第25話:学食の人だかり

 翌日もこの時期にしてはめずらしく良く晴れた日だった。昨日やり損ねた洗濯物ができたからか、それとも昨日が楽しかったからか、気分の良いイツキは授業は午後からだというのに、午前中から大学へと向かった。


「イツキじゃん、うっすー! こんな時間から大学いるなんて、めずらしーじゃんよ! さては、抽選がよっぽどダメだったか?笑」


 午前中の大学に出現したレアなイツキに声をかけたのは、イツキと同じゼミに所属する友人の"尚也なおや"だった。2人は統計やデータ、確率といった分野を扱うゼミに所属していた。


 狭く深くというイツキの交友関係の中でも、尚也は結構仲の良い方である。それもそのはず、尚也もパチンコをやるのである。


 ただ、尚也はパチンコにものすごく精通しているというより、競馬や競艇といった国営モノからポーカーやブラックジャックといったカジノゲームまでギャンブル全般を好んでおり、また研究の対象にもしていた。


「パチンコ熱心なのもいいけどさ、もうちょい大学生っぽい感じも楽しめって!笑」


 服装にもある程度気を遣い、今どきの男子大学生らしい格好をしている尚也は、"相変わらずだな"という感じでイツキの肩を軽く叩いた。


「よっ、尚也! でもさ、パチンコも十分大学生らしくない?」


「いや、まぁ、そうだけどさ! でも、他にこう、なんかあるじゃん? 恋とか、BBQとか、飲み会とか、恋とか、競馬とか競艇とか。」


「尚也も最後はギャンブルじゃん!笑」


 今度は、イツキが尚也の肩を叩きながらツッコんだ。


「ばれたっ?笑 結局、ギャンブルは強いんだよな!笑 そうだ!午後のゼミまで時間あるし、せっかくだから飯でもいかねー?」


 今すぐにできる大学生らしいことのひとつとして、尚也はイツキを学食へ誘った。


「そだな! 早めの昼ご飯でも食べますか!」


 最近の尚也のギャンブル戦績も知りたいイツキは誘いに乗り、2人は学食へと向かった。早めのとはいえ昼時が近く混雑する学食でなんとか席を見つけ、ご飯を食べ出すと、イツキは向こうの方で人だかりができているのが目についた。


「まーた、やってるよ。笑 みんな懲りずによくやるよなー。」


 尚也が人だかりを見て、やれやれという顔でぼそっと言った。


「え? なにが?」


 なんのことかさっぱり分からないイツキは、不思議そうな顔で尚也が眺める人だかりにもう一度目をやった。


「そっか、、お前めったに学食いかねーから、知らないのか。ほら、あそこの奥の方に結構目立つ3人組の女子がいるっしょ?」


 尚也は人だかりの方を軽く指差しながら、話を続けた。


「あの3人組、特に真ん中にいる茶髪の子がかなり人気で、いつもどっかの男子がやれ飲み会に誘ったり、連絡先聞きにいったりしてるんだけど、とことん玉砕するわけよ。んで、もはや学食におけるイベントみたいになってるってわけ。そりゃ、3人とも美人なのはわかるけど、美人すぎてなかなか釣り合う人いねーだろ。っていうね。笑 ほら、今日も散った散った。笑」


 今日のチャレンジャーもどうやら見事に玉砕したらしい。人だかりがさーっと引いていく様子を尚也は相変わらずやれやれといった表情で見ていた。


「ふーん、なんだそんなことか。」と指さされた光景をしっかりと見たイツキは、思わず目を丸くした。


「ナナさんっ!!! …っぐ、えほっ!!」


 イツキはあまりに驚き、食べていた味噌ラーメンは変なところに入り、盛大にむせ返ってしまった。

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