第16話 ペン子、王女の目覚めを待つ

 ここは巨大なクジラ……ではなく、セントマリン号という船の一室。

 他の船室と比べると、可愛らしい装飾や大きなぬいぐるみなどが置かれており、年相応の少女を思わせる部屋だ。

 壁の窓からは見渡す限りの碧海が広がり、水面に反射する陽光が朝の終わりを告げていた。

 そんな中、倒れ込んだ少女が早く目覚めないものかと、ペン子は何度も顔を覗き込んでいた。


「…………うーん……」


 人の気配を感じ取ったのか、ふかふかのベッドに寝かされていたフィエナが小さな唸り声を上げながら、ゆっくりと目を覚ます。


「あ、気が付いたみたいだよっ!」


 目覚めるのをずっと待っていたペン子は、彼女を出迎えるかのように、明るい声で呼びかける。


「ここは……」


 未だ覚醒しきっていないフィエナは、ぼんやりと天井を眺め続けながら、自身の置かれた状況を尋ねる。


「フィエナ様のお部屋です。クラーケンとの戦いの直後、倒れたフィエナ様に治療を施したのち、こちらへと運びました」


 すると、かたわらで壁に背中を預けていたアヴェンスが、今の状況を簡潔に説明する。

 それを聞いたフィエナは、自身のおでこに右手を当て、記憶を呼び起こそうとする。


「そう……そうでしたわね……ご迷惑をお掛けしましたわ」

「無理もありません。あれだけ加護を使用したのですから、その代償でしょう。むしろ、これくらいで済んで良かったと考えるべきです」


 特に気にする必要はないと言われつつも、あまり納得していない様子でうつむくフィエナ。

 そんな彼女に対して、ペン子は気さくに話しかける。


「大丈夫? 痛いところとか、ない?」

「ええ、問題ありませんわ」

「そっか、よかったぁ! 怪我はなさそうだったけど、ずっと目を覚まさないから、心配してたんだ!」


 思ったよりも元気そうな彼女の返事に、ペン子はまるで自分のことのように喜びの声を上げる。

 その無邪気な喜びっぷりに、つられて微笑むフィエナ。

 上半身を起こし、布団から出した足を床に下ろしてベッドに腰掛ける。


「ご心配をおかけしました、私ならもう大丈夫ですわ」

「いーのいーのっ! 気にしないでよっ!」

「さて、と。それじゃあ、王女様もお目覚めになったことだし、そろそろ聞かせてもらおうか」


 壁に寄りかかっていた体を跳ねるように起こすと、アヴェンスはペン子を見据える。


「ペン子。君は一体、何者なんだ?」

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