第3話

――――


 だいぶ回復してきたな。


 ぼくは、ベッドから起き上がれるようになった。


 のそのそとベッドから這い出て、冷たい床に足を降ろした。寝間着から学ランに着替えをすまし、この部屋の窓を空けて、外を見る。


 下方には広大な雪の降る中庭が見えた。そこには、おびただしい数の薔薇が植えられた庭園が広がっている。中央に巨大な噴水があり、向こう側は堅牢な外壁が覆っていた。

 

 なんて……広大な……。

 

 綺麗だ……。


 ぼくは薔薇が好きだったんだ……。


 あれ??

 ぼくの過去って……。

 

 いや……でも、やっぱり思い出せない。


 別の景色を見てみようかな?


 その方が過去を思い出せるかも知れない。


「二階の景色も良いなあ。一階も見てみたいな」 


 それから、ライラック家の人の居場所を聞くために、さっきのメイドを窓の外を見ながらしばらく待った。


「あ、お目覚め?」


 声に驚いて振り向くと、さっきのメイドが青いドアから、ポッド片手に部屋へ入ってくるところだった。

 

「ライラック家の人にお礼を言いに行きたいんだけど……どこ??」

「そう。あ、そうそう。ライラックさんは、さきほど館の方から戻りましたよ」 

「館??」

「そうです。北の館です。最近になってなんですが、強大な力を持った悪魔が現れてから、こっちの方へやってくる回数が物凄く増えたんですって」

「悪魔?? 襲撃されてるの?」

「ええ……あ、でも。大丈夫。この国は千騎士の国なんです」


 千騎士?

 どんな騎士だ??


 メイドは中庭へ遠い眼差しを向けた。外はいつの間にか、吹雪いていた。

 

「あの大戦争から、もう一年も経ったのですね……」

「???」

「あ、こっちのお話ですよ」


 あの大戦争??

 ここで戦争があったんだな……。


 メイドはクスリと笑って。


「そういえば、お互い名前も知らなかったんですよね」

「ああ……ぼくは秋野 憲一」

「はい。私は、メイドのコーリアです」


 プッと吹きだして、お互い笑った。

 ぼくも明るいコーリアのお蔭で、この混乱してしまう状況でも、自然と笑うことができた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る