第3話


 一際騒がしい人だかりに眉をひそめる。クラブらしき店から、キャイキャイと派手な格好をした女性たちと、その肩に手を置く男性たちが対になって出てくる。


 パーリーピーポーなる人種が存在することはもちろん知っている。夜に出歩くことはあるし、ネットサーフィン好きだから一応知識はある。


 私とは一生関わり合いにならない人種。




 綺羅びやかな眩しさにうっとなり、踵を返そうとして、ふと目の端に映った光景を二度見する。



「!!」



 そこには、女性の肩に手を置いた“彼”がいた。



「あ」



 向こうも気付いた。



 いつもはしていない、片耳だけの二連の輪っかのピアスと十字架のネックレス。


 地味な黒一色のジャージでなく、チャラい衣装をモデル並みの着こなしで格好良くキメている彼に一瞬トキメいてしまったが、すぐに全てを理解してスッと気持ちが沈んだ。



(あ。そういうこと)



「なぁに? 知り合い〜?」



 ほとんど金髪に近い明るいウェーブヘアをかきあげながら、彼の腕に手をかける女が聞く。



「別に〜?」



 パッと目を逸らして、女に「行こ」と促す彼は、顔は同じなのにまるで別人のようで、双子の兄弟か何かなのかなと本気で思った。



(いや、でも明らかに私に気付いてる感じだった)



 ほとんど無表情で、どこをどう通ったのか家に辿り着いた私は、フラフラとソファに倒れ込んだ。



 予想は的中していた。



 彼は、もう私に会いたくないのだ。



(一人で舞い上がって、ほんと馬鹿みたい)



 涙が流れて、その夜はずっと泣き明かした。



 人生初めての失恋。



 何よりも、もうあの場所で、彼と過ごすことは二度とないのだということが、想像以上に悲しかった。



 



 その次の夜。



 私は例の場所へは行かなかった。



 そもそも、吸血鬼と人間という異種族なのだから、結ばれることなどないのに、何を浮かれていたのだろう。



 “彼を想い続けるのは、私の自由”なんて、その行き先がどうなるかも知らないのに、迂闊に手を出してしまった。



 先のない恋なんて、悲しいだけだ。



 そう自分に言い聞かせ、失恋を正当化する。



 彼が十字架のネックレスをしていたことも思い出す。


 彼は、私の正体に気付いていたのかもしれない。



 吸血鬼が苦手なものの定番、十字架。



 それとにんにく、聖水などもあるが、全て迷信だ。そんなものには何の効果もない。



(それでも、私の心を抉るには十分)



 私は密かに育んできた彼への気持ちに、整理をつけることにした。



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