p ふたりの恋の確率変動 ~確定演出は出てないけど、内部的には当たってますよね？~

第62話：プールでスロット

　ナナや江奈と遭遇する場所がパチンコ屋ならわかるのだが、まさかプールで会うとは思わなかった…。慣れない場所だったり、水着だったりすると、やっぱり気を遣うなぁ、とイツキは偶然の出会いを思い出しながら、一息ついた。

　スライダーで再び濡れた体が、からからと乾いていく感じがどことなく気持ちよかった。普段、日光と無縁な白い肌はすでに赤くなりかけていた。イツキにとって、ここが慣れない場所であることに変わりはないが、目の前を行き交う楽しそうな友人グループ、カップル、子連れの家族を見ていると、こういう夏も悪くないもんだなという気持ちになった。

　しばらくして、体力と気力が回復したイツキはせっかくだからとあたりをうろついた。すると、水着のまま入れる屋内ゲームセンターなるものがイツキの目に入った。パチンカーという生き物は、ゲームセンターやダーツバーといったパチンコ屋と同じ匂いがするところを自然と好む傾向がある。

　イツキも気づいたら、足がゲームセンターを目指していた。ゲーセン内は主にUFOキャッチャーやガシャポンで占められていた。流行りのアニメフィギュアやかわいいキャラクターのタイアップグッズ、巨大な箱に入ったお菓子などが景品となっており、幅広い年代の人たちで賑わっていた。ナナにアニメの楽しさを教えてもらったものの、まだそれほどたくさんのコンテンツを見ていないイツキには、景品になっているアニメが何かまではイマイチわからなかった。

　ただ、居心地がいいことには変わりないので、イツキはゲーセン内を一通り散策した。すると、端っこの方に気になるスペースを発見した。スロットマシーンだ！それも、パチンコ屋にあるスロットマシーンだった。イツキは思わず、足早で当コーナーを目指した。

　近づいてみると、そこにはパチンコ屋での稼働を引退したスロットマシーンが５台ほど置いてあり、若者２人が楽しそうに遊戯をしていた。少し前まではパチンコ屋に普通に置いてあった機種。それが現役引退してなお、ゲーセンの隅ではあるが、いまでも人々を楽しませている。少しくたびれているその台に触れると、多少うらぶれど元気にやっている古き友に再開したような気がして、イツキはじーんと胸が熱くなった。

　錆びた椅子に腰掛けてよく見てみると、１００円でパチンコ屋さんで言うところの１０００円分遊べるようで、獲得枚数によってゲームセンターが用意している景品と交換できるようだった。どんな景品がもらえるかはそっちのけで、イツキは少し遊んでみようと首からぶら下げているコインケースに手を伸ばした。

「あっ！！　イツキっ！！　こんなところにっ！！」

「…！！　ナナさん！」

　急に名前を呼ばれたイツキがびくっとして振り返ると、笑顔のナナが後ろに立っていた。ナナは水着姿のままだったが、イツキと同じく体は乾いていた。いつものナナの匂いにプールの匂いが加わっており、どきどきするような香りがした。

「あれ？　彩乃さんと麻呂さんは？」

「２人は流れるプールでまったりと流れてるっ！！　わたしはちょっと暑さに参っちゃって、休憩してたら、こんなとこ見つけちゃった感じっ！」

「プールにきても、スロットは気になりますよね！」

「あははっ、ほんとそれっ！笑　てかっ、こんなとこにあるのまじウケるんだけどっ！」

「ですよね！　僕も自然とここにやってきてしまいました。笑」

「よしっ、イツキっ！　勝負しようっ！」

「そうくる気がしました！笑　ナナさん、勝負好きですからね。」

「先に当てた人が勝ちで、負けた方が売店でアイスをご馳走する！　夏らしくて、ありくないっ？」

「よーしっ！　いいですよ！」

　もう実機には触れられないと思っていた旧機種で遊べるだけで嬉しかったが、ナナとのアイスをかけた勝負にも発展し、イツキは今日イチ高まっていた。

　１００円硬貨を投入すると、メダルが出る代わりに、デジタル表記でメダルがチャージされた。最近は、実際のパチンコ屋でも、リアルなメダルを使用せずデジタルで完結するスマートスロット（スマスロ）の導入が進んでいるが、まさにそのような感じだった。

「昔の機種なのに、なんか"スマスロ"っぽいですね！」

「まじだっ！　なんかウケるっ！　もはや、逆に新しいっ！笑　よーしっ！　スタートっ！」

　ナナの掛け声を合図に２人は遊戯を開始した。