第2話

 気がつくと、燭台の明かりで、暖かいベッドの上にいることがわかる。


 どこだ……ここ?


 ぼくは道路で……?

 道路で……何をしていたんだっけ?


 ぼくは確かそこで転んで、水たまりに顔をぶつけて……。


 それから……。

 あれ?

 なんだろう?


 自分の名前は秋野 憲一。

 確か道路にいたんだ。


 あれれ?


 自分の名前や身の周りのものとか、知識はかなりあるのに、過去をまったくといっていいほど思い出せないんだ。


 その時、パタンとこの部屋の扉が開いた。


「あ、お目覚めですね? 良かった。ちょうど、昼食のお時間ですよ」

「うん?」


 見ると、黒と緑が基調のメイド服姿の女性が、近づいてきて、ぼくの顔を心配そうに覗いた。


 か、可愛い女性だなあ……。

 この部屋は一体?

 見たところ、西洋風で豪奢な造りの部屋だけど。

 

「ここはどこ?」

「トルメル城の客間ですよ。あなたは中庭の雪に埋もれていたんだそうですって、後でライラック家のものにお礼をいって下さいね。もう少しで凍え死ぬところでしたよ」

「ライラック家?」

「ええ、一年前にラピス城との戦争へ向かった後、無事に帰還したこの国の英雄の一人です。そこの者が発見して、介抱してくれたんですよ」

「ああ……わかったよ」

「まあ、もう、こんな時間。今は、ゆっくり休んでいて下さいね」

「……うん」


 ぼくは湯気の立つプレートを渡された。プレートにはローストビーフとパンと、サラダ、コーヒーが載ってある。メイドは部屋から元来た青色の扉へ向かってパタパタと早歩きで去っていった。


「いただきます……」


 ぼくはしばらく、パンをかじりながら過去のことを思いだそうとした。だけど、眠気で瞼が重くなってくる。


「うっ!」


 頭痛もしてきたので。


 仕方なく。

 ぼくは目を閉じた。 

 今は疲れを回復するのが先決だ。


 だいぶ疲れていた……。


 目を閉じると、パチリと、遠くにある暖炉の薪の音が耳に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る