p ふたりの恋の確率変動 ~確定演出は出てないけど、内部的には当たってますよね?~

ミズ

第1章:大学一のモデル美女はパチンカー

第1話:大学一の美女はパチンカー

 ゆるいパーマのかかった明るい茶髪のハーフアップ。大きな目に小さい顔。ノーメイクでも十分に美人だが、そこはさすがの女子大生。メイクもばっちりキマっている。細身のスタイルはモデル並み。というか、実際に人気の読者モデル。


 ファッションセンスも抜群で、ただの"上品なギャル"という言葉で終えるには申し訳ない。不易流行ふえきりゅうこうを組み合わせたそのルックは、可愛さとセクシーさをより高みへと押し上げていた。


 それでいて、性格も気さく、元気、ポジティブの三拍子。そのため、人間磁石のように自然と周りから人が集まってくる。すれ違おうものなら、それが男女どちらであっても、最低二度は振り返られずにはいられない。


 学内で彼女を知らぬ者はきっといない。誰もが憧れる大学一の有名美女。それが三ツ橋みつはし ナナ(大学3年生)だった。


 そんなナナには、誰にも言っていない"秘密"があった。言っていないというより、言えないに近いかもしれない。そして、その秘密は夕暮れ時のパチンコ屋を覗くと垣間見ることができた。


「くーーーっ!!!」

「アツアツの保留ほりゅう入りましたーっ!」

「よしよしよしっ、先読さきよみもきたきたーっ!!」

擬似3ぎじさんからの赤カットイン!」

「これはいけちゃうんじゃないのーっ!?」

「って! 7テンじゃん!(7テン:7図柄でのリーチ。この時点で当たり濃厚。)」

「いやっ、まじか!ここで7テンとか、わたし天才かって!!」


 <きゅぴーーーん!!!ずごーん!ばばばーん!>

 <てぃるり、てぃるり、きききーーーんんん!!!!>


「おっしゃー!! 当たったーっ!! そう!そう!そう! この瞬間のために打ってるっ! いや、生きていると言っても過言じゃないっ!!」


 心の声がダダ漏れになっているナナはパチンコ台に映るキャラクターを幸せそうに眺めつつ、ポケットからスマホを取り出すと、何枚撮るんだという勢いでパシャパシャと連写をかました。


「なにこれ、もう可愛すぎて無理なんですけどーっ!! もはや、このままこの台持って帰りたいし…! あー、まじで神台かみだいすぎるっ!!」


 そう…。ナナは生粋きっすいのパチンカー(+アニメ大好き)であった。しかし、彼女のパチンコの腕はなかなかに"ひどい"ものであった。


 パチンコ・スロットといえば、釘読みや設定推測、台のスペック、お店の癖など、勝つためには気にするポイントがいくらでも出てくるものだが、ナナはそういったことを一切知らなかった。というか、あまり気にしていなかった。


 ゆえに、なかなか当てられない、当ててもしょぼい当たり。やめ時にいたっては、なんとなく飽きた時、といった具合。この日も当たるまでに結構な時間とお金を要したのだが、せっかくの当たりは長続きせず、投資分を全くまくれずに実践は終了した。


 しかし、ナナは打てればそこそこ満足、しょぼくても当たれば大満足であった。なぜなら、ナナにとっては"勝った/負けた"は二の次、三の次。大好きなアニメを大好きなパチンコで体感する、そのこと自体を愛しているからだ。


 ただ、ナナにとって愛していると言えるほどのパチンコであるが、大学やバイト先、そしてモデルの撮影現場において、パチンコを打っていることをナナは一切口にはしていなかった……。

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