第16話

「もうすぐ着くよ。」

声をかけられ自分がうたた寝していたと気付いた。

「悪夢でも見てたの?こーんな顔して寝てたよ。」

僕の顔の真似だろうか、眉間にこれでもかというほど皺を寄せている。

「そんな顔してないよ。」

「いいやしてたね、絶対してた。谷センくらいしかめっ面してた。」

谷センこと現代文の谷口先生は常に怒っているような表情をしていることで有名な先生だ。僕はそんなに顔を顰めていたのか。

ふっと顔の筋肉が緩んだ感覚がした、どうやら自分が思っていたよりも力が入っていたのかもしれない。

そのまま窓の外に視線を向ける。

ゴトンゴトンと揺れる電車の車窓から見える景色に思わず息を呑んだ。

「綺麗だろう?」

「はい、すごく。さっき聖地巡礼とおっしゃってましたが、これの元の作品って?」

「タイトルはないんだ。有名な監督や役者が出でいたわけでもない、素人の作った映画。」

「どういうストーリーなんですか?」

「それはね...内緒。」

「ええ...」

「はは、ほら、もうすぐ目的地だよ。」

曖昧に言葉を濁して席を立つ。僕らもそれに続く

「篠原さんは知ってるの?その映画。」

ホームを歩きながら彼女に質問する

「...うん、知ってる。」

これ以上何も聴けないような悲しそうな表情で答えられ、僕は言葉に詰まった。

なぜ彼女はこんな表情をしているのだろう。

「ん?どうしたの?」

足も止まっていたようで、数歩先にいる彼女がこちらに来て顔をのぞき込んでくる。

その顔はもう悲しみの見えない顔だった。

「君はたまに、すごく悲しそうな顔をする。」

「え...ええ?そんなことないよ何言ってんの~そもそもわたし達昨日会ったばかりでしょう?」

「そうだけど...」

「ほらほら行きますよ~早く~」

話を遮るように彼女は僕の手を引いて歩きだす。

僕もそれ以上何も聴けずそのまま歩き出した。

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