花皇旗―雨夜の月、蒼天のさくら-
あんころもっちん
第1話 訪れた者達
七つの国には花の名を持つ、王が存在する。
そして、炎の力を行使するのは、歴代の王だけだ。
赤の大陸。炎の国。
王都、
この地に、
情報を受けて、
真っ黒い着物に、深紅の帯。
銀灰色の長い髪に、深紅の帯と同色の瞳。
琥珀は、乳白色の手で、口元を押さえて、何度も欠伸している。
「全く。しちめんどくさい使命を、下されたものだね。しかし、逆らえば斬首か」
琥珀の首に、珊瑚の首飾りが、幾重にも、巻かれている。
これは、琥珀の主の仕業だ。
「あの御方は、良い性格をしてるわ。
呪いさえ無ければ、即座に逃げるのに」
潮風が海岸から吹いている。
空模様は荒れ、午後から、雨が降りそうだ。
「仕方ないな。早めに宿に向かうか」
ぶちぶち主の文句を垂れつつ、琥珀が、煉瓦道を進んだ。
居酒屋や食事処、宿も多い。
自警団の駐屯所もあるし、治安も、悪くないみたいだ。
ちなみにここは、自警団は海の男達。その中に、警衛兵も、混ざって入る。
自警団は漁業協同組合、警衛兵は炎の国が、
管理していた。
もちろん、街の政治家も、関与している。
おおもとは、街の市長だ。
琥珀が泊まる宿は、かなり大きくて、観光庁でも有名な、高級旅館だ。
旅館の名前は、野良猫の黒。
宿の招き猫に、ちなんでいる。
琥珀は宿の二階に。
まだ昼なのに、酒をがばがば飲んでいた。
「この状況で、よく酒が飲めるな。お前は」
少し前に来た、琥珀の幼馴染みの、
「巫女を守るのは、私の指命だよ。物騒な気配もするしね」
木製の椅子に腰掛け、琥珀が、真剣な目をした。
「なるほど。確かにこの街には、血の匂いがする。忌まわしい伝承のせいだろう」
琥珀と同じく、黒い着物に、朱色の帯のレモンは、敏感だ。
「ま、てことで、今は酒を楽しもう。神気も満ちるしね」
浴びる程に、酒を飲み干すと、琥珀が椅子から、ずるりと落ちた。
金糸の短い髪。
オレンジの双眸。
コーヒー色の腕で、レモンが、琥珀を丁寧に、ベットに運んだ。
「やせ我慢して。どうせ体がキツいんだろ」
苦悶し、大量の汗を掻く琥珀。
何か逃れる様に、ベットに腰掛けた、レモンに手を伸ばした。
しっかりとレモンが、琥珀の手を握った。
「平気だ。オレが居る。オレはお前を裏切らない。死ぬまで家族だ」
言葉のどこかに、切ない嘘を混ぜて、レモンが、琥珀の額を撫でた。
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