第21話

「戻らなきゃ! 戻って城を守るんだ!!」


 蝿や獣の群れは、もはや雪崩となって、トルメル城へと押し寄せていった。そんなに時間がかからない内に、トルメル城は跡形もなくなるだろう。


 このままだと、未だ生き残ったものたちの命が危険だ。


「おい、どうしたんだ。大軍が物凄い勢いでトルメル城へ向かっていくじゃないか? ……秋野。乗って行くか?」


 急に真上から声を掛けられた。


「え?」


 走る態勢だったぼくは、さっき会った宗教服の魔女? の少女を空に見た。小さめの箒に乗って、宙に浮いている。


「君は? ……どうして、ぼくの名前を知ってるの? いや、頼む! 乗せて行ってくれ!!」

「ああ、じゃあ。私の後ろが空いてる。降りるから乗っかれ」

「ありがとう」


 ぼくは、地面に降りた宗教服の魔女の少女が操る箒へ乗った。

 

「大急ぎで飛ぶからな。落ちるなよ」

「ああ」

「じゃあ、浮くぞ! トルメル城だったな。急いで行くぞ!!」


 小さめの箒は、空へと浮くと、驚くほど速いスピードでトルメル城へと飛んだ。 

 

 グングンと遥か遠くにあるトルメル城が近づいてくる。

 下方を向くと、蝿や獣の群れも凄まじい速度で移動していた。


「よし、このままだと、城に蝿とかよりも早くに着きそうだぞ!」


 地面を覆う森が途切れた。 

 目の前には、ぶすぶすと至る所から白い煙を上げる痛烈な腐敗臭漂うトルメル城城下町の正門が見えてきた。


「よし! ここで迎え撃つ!!」

「待て! たった一人でか?! 大軍相手に??」

「ああ、そうだけど……」

「無茶過ぎるだろ!」

「いや、いいんだ」


 ぼくは宙に浮いた少女の箒から飛び降りた。


 剣を抜く。

 

 左の掌の紋章が輝いた……。

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