最大限の幸福を
姫路 りしゅう
出会い
これはぼくが、最高の寝取り師になるまでの物語。
**
「やっぱり旦那が」
ホテルの目の前、あと自動ドア一枚のところで突然ごねられてぼくは思わず舌打ちしそうになった。
彼女とはSNS上での文章のやり取りからはじまり、通話を経てようやく二人きりで会うことになった。元から発言の八割が旦那の愚痴だったのでこれはチャンスだと思い、今日をゴールにゆっくりと事を運んできた。
十分信頼は得た。アルコールも入っている。ホテルへの道中もまんざらでもなさそうだった。しかしいざ入る瞬間、謎の躊躇だった。
「やっぱりまだ旦那さんが大好きなんだ?」
「いや……そういうわけじゃ」
「旦那さんは今日も夜遅くまで飲んでますよ。美和さんも今日くらい遊んで帰りましょう」
「……でも」
「不倫とかを気にしてるんですか? でも先に美和さんを裏切ったのは旦那さんの方ですよね」
「うん」
「だったら美和さんにも遊ぶ権利はあります。行きましょう」
らちが明かないと思い、半ば無理やり腕を組んで引っ張った。
「い、嫌!」
瞬間、背中に強い衝撃を感じた。蹴られたような衝撃。
「痛ッッ! 誰だ!」
慌てて振り返ると、知らない男が立っていた。肩まで伸びたうざったい長髪。男のぼくでも見入るような美形。その妖艶な風貌に少しだけたじろぐ。
ぼくも美和さんも動けない。
「オマエさ――」
数秒が経って、男がゆっくりと口を開いた。
「こういう時、女性に嫌って言わしたら負けだよ」
「――な、なんなんですか、いきなり」
「美和さんって言うのかい、あんた」
「……は、はい」
男はもうぼくのことなんて見ていなくて、いつの間にか美和さんの顎に手を添えていた。
「じゃ、行こうか」
「はい……」
そのまま男と美和さんは、ゆっくりと自動ドアをくぐっていった。
これがぼくと彼――どんな女性も魔法のように寝取ってしまう「寝取り師」の出会いだった。
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