血の料理人
栗頭羆の海豹さん
第1話
「おぎゃ?」
此処は何処だ?
俺は確か、アイツが小さい子を助けようとしてトラックに轢かれそうになるのを見て力任せにアイツの腕を引っ張った勢いで俺が変わりに・・・死んだんよな。
死ぬのは怖くなかった。
アイツとの日々は楽しかったしな。
少しはダイエットしろって言われていたけどそれを無視して好きなだけ食って寝てのつけが回っただけだな。
アイツと一緒に運動でもしていたらどっちも助かる事もあったのかもな。
今更遅いけどな。
それより何処だよ。そして、誰だよ。
俺は今、知らない女性に抱き上げられていた。
俺、前の身体測定の時、180センチ越えで余裕の100キロ越えだったんだけどな。こんな赤ん坊の様に持ち上げられる体型ではなかった。
つまり、あぁ、あれね。
流行りが過ぎてきた転生か、あぎゃァァァァとしか言えないし、なんか持ち上げている女性も本格派メイドの格好をしている。
「/##a//jwtmkga☆♪→4→¥:÷38÷<8÷5*3+」
何か言っているのか分からないけど授乳かな?
片手でメイド服を脱ごうとしているから。多分、そうなんだろうな。
でも、母乳を出すには若過ぎじゃないか?
まぁ、貴族に産まれたみたいだし若そうに見えても子供を産んでいるのかな?
うん?あれ、まだ脱げてませんよ。
それだと首しか出てないから。どうやっても母乳を飲めないよ。
俺は前世から食欲が強いから。良くありがちなキャアアアアア!!みたいな恥ずかしそうにする赤ん坊なんて真似はしないよ。
こっちはお腹が空いているんだ。早よ、食わせろ。赤ん坊は吸うのが仕事だろう。
「b@@rgegc#/&/&i」
うん?首筋を近づけてないか言っているな。
あぁ、本能が言っている。そう言うことね。
つまり、今世は人じゃなくて・・・吸血鬼か。
そりゃ、乳を出さずに首を差し出す訳だ。
うん、美味い。
血なんて鉄分臭くて美味しくないと思っていたけど、味覚と嗅覚が変わるとこうも感じ方が違うんだね。
ジューシーだな。肉汁を啜っているみたいでコッテリした血だ。
「う?っ!離してください!!」
何を焦ってるんだ。もっと吸わせろ。まだ腹が一部も膨れてないぞ。
「い、いやぁぁぁぁぁ!!!!」
「どうしたの?!!ミカエラ!ブブ様に!なに・・・か・・・」
ミカエラの悲鳴を聞いた他のメイドが扉を開けて焦って入ってきた。
俺に何かあったんだと思った様だけど、そんな事より早くご飯を持ってこい。足りないぞ。
「ミ、ミカ・・・・・・エラ?なの?」
メイドの目の前には赤ん坊に押し倒されて干涸びているミカエラの姿だった。
それはメイドには、いや、吸血鬼なら見たことがある光景だった。
「嘘でしょう・・・赤ん坊が大人の吸血鬼から無理矢理血を吸い出したって言うの!あり得ない!ひっ!」
そんな事はどうでも良いから。
お前も寄越せとペチペチ足を叩いているのに屈んでくれない。
こっちはお腹が空いているんだ。早よ寄越せ。
「そう、怯えるな。」
「エリド様。」
「うゆ?」
なんかシンプルかつ煌びやかな吸血鬼の男性がいつの間にかメイドの後ろに立っていた。
ザ・ヴァンパイアと言った感じの風貌に明らかに格が違うな。
身体が危険信号を鳴らしている。
震えが止まらない。そして、よだれも止まらない。
「ほう、この私を見てすぐさま格の違いを見抜いておきながら私の血の香りに食欲を抜き出しにするなんて我が息子ながら末恐ろしいね。」
飲みたなぁ〜でも、無理だな。
あれは飲んだらダメだ。前世言うフグの変わらない。
ちゃんと処理しないと死ぬけど文字通り天に昇るほどの美味しさをしている。
産まれてすぐに最後の晩餐になるのは嫌だな。
それに自分の力も把握してきた。
と言うより寝起きで脳が働いてなかったって言う方が正しいな。
「・・・・ぁ、あ、うん、問題なし。初めまして?で良いのかな?お父様。」
「これは驚いた。私の子供でも赤ん坊が記憶の転写を使えるなんて前代未聞だな。」
記憶の転写
吸血鬼に備わる一般的な能力の一つであり血を吸った相手の記憶を読み取り己のものにできる能力である。
だから、この吸血鬼が自分の父親であり、吸血鬼の王である事も知っている。
名前も・・・
「うぎぁ!」
考え事していたのにいつの間にか目の前にいた父に足で小突かれた。
ちょっと小突かれただけなのに壁まで吹き飛んでいた。
流石、吸血鬼の王。
小突くだけでも威力が違う。
まぁ、それはこっちも王の子だ。ダメージはあまりないが、痛いもんは痛いんだけど。
「いきなり何?俺を殺したいの?」
「安心しろ。普通の赤ん坊なら私に小突かれただけで爆散して死ぬ。」
今頃、壁のシミだ。と怖い事を言う父にえぇ、選別でもしてるのか?と思っていた。
あぁ、このメイドの記憶には小突かれた理由は載ってないな。
己のものになると言っても思い出す作業が必要だから。時間がかかるな。速読でも覚えるか。
「記憶の読み取りでも混乱しないんだな。」
「・・・あぁ、自分が自分なのか、分からなくなる自我統合症の事?そんなの自分の記憶に他人の記憶を混ぜ込むから起こる症状でしょう。」
自我統合症
未熟な吸血鬼によく起こる症状であり、自分が自分なのか分からなくなるものであり、重症者になると性格が永遠に変わる事や顔が無意識に変化させてしまうらしい。
ただ、これには対処法がある。
一つは血を吸う時に能力をオフにして記憶を写さない。
もう一つは血を吸う時に記憶の転写を少ししかしないで段々と能力に慣れさせる方法である。
前者では一生成長しない為、何らかの理由がない限り後者が選ばれるのである。
自分の場合、記憶の転写のイメージは本である。
その相手の生涯が綴られた本を手に入れる感じである。
「それをするのに常人なら一年はかかる上、完璧な転写は高等技術とされているが、産まれたてで習得しているとはな。今の所、私の子でお前だけだ。」
「それは光栄なのか?こんな事も出来ていないかった出来の悪い兄か、姉の事を憐れんだ方が良いのか迷いますね。」
自分としては呼吸と同レベルのことが高等なんて言われても馬鹿にされている気分な為、あまり嬉しくなかった。
逆にお前らは哺乳類なのに肺呼吸もまともに出来ないのかと呆れそうになる。
「あの阿婆擦れの能力も受け継いでいる様だな。」
「サキュバスの事?・・・今度、食事は知識が豊富な人がいい。このメイド、サキュバスの知識がほぼない。能力って何?」
知識がないのに何で阿婆擦れ=サキュバスと分かったのか。それは受け継いだという言葉から容易に推測できる。
王に仕えるメイドだから。一般教養程度は備わっている。サキュバスの能力に関する知識はなくてもこれから世話する俺の知識は備わっていた。
自分の母親はサキュバスの女王である事は知識に載っていた。
「それにしても
「自分から蔑称を言うんだな。」
「蔑称なんて蔑称だと思うから。蔑称になる。自分は呼びやすいしこっちで良い。蔑称だろうと、なかろうと、侮蔑する奴は侮蔑する。言葉より気持ちが大事。」
キメラは蔑称らしいけどそんな事に自分は興味はない。
そんな事を気にするならもっと違う事を気にしろって話だ。
そんな事は心底どうでも良い。
「そうか、私もどうでも良い。あの阿婆擦れの血を引いていても我が子には変わりない。力を示せば当主の座も夢ではない。」
「当主・・・ね。今の所、美味い血が呑めればどうでも良いかな。」
「お前の気にしているサキュバスの力は幾つかあるが、一番有名なのがエナジードレイン。」
エナジードレイン
相手の精気を吸って己の力に変換する能力であり、素の身体能力の底上げをする力だ。
だから、昔はサキュバスに吸われた者は力を失うと言われていた。
治療と療養をしたらそんな事は起きないが、生きて帰った者も少ない上に帰ってきても衰弱して死ぬか、精神崩壊を起こしているかである。
長らく信じられていた説だった。
「その赤ん坊にしてはあり得ない力はエナジードレインだろう。混血によって能力が変化したのだろう。他の混血種にも見られた現象だ。精気ではなく血を己の力に変化させるのだろう。素晴らしい能力だ。」
嬉しそうに言っている父親からこれまでの失敗作にストレスを感じていたのかな?
俺も処分されない様にしないとな。
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