリャさんが出来上がった「握り飯オニギリ」をやや大仰に頭上に掲げて見せる。

 こういった演出的な見せ方もリーリャさんは本当に上手だ。


――おおお!

――たしかに、海苔はパリパリのままだ!

――パリパリの海苔が外でも食べられるのはヤバい!


「海苔と白飯の相性は抜群です! それは携帯食料ベントーを知っている方ならすでに御存知のはず――。でも、携帯食料ベントーの海苔はパリパリにはできません。この「握り飯オニギリ」はそれを実現いたしました! パリパリ海苔は風味充分、食感最高! ぜひぜひお試しください――!!」


 これがとどめの一撃となった。


 この日から数日、どれだけ納品されても売り切れてしまうほどの大ヒットを飛ばすことになる。


 初日こそパリパリ海苔昆布や、パリパリ海苔梅がよく売れていたのだが、二日目から潮目が変わる。


「今日はツナマヨ! ツナマヨだぁ!」

「おい、そんなに買うなよ! 俺たちの分が無くなっちまうだろう!」


「大丈夫ですよ~。まだまだたくさんありますから、好きなだけ、お取りください。ただ、それほど長い時間は持ちませんから、お昼に食べる分ぐらいにしておいてくださいね~」

とミミが冒険者たちに注意を促している。


 実はこれもエルトの戦略だった。

 この世界ではそれほど長く持つ必要はない。朝買うものは昼に食べるものだ。そこまで持てば充分だ。逆に一日二日と持つものは買占めが横行してしまい、幾つ商品があっても売り切れが続出してしまうだろう。

 そこで、あえて保存可能時間を短くしているというわけだ。


「そうか、じゃあ、昼食べる分だけでいいな――。3つ、いや4つほどあれば充分か――」

「そうだよ! そんなに幾つもとっても食べきれなければ捨てるしかないんだからな? もったいないだろう?」

「ああ、そうだな。すまん。じゃあ、今日は4つだけにしておくか――」


 それでもさすがに売り切れが起きてしまうほどだったのは、いかにエルトといえども予想以上の売れ行きだったという他ない。


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