第10話
目的地のカフェは土曜日だからか結構お客さんがいたが運良く待たずに入店できた。
「わたしこのメープルバターホイップパンケーキにしようかな、でもこっちの小倉トーストもすっごくおいしそう、悩む...」
僕の隣に座りメニューと真剣ににらめっこをしている彼女、向かい側で微笑んでいる彼女の父親、緊張で固まる僕。すごく居心地が悪い。
「ねえ、聞いてる?」
「え?」
緊張で頭の中が真っ白になっていた僕に話しかけられても聞いているわけがない。
「だから、こっちのパンケーキと小倉トーストならどっちが良いと思う?って。てかひーくん何にするか決まった?」
「僕はコーヒーを頼もうかと」
「ひーくん、なんか緊張してる?大丈夫だよ、うちのパパはただの優しいおじさんだから!ここもパパが払ってくれるから値段とか気にせず食べたいもの注文しよ?」
たしかに緊張はしているがコーヒーだけなのは朝食を食べる習慣がないからだ。
だがそれを言って空気を悪くするのはいけない、何か軽めのものを注文するか。
メニュー表を見て適当に注文すると、一生聞きたくなかった妙に間延びした声が聞こえてきた。
「あっれぇ?あんた生きてたんだぁ?もう死んだのかと思ってたぁ。」
「ひーくん、この方は...?」
「どーもぉ、これの母ですぅ。美人ちゃん、もしかしてこいつの彼女とかぁ?あはっ、これに彼女なんてできるわけないかぁ。なあにぃ?朝ごはん集られてる系?こいつに払わせなきゃダメよぉ?」
一方的に話しながら勝手に彼女の父親の隣に座る。香水の香りがきつい。真横に座られた彼女の父親が一瞬顔を顰めたのを見て申し訳ない気持ちになる。
「輝君のお母様でしたか、私輝君の友達の篠原樹里と申します。」
"友達"の部分を少し強調して言ってくれたのは僕の都合の良い勘違いだろうか。
「樹里の父です。せっかくですからお母様もご一緒にいかがですか?ここは私が払いますので。」
「えぇー?いいんですかぁ?じゃあお言葉に甘えて失礼しまぁす。」
正直すぐにでもこの場から去りたかったが彼女が小声で「大丈夫、任せて。」と言ったのでそのまま下を向いて黙っていた。
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