第21話 ペン子、人間の国に行くことを決意する

「ペン子様は、行く当てがないのですよね? でしたら、私たちの国に来てはいかがでしょう?」


 ひと通りペン子が話し終えた後、唐突にフィエナから提案される。


「フィエナ達の国に?」

「はい。先ほども申し上げたとおり、ここから東にある、レスターナ大陸にある国です。きっと気に入っていただけると思いますわ」


 東海域を超えた先にある大陸。

 ペン子にとって、それは正真正銘、未知の世界だった。


「でも、私みたいなのがいきなり行っても良いのかな。お金とか持ってないんだけど」

「ご心配なさらず。必要な物があれば、こちらでご用意いたしますわ。滞在期間もお好きに決めていただいたので構いません」


 そんな破格の条件を付けくわえながら、フィエナは続ける。


「それに、何と言っても、ペン子様は私たちの命の恩人ですもの。ここで無下にすれば、それこそ神の天罰が下るというものですわ」


 彼女にどういった意図があって、この提案をしてくれているのかは分からない。

 だが、正直なところ、行く当てがないペン子にとっては、彼女の提案は魅力的な話だった。

 真意がどうあれ、すでに心は決まっていた。


「じゃあ、お願いできるかな? 私、人間たちの国がどんなものなのか、見てみたい!」

「良かった、決まりですわね!」


 フィエナはペン子の手を取って、素直に喜んだ表情を見せる。


「アヴェンスも、それで構いませんね?」

「ま、いいんじゃないですかね」


 そんな彼女の提案に対して、特に考える素振りもなく、あっさりと認めるアヴェンス。

 反対意見もなく認められたことが意外だったのか、フィエナは驚いた表情を浮かべながら、再確認する。


「あら。てっきり、反対されるかと思いましたわ」

「ペン子が何者かは置いといて、クラーケンを倒せるほどの実力を持っている子ですよ? この子がいてくれるだけで、我々の生存確率がグンと上がるのは間違いない。何より、俺が体張って戦う機会も減るでしょうから、俺も賛成ですよ」

「まったく、素直じゃありませんね」

「それに、俺の大事な剣を海の肥やしにした落とし前は、働いて返してもらわないと」

「隊長、意外と根に持っていたのですね」

「当たり前です! あの剣、どんだけ高かったと思ってるんですか……」

「世界平和のための犠牲と思えば、あれくらい安いものですよ」


 唇を尖らせながら愚痴をこぼすアヴェンスを受け流しつつ、フィエナはこちらを向き直る。


「ともかく、ペン子様とはこれから長い付き合いになりそうですね」

「うんっ! よろしくね、二人とも!」


 かくして、次の行き先が決まったのであった。

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