遺書

秋月空

第1話

キュッキュッキュッ

授業中の静かな廊下に僕の上履きの足音がやけに響く。

階段側の教室から笑い声が聞こえる、そういえば4組はこの時間生物の田中先生の授業だったな、また授業と関係ない雑談で時間が過ぎているのだろうか。

そんなことを思いながら静かに階段を上がる。

4階から屋上へ続く階段には机のバリケードがあり、ここから先立ち入り禁止の張り紙もある。

それらを一瞥し、机の間をそっと通り抜けてさらに上へ行き、屋上の扉の前に立つ。

最近の学校は何処もそうだと思うが例に漏れず僕の通っている学校も屋上は閉鎖されている。

だけど唯一、南校舎のこの扉だけは鍵が壊れている。

僕だけが知っている逃げ道だ。

音を立てないよう慎重に扉を開き、屋上に出る。

迷わず真っすぐ進んで柵の前まで行く。

もう10月だというのに今日は暑い、太陽がじりじりと照りつけてくる。

まあそんな事もうどうだっていい、だって僕は今から死ぬのだから。

足元に遺書を置き、飛ばされないよう用意していた重しを乗せる。

上履きは脱ぐか否か迷ったが履いたままにして柵を飛び越える。

下は校庭だが今の時間はどのクラスも外体育はしていないようだ。

深呼吸をして、飛び降りようとした瞬間、背後から声がした。

「なになに?えーと、ごめんなさい、生きることに疲れました。ごめんなさい...ごめんなさい多いな。」

「な、な、な、」

「な、しか言えてないぞー?うける。」

逆光で顔が見えない、誰だこの人は?というかいつの間にいたんだ?

たくさんの疑問が浮かんでくるが咄嗟に声が出ない。

「死ぬの?今から、ここで。」

「そ、そうだけど、君には関係ないだろ。」

「あはっ、たしかにそうだねぇ。」

逆光の中でも目の前にいる人物が笑ったのがわかる。

「...ねえ、どうせ捨てるなら、君の人生、わたしにくれない?」

「...は?」

雲が太陽を隠し、今まで逆光で見えなかった彼女の顔が見えた。

「わたしが君に生きる希望をあげる。わたしが君の人生を輝かせてみせる。」

整った顔立ちをした彼女は、そう言って笑った。

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