第9話
聞き慣れたアラームの音で目を覚ますと見覚えのない天井が視界に入ってきた。
ああそうだ、僕は昨日から篠原さんの管理するアパートに住むことになったんだった。
そのまましばらくぼんやりと天井を見つめていたが彼女の父親がこちらに来ることを思い出し、慌てて支度を始める。
昨日近所の古着屋で買ったパジャマから制服に着替え、コンビニで買った歯ブラシで歯磨きをし、手櫛で軽く髪を整えたところで玄関のチャイムが鳴った。
「おっはよ、昨日はよく眠れた?」
片手をあげて挨拶をする彼女の後ろには彼女と雰囲気の似た男性が立っている。
彼女の父親なのはすぐに分かった。
「朝早くからすまないね、樹里の父です。君が鈴木君だね。」
「はい、鈴木輝と申します。昨日はこちらに泊まらせていただき...」
「そういう堅苦しいのはいいよ、気楽にしてくれ。とは言っても初対面のおじさんに気楽になんてできないか。」
自嘲気味に笑う目元は彼女に瓜二つだ。
「そうか、君の名前はひかるというのか。」
消え入りそうな声で微かに呟いたその声は僕の聞き間違いだろうか。
少しの間、僕たちの間に沈黙が流れる。
その空気を遮るように彼女が口を開く。
「こんな所で立ち話もあれだし場所移動しない?あ、近所にできたおしゃれなカフェ!わたしあそこのモーニングが食べたいな。ね、いいでしょ?パパ。」
「あ、ああ、そうだな、そうしようか。鈴木君はそれでいいかい?」
「は、はい。」
「じゃあ決まり!モーニングは10時までだし早く行こ!」
それから僕たちはカフェに向かった。
スキップしそうな勢いでご機嫌に前を歩く彼女、そんな彼女に幸せそうな、でもどこか悲しそうな眼差しを向ける彼女の父親。
なぜ悲しそうだなんて思うのかは自分でもわからなかった。
「ところで、君の名前はひかると言ったね。どんな漢字かな。」
彼女を見つめていた彼女の父親がふいにこちらを向き、質問を投げかけてきた。
「えっと、輝くと書いてひかるです。」
「そうか、いい名前だ。」
一瞬驚いたような表情をしたのも気のせいだろうか。
そこから目的地のカフェに着くまでお互い言葉を発さなかった。
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