第9話

「まあ……祭りは夜までやっていると思うんだ。行きたければ行ってみればいいよ」

「……」

「じゃ、もう行こうよ。あ、ライラックさんは?」

「自室に今も籠っていますよ……もう、戦わないそうです」

「……そうか。仕方ないよね」


 ぼくたちは、ライラックさんが自室にこもっているので、勝手にトルメル建国記念祭へと向かった。


 

――――


 今日は祭りの日。

 賑やかな国中に。

 しんしんと雪が降り続ける。


 ここはトルメル城下町の最東端にあるクラスド・エドガー広場。クラスド・エドガーは、ここ聖騎士生誕の国といわれるトルメル城の最初の聖騎士にして英雄だったが。後に悪名高い暴君としてこの国を統治していた。


 そんな英雄でも許して賑わうこの広場は、国王ですら、お忍びで憩いを求めるとまでいわれている。古代図書館や大型市場に、フィンランズ港などが寄り添っている。国の憩いの場であった。


 射的やスライスした豚肉を挟んだ果物を売る出店。シャボン玉が窓から溢れる不思議な占い小屋。二十匹の猫を担いで一輪車で走り回るものや、広場の片隅で百枚のトランプをシャッフルするものなど、出店や手品師などで賑わっている。


 けれども、遥か北から巨大な暗雲がおぞましい羽音と共に、この国全てを覆いつくそうとしていた。


 


「そういえば、コーリア。どうして、大きな客間なのに使用人が君しかいないの?」

「そうですよね。変ですよね。執事もいないし……。あ、ライラック家の方針なんだそうです。いつも戦の時は寝床でも空けておけ……だそうです」

「へ??」

「あ。戦いの時は寝る場所でも空けているんですよ。それだけ戦が好きなんでしょうね。あの方たちは……」

「はあ……ライラックさんのご両親も……かな?」

「ええ」


 城下町の道路を歩きながら、色々な建物やお店などを観て、ちょっとした観光気分で楽しんだ。


 ちょっと、それは信じられないな……。

 戦闘マニア……か……。


 ライラックさんのご両親も北の館へと行ったのだろう。

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