第47話:知って、どうすんの?
ナナから良い反応をもらえて、イツキは相当嬉しかったのだろう。会計時に、店員さんにタグをとってもらうようにお願いすると、再び試着室に入っていた。
「ナナさん、今日は早速この服装で過ごしますね!」
再び試着室から出てきたイツキは買ったばかりのパンツとジャケットを身にまとい、嬉しそうな顔で笑った。
(やばっ!なにこれっ! イツキにしては攻めてくるじゃんっ! ちょっと待って、なんかわたしが緊張してきたんですけどっ……。)
ナナは全身の体温が熱くなるのを感じたが、「あははっ、どんだけ気に入ったんだよっ!笑」と顔が火照っているのをなんとか誤魔化した。
イツキは服選びがこんなに楽しいものだとは思わなかった。トイレに入ったとき、ふと鏡に映った自分は、今朝家の鏡に映っていた自分より遥かにかっこよく見えたし、顔つきだっていくらか自信があるように見えた。3時間ほど経つころには、何パターンかのコーディネートができるくらいには、服を購入することができていた。
「ナナさんは、男モノも知識があって、すごくいい感じに選べるんですね! 1人だったら絶対困っていたので、すごく助かりました。」
「まぁねっ! なんだかんだファッションは好きだからさっ!」
2人はエスカレーターでメンズフロアから降り始めた。
「その、あれですね。ナナさんの彼氏さんは、いいですね。」
イツキは心の中でそう思ったつもりが、買い物疲れで気が抜けてしまっていたのか、"彼氏"という出過ぎた話題をついうっかり口に出してしまった。
「ん〜、彼氏ね〜。」
ナナが何か思うところがあるように空気多めな声でつぶやいたのを聞いて、イツキはしまった…!と思った。
「あ、いやっ、スミマセン…! つい余計なことを言ってしまいました。ナナさんは美人ですし、性格もいいので、普通に彼氏いるだろうなと…。大意はないです!!」
一緒にいる時間が長くなったせいで、つい油断してしまった。すぐに軌道修正しなくては、とイツキは焦った。
「ふーん。でも、そういうのって、案外わかんないものだよーっ?」
ナナはイツキをからかうように笑ってみせた。
話題の軌道修正をしようと思ったイツキだったが、ナナに彼氏がいるか否かが気になるのも事実だった。なにせ、2人でパチンコを打ったこともあるし、今日はこうして買い物をしている。今日はパチ友になったお礼という一応の体裁はあるが、もしナナに彼氏がいた場合、彼氏からすればそんなの知ったこっちゃないだろう。
いや、もしも彼氏がいたらどう思われるかなんて、そんな理由は言い訳であり、ナナには彼氏がいるのか、いないのか、イツキはもっと単純に知りたかった。でも、変な風には思われたくない。そう悩んでいるイツキの背中を押したのは、エスカレーターの対面にある鏡に映った自分だった。さっき購入して既に着用しているジャケットと人生で一番決まった髪。うん、今日なら聞ける。イツキはそう思った。
「ちなみに、ナナさんは彼氏いるんですか……?」
「…………」
少し間をおいたナナは、エスカレーターの前にいるイツキの耳元に近づいて、息を吹きかけるような強さの声でつぶやいた。
「知って、どうすんのっ?」
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