見える二人
猫又大統領
企画読み切り
姉と妹の私は、亡くなった骨董商をしていた親戚のお婆さんの遺品整理をしている最中に、面白いものを見つけた。
お化けだけが映る鏡とても賢い嘘つき、と商品の端にメモが張り付けてある。
姉はそれを見るとニヤリと笑った。今晩近くの廃墟へ試しに行こうよ、そういう姉はお化けを心底軽蔑していていつもその手の話題をゲラゲラ笑いながら楽しむそんな人である。
私たちが遺品の片づけを頼まれたのは、病院へお見舞いに行ったとき、直接頼まれたからだ。
病室を後にする間際、お婆さんから姉は手紙をもらっていた。それが最後。
葬儀の日、人目もはばからず大声で泣く姉の姿は今でも目に焼き付いている。その姿によって姉とお婆さんが深い交流を重ねていたことを知る。あまり社交性のない姉があれだけ懐いていた。二人にしか分からない何かがあったのだろうか。
お婆さんが、何十年も営んでいたお店の商品。
もっとも売れているところは一度も見たことがない。
偶にとても怪しいお客が持ち込む品物は、ひびの入った陶器や育ち盛りの髪をお持ちと噂の日本人形と決断力のない羅針盤など、渋ることなく買い取っているの目撃したこともある。
そのおかげで今、私と姉のいるこのお店は、そこら辺のお化け屋敷よりも雰囲気を漂わせていた。
姉は整理というよりも、知らないおもちゃ箱を発見した子供のように、物色する。
「これも面白い。お化けを撮ることができるデジタルカメラか。準備は整った」
カメラを両手で持ち、この場所にはそぐわない笑顔を振りまく。
私たちは深夜、数か月後に取り壊しなる、近くの廃墟へやってきた。
取り壊しの理由は余りにも有名になり騒音や落書きなどのトラブルが後を絶たなかったからだという。
その影響で最近は見回り多く、パトロールも強化されていて廃墟につくまで、ヘッドライトが見えるたびに身を隠しながら向かう。
「姉さん。お婆さんからの手紙には商品の扱いはどうすればいいか詳しく書いてあった?」
「書いてあったのは私のことだけ。力が強くても優しい心を持たないとだめだと書いてあった。死ぬまで説教だよ。まあ、感謝はしているよ。相談に乗ってくれたりしたし、それに……力の一辺倒が悪いとも思うし」
少し、声が詰まって聞こえた。
肝心の廃墟に着くと姉は私にライトを持たせ、光を頼りにあの鏡で乱れた髪を直す。これが今どき女子だと言わんばかりの図太さを見せつけられた。
姉は髪を整え終わるとカメラで外観を一通り取り終わると、私の顔をみてから入り口を指差し歩き出す。
私は姉の後を恐る恐る付いていく。建物の中はイタズラ書きやゴミが散乱している。これは近隣住民にはたまったものじゃないだろう。
おい、と後ろから声がした。その瞬間、鳥肌が立ち、体はカチコチ。唯一できたことが姉の服を摘まむこと。
「おい? おいじゃねえだろ?」
廃墟にこだまする不機嫌な姉の太い声。なんと頼もしいことでしょうか。
「あ、すみません」
声の主は謝った。これで一件落着。
「いや、お前だれだよ? ここでなにしてんだよ?」
そうだ、姉の言う通りお前はだれだ。こんな夜遅く、それも廃墟に何の用だよ。私は怖くて、声がでない。だけどこれだけはわかる。こちらも何かを言えたもんじゃないんだよ。姉様。
「え、いや俺たちは大学のサークルで」
そいうと男女の四人グループが暗闇から姿を現す。
「あ? 最初っからそういえよ。トラブルになるだろう」
「すいまんせん」
姉はグループに向かってシャッターを切る。
「あ、あの、急にカメラを撮るのは……」
「廃墟に勝手に入っておいて何を言ってんだ!」
姉は自分たちのことは棚に上げて言いたいことをバシバシ言っていく。間違いなく棚上げ日本代表を狙えるクラスだ。
姉は私の持っていた例の鏡を指す。私は手を汗で湿らせながらゆっくりと彼らを映す。
鏡を覗き込むと彼らは映っていない。
「よかった映ってないよ。その人たち人だよ。人」
「人? そうか。 お前ら人だとよ。よかったな。このボンクラ鏡に感謝してくれよ。私たちはもう帰る」
「え、そうなんですか……てっきり……いや、なんでもないです……あの……」
姉はまた舌打ち。何か言いたいことでもあんのか、と太い声で聞く。
「ありがとう……」
その言葉を最後に彼らは奥に歩いて行った。
「お姉ちゃん頼りになるなあ。どうなるかと思った。悪い人たちじゃなくてよかった。お化けより人間のほうが怖いもんね」
「え? 人? まあ、霊なんてみるもんじゃねえよ」
姉はそう言ってクスクスと笑う。
後日、デジカメを確認すると大学生のグループを映した写真のデータだけが消えていた。撮った構図が似たような写真には誰も映っていない。
許可もなく人を撮ったから姉も後から反省して消しだのだろうか。
見える二人 猫又大統領 @arigatou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
どきどき❤心境報告(引きこもり)/猫又大統領
★6 エッセイ・ノンフィクション 連載中 14話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます