第20話 ペン子、経緯を話す

「うーん、美味しい!これも、これもっ!」


 香ばしい匂いが室内を漂う中。

 ペン子はテーブルに並べられた料理を次々と素手で口に運びながら、幸せそうに頬を緩ませる。

 氷山島にいた頃では決して味わうことが出来なかった、未知の料理の虜になっていた。


「ふふっ、お口に合って何よりですわ」


 そんな夢中になって頬張りつくペン子を見ながら、フィエナは嬉しそうな表情を浮かべる。

 眺めているだけでも楽しいのか、自身の食事に手を付けるのも忘れて、見入っている。

 

「……食べるのは別に構わないんだが、そろそろ本題に戻らないか?」


 それとは対照的に、彼女の横で顔を引きつらせながら言葉を発したアヴェンスは、先ほどの続きを促す。


「あ、ごめんごめん、つい食べるのに夢中になっちゃった」


 指摘されたペン子は一旦手を止め、ここに至るまでの経緯を話した。

 幼い頃に養父に拾われ、氷山島で育ったこと。

 他のペンギンより劣っていたせいで、島を出ることになったこと。

 そして、一人前のペンギンとして認められるため旅をしていることを――。


~~~


「そんな……そんなの、あんまりですわ……」


 テーブルの向かい側に座るフィエナが、手に持ったフォークを小刻みに震わせ、到底納得できないといった様子で呟く。

 先ほどまでほがらかだった空気が、張り詰めていく。

 僅かな振動により生じる食器の触れ合う音が、妙に耳に響いた。


「え? どうしてそう思うの?」

「だって、酷いじゃありませんか、そんな理由で島から追い出すなんて! ペン子様は何も悪いことをしておりませんのに!」

「う~ん、私が皆よりダメなペンギンだってことは、自分でも良く分かっていることだしなぁ」

「だからと言って、上に立つものであれば、そこに住まう民を守るのは当然の責務。そのような愚行、許されることではありませんわ!」


 珍しく憤りの感情を乗せて、フィエナがまくし立てる。

 同じ民を導く立場の者として、何か思うところがあるのだろう。


「まあ、いきなり島を出るように言われた時はどうしようかなーって戸惑とまどったけど、族長も私のことを考えて外の世界に送り出したんだって思うんだ」

「話を聞く限りじゃ、厄介者を追い出したようにしか聞こえないがな」


 そんな二人のやり取りをしばらく黙りこんで聞いていたアヴェンスが、口を挟む。


「そんなことないよ。族長って、頑固で口うるさいけど、誰よりも島の皆のことを考えてくれているペンギンなんだよ?」

「でも、ペンギンとして認められていないお前さんは、その対象外かもしれないんじゃないか。騙されているとは思わないのか」

「たとえそうだったとしても、その時はその時じゃないかな。疑ってもしょうがないよ」

「お人よしというかなんというか……苦労しそうな生き方だな」

「そうかな? 信じて裏切られるよりも、疑って生きる方がよっぽど辛いよ、きっと」


 ペン子はアヴェンスの言葉を全く気にせず、自分の考えを述べる。

 今まで他人を疑うということをしてこなかったペン子にとっては、当たり前以外の何物でもなかったのだ。


「……強いんですね、ペン子様は」

「強い……かどうかはよく分からないけど、私は自分で見たこと、感じたことを信じてるだけだから。それに……」

「それに?」

「ペンギン族の掟その8。『鳥に頼るな、己で泳げ』。外の世界に触れて学べることはいっぱいあると思ってるから、ちょうど良かったって思ってるんだ!」


 きっかけは何であれ。

 ずっと外の世界を見てみたいと思っていたペン子からしてみれば、遅かれ早かれ結果には違いなかった。

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