第9話 来れ、バイト戦士


 今目の前に、ありえない光景が広がっている。どのくらいありえないかというと人間と昆虫が交尾して新しい命が生まれるくらいにはありえない話だ。


 なに、汚い?じゃあもっと綺麗な言い方をしよう。美人の彼女の両親に挨拶しに行ったら母親がシワシワの老犬だったくらいにはありえない。


 なに、女性差別?知るか、一々そんな細かい事を気にしてたら将来は碌でもない人間になるぞ。人間程々に適当に生きるくらいでちょうど良いんだ。ピリピリしながら怯えて人生を生きるなんてありえない。


 そうだった、ありえないという話をしていたんだった。俺達の状況を説明しよう。


「新しい店が出来たから来てみれば、この店は当たりだな!」

「このショートケーキ、すごく美味しいわ!」

「モンブランも素晴らしい味よ!友達にも教えなくちゃ!」


 俺達の店、スウィートディーラーは現在お客様という名のクソミソ共でいっぱいいっぱいだった。店内で食う奴、持ち帰りで注文している奴。しかもそれだけじゃない。窓ガラスを見てみると明らかに俺の店に並んでいると思われる長蛇の列ができていた。


「オイ、プディングの在庫切れたぞ!早く次の分持ってこい!」

「う、うるさい!今話しかけるな!作っている最中じゃ!」


 俺はライラに新しいのを用意するよう催促すると、ライラは切羽詰まった様子で棒を使って釜を回していた。1人で材料を用意して釜に入れて大急ぎで作っているからか、尋常じゃない汗をかいていた。


「すいませーん、僕のプディングまだですかー?」

「あ、ああただ今!行く……ます!」


 俺は普段は使わない敬語を使いながら店の中を駆け回り、会計をし、注文を受け、商品を渡し、テーブルに運ぶ。こんな事を一日中続けていた。そこまで広くはないとはいえ、1人が担当するには荷が重すぎる。疲労が絶えない。


「プディングください」


 客の一人の男がプディングを要求する。プディングは既に数が少なくなっており、品切れになるのは時間の問題だ。


「オイまだか!?」

「まっ、待ってよ!あと少しだから!」


 いつもの口調ではなく、少女特有の言葉遣いで返事が返ってきた事に俺は忙しすぎてこの時は大して気にしていなかった。


「あっじゃあ僕も」

「俺はチョコケーキね」

「私も!」

「ワッシも……」

「ちゃん俺もシクヨロで〜す」

「やっぱプディングで」


 一斉に注文が俺の元に波が如く怒涛の勢いで押し寄せる。俺は疲れからか、怒りからか、フリーズして固まった。あと何か、一言でも言われたら俺のプッツンダムが決壊してしまいそうだ。耐えろ、耐えるのだ男サビター。俺はやればデキる奴、このくらいの事で折れてどうす──


「やぁ、何かオススメはあるかい?」


 俺の後ろからナイスミドルな声の紳士風の男がふと俺に聞いた。


 あっ、プッツンダム崩壊。


「うるせぇ!テメェの食いたいモンくらいテメェで決めやがれェ!」


 俺は店内で張り裂けそうな思いで叫んだ。俺の魂の雄叫びに客共は唖然とした表情で俺をみる。幸か不幸か、途中でスイーツの材料が底を尽き、規定の閉店時間よりも早めに店を切り上げた。


 太陽から月が顔を出し、静寂と闇に包まれる頃、ようやく、ようやく一日が終わった。


「あ、ああ……」


 俺はまともに喋ることすらできず、舌を騙しながらアヘ顔で床に転がりながら天井を見つめていた。ジョニーの野郎……どんな人脈があればここまで客寄せが出来るんだよ。ありえなさ過ぎる。


 終始店の中は「あのジョニーが」とか「あのジョニー様の」とか「私の旦那様が」だとかとにかくジョニーが舌鼓を打った話題のプディングを食べるために尋常じゃない数の人が来ていた。


「うう……」


 ライラは客用の椅子を三つ並べながら横になっていた。俺と同じくぐったりしており、虚な目をしながら天井を見ていた。


「見て……サビター。星が見えるよ……屋内なのに不思議だね……」

「いやそれ天井のシミ」


 開店直前までは「ワシの超スピード錬金術で客が食えないくらい美味なるスイーツを作ってやるわ!」と意気込んでいたあのライラもこのザマだ。いつものジジババ言葉ではなく、年相応の柔らかい言葉になっている。


 俺達は奴の、ジョニーの人気度を舐めていた。そもそも奴はこの国1番のギルドのボスで、権力者でありイケメンだ。奴のファンクラブもこの国には存在し、規模は300人以上だとか。本人所属のギルドよりも多いとはどういう事だ。


 いや、今はそれよりもこの状況をなんとかしなくてはいけない。明日も続ければ確実にヤバイ。どのくらいヤバイのかというと不倫相手のトイレでクソを出している時に旦那が帰ってきてトイレを使おうとしている、そんな状況だ。


「人手が必要だな……」


 俺は天井から目を逸らし、ライラに目線を移す。


「確かにそうだね……私はもっと出来ると思ってたけど、違ったみたい」


 ライラは未だあの変なジジババ言葉を使わずに標準語を使って喋っている。素はこんな感じなのか、と俺は物珍し気に見つめる。


「あんなに師匠の元で修行してたのに、こんな調子じゃ顔向け出来ないよ……」


 ライラは俺とは反対方向に身体の向きを変え、弱音を吐く。珍しい、本当に珍しい。こんな姿を見ることが出来るとは。


「まぁ、まだ初日だろ。それに初めての事だらけだ、そりゃ失敗もするさ」


 俺はあまりにも不憫なライラの姿を見て哀れに思い、慣れない気遣いをかけてやった。


「死なない限り、どんなめちゃくちゃな失敗もすりゃいいんだよ。それで人生に深みが増す。そういうモンだ」

「サビター……」


 俺の言葉にライラは顔を上げ、感銘を受けて俺を尊敬し始めた──


「ぶぅわ、ぶわははははははははは!なんじゃコイツ!突然訳のわからん事を言い始めたぞ!傑作じゃ!こりゃあ傑作じゃ!」


 ることはなく、バカ笑いして店を出て行った。


「……は?」


 店内に取り残された俺は、しばらく呆けた後、だんだんと怒りが沸いてきた。


「あのクソガキィ!!人がわざわざ気にかけてやったのにィ!クソクソが!」


 あの人を馬鹿にしたメスガキの顔を思い出し俺はさらにイラつき、天井に向かって吠えた。




 次の日。


 眩しい太陽が大地を照らす昼下がりにて、俺達は一時的に店を閉め、とある場所へと来ていた。『疲れたからしばらく閉める。しばらく待ってまた来い』と張り紙を店の前に貼ってあるので心配は無用。そして俺達のいるとある場所とは……


「いっつもここはヒト、ヒト、ヒトばかりよのう」


 昨日のあの萎びた野菜のようなライラではなく、またあの変な言葉遣いでギャーギャー騒ぐ元の人格のライラへと戻っていた。


 桃色の肩までかかる髪をたなびかせ、気を抜けば胸元が見えそうな白のボタン付きの半袖シャツに青いスカートを履いていた。俺と出会った時や錬金術を行う時は大体黒いローブ姿だったのに、何故か今日はカジュアルな服装だった。


「ふーんお前似合ってるんじゃん。可愛いぞ」

「え、そ、そう……?」


 ライラは頬を赤らめ髪を耳の裏にかけた。


「ロリコンなら垂涎モノだ」

「死ね!」


 俺がニヤニヤしながら言うと何に腹を立てたのか俺の腹にパンチを一発喰らわせた。


 ここはギルドハウスと呼ばれる、パンピーから荒くれ共の傭兵達までもが依頼を請け負ったり、情報共有のためにその日暮らしの落伍者が集う場所。


 だが俺はもう違う。本業ではないが既に腰を落とし、身を固めて自分の店を持っている。明日も知らない命を賭けた血生臭い日々とはおさらばなのだ……首にされたが。


 俺達は先程掲示板にて、人員募集の張り紙を貼ったばかりだった。内容はこう。『おかしやさんへようこそ!ぼくたちといっしょにおかしをつくってみんなをえがおにするおしごとをしませんか?きょうみがあったらぜひ!どんなひとでもやるきさえあればさいようします!』


「なぁ、このバカが書いたような張り紙はワシらのか?」


 ライラは死んだ目で掲示板を眺めた。


「いやいや、俺の気遣いはちゃんと行き届くさ。ガキくせぇパンツ履いたメスガキにもな」


 ウィルヒル王国は富裕層、庶民、スラムと三つの層に別れている。


 まぁどこの国も同じだろうが個人的にはここもなかなかの酷さだ。不甲斐ない王様が富裕層様と一般庶民様にしか目をかけないせいで、スラムの層の人間達は金も学もないから女子供は身体を売って男は傭兵になってここギルドハウスで依頼を請け負ったりするというのがほとんどだ。この国の識字率はお世辞にも良いとは言えず、特に自分の身体と命を担保に日銭を稼いでる脳筋ばかりのアホの為にも、俺は配慮してやってるのだ。ありがたく思って欲しい。


「わ、悪かったわい。あの時は急に恥ずかしくなって半ば逃げる形で帰ってしまったんじゃ」

「……」


 俺は黙ったままライラを睨む。俺の眼力についに屈したか、ライラは目を逸らし、口をむにむにさせ、身体をもじもじさせて動かしながら


「ま、まぁその……気にかけてくれてありがとう。嬉しかった……」


 とライラは遂に俺が描きたかった言葉を吐き出した。俺はそれを聞き、「フンッ」と鼻で笑うと


「あーあ、腹減ったな。待ってるついでになんか頼むか」


 と俺は話題を変えた。


「な……!ワシに言わせといて無視するのか!?」


 ライラは驚愕しながら俺を見て言ったが俺はもう満足したのでメニュー欄を見ていた。さて何にするか。肉か魚、野菜は気分じゃないな……と俺が目でどんな料理があるか目であっていると、俺達の座っているテーブルの前に一人の男が現れた。


「あ、すいません。張り紙を見てきたんですけど」


 現れたのは茶髪で短髪の若い男だった。身体もがっしりとしており、爽やかさも兼ね備える働き盛りの好青年、といったところだ。


「お、来た来た。座ってくれ」


 あのちょっと頭が良い猿が書いたような募集用紙を見て来たのがこれほどの逸材とは、逆に俺は不安に思えてきた。


「失礼します」


 青年はそう言って席に着いた。別に俺が礼儀作法に詳しくないからか、この青年の所作がとてもお上品に見えた。


「名前は?」

「フィン・カイルです」

「早速だが俺ンとこで働きたいと思った理由は?」

「スイーツが好きで、しかも調理方法が錬金術と聞いて──」

「ほうほう!?」


 まだこの青年が話終わってないのにライラはテーブルから身を乗り出して目を輝かせる。


「お主は錬金術に興味があるのか!?」

「え?あっ、はい!釜の中に素材を入れると別の物が生まれるのって面白いなって思ったんですよ!」

「そうじゃろうそうじゃろう!お主中々見所があるな!こりゃあ採用じゃ!」


 ライラが勝手に話を進め、俺は「オイオイオイ」と横槍を入れようとしたが、青年フィンは気に入られようと便乗しようとし、こう言った。


「錬金術、良いですよね!僕、魔法使いの資格が取りたくて勉強してるんですよ!働くついでに勉強させて頂けたらと──」

「おい」


 先程まで終始にこやかだったライラの表情から笑顔が一切消え、黒く濁った瞳がフィンの目を捉える。


「お前、今魔法使いがどうとか言ったか?」

「えっ?あぁはい。確かに言いましたけど……」

「不採用。そのジャングラガエルみたいな汚ぇ面二度と見せんじゃねーぞ」


 そう言ってライラはフィンの目を合わせる事はなく、完全に興味を失ってしまった。ちなみにジャングラガエルとはウィルヒル王国外のとある湿地帯にいる顔が悍ましいほど醜いカエルだ。この青年フィンは全くそんなことはないのだが、何故かライラはそのカエルに例えてフィンに向かって吐き捨てた。


「えっ!?なんで!?」

「あー悪い。コイツ魔法使いが大嫌いらしくてな。地雷踏んじまったな」

「えっ……?魔法使いって錬金術を使うんじゃないんですか?そもそも魔法使いと錬金術士ってなんの違いが……」

「おっとその言葉はまずいぞ」

「テメェェェェェェェェェェェェェ!!!」

「ほらな」


 ライラは遂に限界を迎えたのか、テーブルの上から飛んでフィン青年の胸倉を掴みグワングワンと揺らした。完全に怒っており、可愛い顔が台無しになるほどの悪魔の形相だった。


 俺はあーあやっちまったなと思いながらライラの奇行を眺める。


「もういっぺん言ってみろやこのタンカスがァァァ!!」

「ひっ……!すっ、すいませ……!?」


 フィンは眠っていた魔獣を呼び起こしてしまい、完全に萎縮してしまっていた。流石に止めるか、ギルド連中の奴等の目線が集まってきている。


「おい、そのへんにしておけ」


 俺がライラの首根っこを掴むと彼女はみるみるうちに元に戻っていき、大人しくなって俺の隣へと戻る。だが隣では「フーッフーッ」と唸り声を上げるライラが威嚇しながらフィン青年を睨んでいる。


「それじゃあ面接の続きだけど」

「こんな目に遭っても続けると思ったんですか!?お断りですよこんな珍獣がいる店なんて!」


 そういってフィン青年は逃げるように俺達からギルドハウスから出て行った。いや、うん、彼の言う事は全く持ってその通りであり、何の反論の余地もない。もしあのフィン青年が好青年の皮を被った図太い人間であれば採用を言い渡していたんだが、どうやら彼は違ったようだ。


 それから俺達は何人か応募者が来て相手をしていたんだが、これが腰抜けばかりであった。


「なるほどな。最後にいくつか聞きたいことがあるんだが」

「はい」

「犯罪に手を染めた事は?」

「ないですけど……」

「じゃあこれから法を犯す覚悟はあるか?」

「は?いやないですよ!」

「人を殺した事は?」

「いや、だからないですって!なんなんですかこの質問!?」

「あ〜、じゃあ不採用。帰っていいぜ」

「なんで!?」

「めちゃくちゃじゃの」


 犯罪歴がないのはそれはそれで良い事なんだが本業を手伝わせる時にチキって逃げ出したり報告チクられたりするのはごめんだった。ライラからは「錬金術がなんなのかくらいは分かっていたから迎え入れてやってもよかったのに」と言っていたが、コイツは錬金術に寛容過ぎる。碌な話を聞かずに採用しようとしたため待ったをかけた甲斐があった。


 そして今度はやんちゃそうな男が来た。筋肉を見せつけるためか、肌の露出が多い服を着て毛むくじゃらの野獣のような男だった。名前はなんだったかな……ボビー?


「そんじゃあ、犯罪歴ある?」

「恐喝、傷害、強盗、殺人くれぇだな」

「へぇーやるじゃん。俺に負けず劣らずだな」

「アンタこそ、噂は聞いてるぜ。元ジョニーの右腕がスイーツ屋を始めたってな?なんでギルドを抜け──」

「おい」


 俺は聞き捨てならんと腰のホルスターに掛けていたマッドキア製の拳銃を男の額にグリグリと押し付けた。


「テメェ…!俺がジョニーより下だって言いてえのか?」

「えっ!?いや右腕って同格って意味じゃ……!」

「テメェ〜〜〜〜!俺に物教えようってか!?筋肉ダルマの子グマちゃんがよぉ〜〜〜!?失せろ!二度とそのツラ見せるな!」


 俺もライラもせっかく来てくれた志願者相手にキレ散らかし、一人も採用が出ないままもう夜を迎えようとしていた。一緒に仕事をする以上、表の仕事も裏の仕事も出来る人間を欲しがった事を悔いるべきか、と俺は諦めかけていたその時、


「すいません」


 俺達の元に2人の女がやって来た。1人はライラと同じくらいの年齢、身長に短めの白髪、黒のトンガリ帽子と黒のコートを来たロリッ娘、そして2人目は背中まで届きそうなくらいの黒い長髪ロングストレートに長身のスレンダーでありながらケツと胸が出るところはしっかり出ているナイスバディだ。


「ここでバイトを募集していると掲示板で見たのですが」


 スレンダーな女が確認するように俺に向けて言った。俺はごくりと唾を飲み、対面の椅子に座るよう促した。


「失礼します」

「します!」


 スレンダー女が言った次に元気よく喋ったロリッ娘も彼女の隣に座った。


「なんだ?そのガ……」


 俺が「そのガキ」と言おうとした途端ライラが俺の脇腹を肘でどついた。俺は「ぐふ」と変な声を出してしまった。


「そろそろその言葉遣いを直したらどうじゃ?」


 テメェにだけは言われたくねぇよ!と俺は叫びたかったが、俺はいや、と自分で自分を戒める。目の前の女、ロリッ娘の方ではなくスレンダーなスタイルのいい女、正直言ってめちゃくちゃ好みだ。ここはいつもの意地悪サビター君ではなく、ジェントルサビター君にならなくては。


「失礼、その通り。ここはスイーツショップのバイト面接の場で合っていますよ。お名前は?」

「アリーシアです。この子はタマリ」

「よろしくお願いします!」


 俺は最大限の愛想笑いで応対すると、スレンダー女は俺に向けて微笑んだ。俺はその微笑みにしてやられた。彼女の瞳は宝石のような青色の瞳で、まつ毛は長く、唇はピンクの至宝、肌は生きている大理石のような美しさだった。これは細かく聞く必要はないだろう。


「うん、採用!」

「早過ぎるわ!」


 ライラはまたもや俺に肘打ちを俺の横腹にお見舞いした。


「お、お主……!さっきからおっぱいとお尻しか見とらんじゃろ!身体じゃ!コイツは身体目当てで採用しとるだけじゃ!やめておけこんな奴の働くところなんぞ!」

「や、やめろや!俺はそんな邪な気持ちで採用したんじゃねぇよ!目だ!彼女の目には高貴な意志を感じたんだ!」

「意味が分からぬわ!アリーシアとやら、この男はお前の身体にしか興味がない!ここはやめておけ!」


 ライラは馬鹿げた事を言い出した。このガキ!自分にはないからって僻みやがって!こんな上玉、一生に一度お目にかかれるかどうかだぞ!


 俺はなんとか留まってもらおうとすべく、思案を巡らしていた時、アリーシアは「いいえ」と言った。


「お願いします!私達を貴方達の元で働かせてください!それに、わ、私の身体に興味があるのなら貴方に身を委ねても構いません!」

「なんでじゃ!?」


 ライラが目玉が飛び出るほどの驚く。普通は俺みたいな男にジロジロイヤらしい目で見られたらうら若き乙女は良い思いはしないだろう。だが


「聞きました、貴方達が彼らにしていた質問を。私達は大丈夫です。どんなことでもやります!私達、お金が必要なんです……」


 アリーシアは凛とした表情で宣言するかのように言った。聞いていた、ということはずっと近くで聞いていたということだ。ならば俺達がどれだけ頭のおかしい会話をしていたか、しっかり見ているはず。その上で俺達の元で働きたいと言っている。何か事情があるやもしれんが、俺は彼女の心意気が気に入った。身体もそうだけど、根性がある奴は嫌いじゃない。


「いいぜ、歓迎してやるよ」


 俺は右手を差し出す。アリーシアはハッと顔を上げ、俺の顔を見る。嬉しさのあまり感極まっているのだろうと思ったが何故か頬を赤らめ目を伏せる。そして俺の右手を手に取り、


「ど、どうぞ……」


 と言って俺の右手を彼女の豊満な双丘に押し当てた。


「は?」

「採用してやる代わりに私の身体を使わせろ……そ、そういうことですよね?」


 俺はただ握手を求めただけなのにどうしてそうなる、と疑問を抱きかけたがそんなことはすぐにどうでもよくなった。俺は遠慮なくお言葉に甘えて揉んでみる。手が吸い込まれるかのようだ、もちもちサラサラうおすっげ、おっぱいでか、柔らか───


「いつまで触っておるんじゃ!」


 ライラが俺の下腹部にいるもう1人の俺を全力で蹴り上げた。俺は小柄なガキとはいえ絶妙な位置で加えられた一撃は、俺が気絶するのに十分な痛みだった。


 そしてこれが、冒頭で紹介したアリーシアとタマリの出会いだった。

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