第31話:織姫と六等星
「さぁっ!今年も始まりました!! みなさんお待ちかね。"赤保ミスター・ミスコンテスト"!!! 本日は一体誰が、我ら赤保大学の彦星・織姫になるのか!? 準備はいいですか? では、いきましょう!! "赤保ミスター・ミスコンテスト"、開幕!!!」
大講堂の照明が落ち、ステージに上がった司会が開会を宣言すると、会場からは割れんばかりの拍手と出場者の名を叫ぶコールが起こった。
ギリギリに会場に駆け込んだイツキと尚也は講堂の後ろの方にポジションをとったが、会場の熱気を前に、やはり、自分が来る場所ではなかったのでは?とイツキは早くも少し後悔した。
「では、早速いってみましょう!! ミスター部門、エントリーナンバーワン!!」
「一度見ただけで癖になる、やみつきベビーフェイスとは彼のこと!! 甘い見た目とは裏腹に、そのキャラクターはクールで紳士的。その上、知的で常に成績上位!! 文学部2年、いのうえーー、ゆうじーー!!」
"いのうえくーん!!"
"ゆうじ、いいぞーー!!"
"きゃーっ!!"
大講堂内はミスコン専用の会場に様変わりしており、メインステージから講堂中央に長いランウェイが伸びていた。これだけ人が見ている中、背筋を伸ばし手を振りながら堂々とこのランウェイを歩ける人たちのことをイツキは心からすごいと思うと同時に、やはり自分とは住む世界が違う人たちだとも思った。
次々に出場者が出てきては、みんな華麗にランウェイを歩いてゆく。普段は見ることができない甚兵衛と浴衣姿というのもあり、もはや色が視認できるのではないかと思うほどの、黄色い声援というやつが会場を満たしていた。
「さぁ、お次がいよいよ最後の1人となりました。もったいぶらずにいっちゃいましょう! ミス部門、エントリーナンバーセブン!!」
熱気とスポットライトの独特の匂いで少々くらっときていたイツキであったが、慣れないながらせっかく見にきたのだし、ナナのことを心の中だけででも応援しようと真剣な眼差しをステージに向けた。
「キャンパスですれ違えば、7度見は確定! 男女関係なく元気になってしまう笑顔、そして抜群なスタイル! 今後の活躍にも一時とて目が離せない! 経済学部3年。きっと、赤保大学でこの名を知らない人はいないはず! みつはしーー、ななーー!!」
やや贔屓目の紹介と同時にスポットライトが集まったメインステージに、上品な下駄の音を響かせながらナナが登場した。これまでは出場者が登場するタイミングで歓声が上がるのだが、この時、会場は一瞬静まり返った。
ナナがあまりに綺麗すぎたため、会場全体が一斉に息を飲んだのだった。紺色ベースに青や紫の花柄をあしらったシンプルな浴衣。大きめの花を使用した髪飾りでまとめられた髪。綺麗な歩き方と立ち姿。シンプルゆえに、ナナそのものの綺麗さが一段と際立っていた。何かを言うには語彙が足りず、何かを叫ぼうにもナナのオーラの前に声が出ない。
一瞬の静けさの後、
"うぉっーーーー!!!!!!!"
"せーの、ナナーー、かわいいーーー!!"
"ナナさーん、こっち向いてー!!"
ナナは手を振りながら、ランウェイをゆっくり歩いた。イツキも他の人と同じく、本当に綺麗で可憐で可愛いと思った。キラキラとしたその姿はまるでエフェクトをかけたかのようで、ただならぬオーラを身に纏っていた。ただ、イツキはそう思えば思うほどに、わかってはいたけれどやはりナナを遠くに感じてしまった。
一方、ステージを歩くナナは、思いのほか会場にいる人の顔がはっきりわかることに驚いた。先生が、教室の一番前の席より遠い席の生徒の居眠りに気がつくように、ランウェイの近くより会場の奥にいる人の方が目に入りやすいことにも気づいた。そして、そこにはイツキがぽつんと立っているのが見えた。
(あっ!なんだかんだ言って、ちゃんとイツキもミスコン来てくれてんじゃんっ!!)
嬉しくなったナナは、イツキの方に向かって笑顔で手を振った。ただ、まさか自分に手を振るわけがないと思ったイツキは、一瞬ナナと目があったかも?と思っただけで、どうすればいいかわからず思わず下を向いてしまった。
スポットライトと歓声が集まる派手なランウェイとは対局に、イツキが視線を落とした講堂の床はまるで底がないかのようにどこまでも暗く、素直に手を振り返せなかった自分を惨めに思った。
満場一致とはまさにこのことを言うのだろう。コンテストの結果は言わずもがな。"ミス赤保"のティアラを頭に乗せたナナは再びステージに登場すると、みんなに感謝を述べた。
スポットライトを浴びているナナは誰が見たって間違いなく"織姫"よりも輝いている。それに比べて端っこの暗闇にいる自分は"六等星"よりも光が少ないようにイツキには思えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます