第4話 ペン子、魔物と遭遇する
状況を確認するため、ペン子は海中の奥深くまで潜り込む。
素早く戦場の真下に位置取り、戦うべき相手を見極めることに集中する。
見上げた先には二つの黒い影。
真っ先に目に付いたのは、ゆらゆらと不気味に揺らめく巨影だった。
「きょ、きょきょきょ巨大タコさん!?」
もはや軟体動物の領域を遥かに超えた巨大タコ――クラーケンを見て、ペン子は思わず腰を抜かしそうになる。
小さな島々の集まりを想起させるほどの巨体、長さ10メートル以上はある無数の触手、捕食対象者を一瞬で飲み込むであろう鋭く尖った大きな口。
遭遇者を一瞬で絶望に染め上げるほどの凶悪な姿は、まさに海の悪魔という表現がぴったりだった。
「何食べたらあんなに大きくなるの!?というかもはや肥満だよね!?ちゃんと運動してる!?」
恐怖を通り越しておかしなテンションになりそうになるが、状況の把握を急ぐ。
「でもでも、間違いなくこっちの巨大タコさんが魔物だよね。ということは……」
魔物の正体が分かったところで、もう一つの影に目を向ける。
「……?新種のくじらさん?」
ペン子が振り向いた先には、今までお目にかかったこともない巨大な物体。
一瞬魔物の類かと思ったが、その機械的な動きには生命感がないように見えた。
目を疑うほどに巨大なクラーケンを見た後のため若干迫力には欠けるが、それでもペン子と比べ物にならない大きさなのは一目瞭然だった。
どうやらクジラほどの巨体を誇る何かの上で複数名の生物が陣取り、魔物と交戦しているようであった。
距離が離れているため乗員の姿こそ確認できないが、クラーケンに向かい金属を振り回す音と、透き通る歌唱が聞こえた。
「あれ……なんだろう……」
その聞き慣れないはずの言葉を聞いた瞬間、ペン子はふと自分の中に自分の知らない何かが流れ込むのを感じた。
――なんだろう、この懐かしい感じ。
遠い昔、私、どこかで――
「ギュエエエエエエエエエ!」
ペン子が呆然と
クジラもどきは何とか逃れようと加速するが、徐々に差は縮まっていく。
「今はそんなこと考えてる暇じゃない……!」
ペン子はいったん考えることを辞め、戦闘態勢に入る。
「族長には使うなって言われてたけど、緊急事態だから仕方ないよね……!」
攻撃対象を見据えながら、ペン子は全身に意識を集中させる。
目には見えない、けれど確かにそこにある物質の流れ。
この力が何なのかペン子には分からなかったが、弱い自分が使える貴重な武器、使わない選択肢はなかった。
その未知なる力を自分自身と重ね合わせるように描きながら、全身に光の粒子を纏っていく。
『最大出力……解放』
光を内包しきった彼女はそう呟き、飽和状態となった全身の力の流れをコントロールする。
体全体をゆっくりと曲げながら、上半身から下半身、下半身から両足、そして足先へ。
思わず放出してしまいそうな力を必死に抑えながら、一点収束させることだけに集中する。
そして、光は連鎖するように大きく膨れ上がりながらも、足先へと収束を終える。
準備が整うと同時に、ペン子は精一杯の気合を込めて叫んだ。
『ペンギン流奥義――
その直後。
足先にはち切れんばかりに抑え込まれた光の粒子は弾け飛ぶように放出されると同時に、ペン子の全身に向かって大量の力が流れ込んでくる。
ペン子は逆流した光の粒子を纏いながら、クラーケンの頭を目掛けて、残像を残しながらすさまじい速さで飛び出した。
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