第63話:途中参戦
イツキもナナも綺麗で無駄のない打ち方のため、普段スロットを打つことがない人も多くいるプールのゲームセンターではやや浮いて見えた。
100円、200円、300円、、打ち始めてしばらく経つも、2台とも当たらず、特に大きなチャンスもなかった。ただ、当たらなくてもイツキはこうしてナナと旧機種を打っているだけで大満足だった。
「ふふっ、、笑」
イツキの台をチラ見したナナが突如優しく吹き出すように笑った。
「なにかありました?」
特に演出があったわけでもないので、イツキは不思議に思った。
「だって、みてよっ! 2人とも水着でスロットしてんのっ!笑 冷静になってみると、この状況やばくないっ!?」
「……た、たしかに、そうですね。笑」
ナナはニコニコと楽しそうに笑いながら言ったが、イツキはハッとこのやばい状況に気づいた。旧機種に夢中だったが、隣には自分の選んだ水着を着用して肌を露出しまくっているナナが座っている。一度意識すると、もうダメだった。スロットに夢中なのか、ナナ(水着ver)に夢中なのか、イツキにはもうよくわからなくなっていた。
「ナナさんも、来てたんですね。」
相変わらずどちらも当てられずにいる中、2人の後ろで声がした。
「え?! 江奈ちゃんっ!!」
「ども。」
そこには、イツキやナナと同じくグループから一時離脱した江奈が後ろに立っていた。
「えー、まじびっくりっ!! なに、イツキたちと一緒にきてたのっ? さっき会った時、いたっ!?」
「い、いえ。あたしは友達と。ナナさんもお友達とですか?」
自分もスタイルがいいが、振り返ったナナの水着姿があまりに可愛くて綺麗だったので、江奈は少しばかり驚いてしまった。
「そかそかっ! わたしも友達とっ! ってことは、まじで3グループがたまたまこの日に重なったんだっ! どんな確率だよっ! しかも、この3人は結局スロットにきちゃってるしっ!」
「ほんとですね!笑」
江奈はナナとの会話を続けながらも、ナナの水着姿からイツキの打っているスロット台に目を移し、それがまだ当たっていないことを確認した。
「センパーイ! とりあえず、センパイより先に当てれば、アイス買ってもらえるんですよね?」
「……ま、まぁ、そうだけど。なんで勝負のこと知ってるんだ? 江奈、、さては結構前から近くにいたな?笑」
「はい! わりと前からいましたよ! すぐに声をかけようと思ったのですが、なにやら面白そうな勝負が始まったので、後ろからちょっと見てたんですよ!笑」
江奈はそう言いながら、さっきまで大学生が打っていた台のデータパネルを確認した。データパネルといっても、パチンコ屋にあるような本格的なものではなく、今日の当たり回数と現在の回転数くらいが見られるような非常に簡易的なものだった。
空いている3台を吟味した結果、ゆっくりと1台に腰を下ろし、100円を投入した。江奈が選んだのは、"ニャー・ニャルサー"というネコがモチーフの台であった。いまでも、パチンコ屋には後継機がある歴史の長い台だ。
イツキとナナは、心の中で、"なんか、江奈当てそう…"という予感がした。この類の予感というものは不思議なもので、1ミリも根拠などないのだが、なぜかよく的中するのだ。実際のパチンコ屋でもこういうことはよく起こる。
こっちは朝から食らい付いて打っているというのに、ろくな当たりに恵まれずちょっと萎えてきたところで、ずっと空いていた隣の台にすっと人が座る。その瞬間、"なんか、すぐ当てそう…"という予感が頭をよぎる。そして案の定、10分かそこらで本当に当たってしまうという、よくわからない現象だ。
<しゃかしゃか!>
<にゃっ!>
<WIN!>
そして、今回も2人の予感は的中し、江奈はたったの100円で見事"ニャーニャーランプ"を点灯させ、一番ノリで当たりを引いてみせた。
「センパーイ? アイス、ごちですー!!」
江奈は、ニヤ〜ッとした表情で、これでもかというくらいイツキにどやった。
「江奈、まじか…! しょうがないなぁ…。」
「江奈ちゃんっ! やっぱすごいっ!! ガチでビビったんだけどっ! まだ5分も経ってないよっ? ゲームセンターでも江奈ちゃんのハイエナは健在じゃんっ! てか、なんでなんでっ? なんで、そんなに軽々当てちゃうのっ!?」
「いまのは、、本当にたまたまですっ!」
江奈は目を細めてにこっと笑った。3台という限られた台数、特に参考にはならないデータ。江奈の当たりは本当にたまたまに近いのだろうが、こういう状況下でもちゃんと当たりを引けるかどうかというのは、勝負師として大事な要素だ。
「じゃあー、時間も経ったし、みんなでアイスでも食べよっかっ!!」
イツキとナナの台がなかなか当たらないのと、勝者が決定したこともあって、3人は席を立ちカフェテリアへと移動した。
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