第8話 ゴブリンが現れた!

 レオンは次にリルの方へその矛先を向ける。


「おい、そこの中二病のキモい女。お前もだぞ。無能だと判断したら、容赦なく切り捨てるからな!」


 威圧感のあるレオンだが、そんな彼を見てリルはニヤリと笑う。


「ククク、いいぜ。ボクの闇の力に慄くがいい」


 リルの方はまるで気にしていない。自信があるのか、肝が据わっているのか。


「クク、トオル。そんな心配そうな顔をするな。ボクの闇の力に任せておけ」


「う、うん。凄い自信だね」


「ふっ、ボクは『狂気の神ゲーマー』だからな」


 狂気の神ゲーマー?

 ただの中二病的な発言にも聞こえるけど、それだけでない何かを感じる。


「ん? 狂気の神ゲーマーって、お前……いや、貴方様は、まさか『あの』リル様なのか!」


 何かに気付いて、驚きの声を上げるレオン。


「え? 有名人なの?」


「狂気の神ゲーマー。このお方は、プロレベルの女子中学生ゲーマーだ。十五歳にして、ありとあらゆるゲームを極めた達人だ」


 プロレベルのゲーマー……中二病の印象が強いが、実はこの子、凄い人だったらしい。

 ちなみに、この子は十五歳だったようだ。千奈と同じ中学三年生だ。

 千奈が大人っぽく見えるのもあるかもしれないが、リルは年齢以上に幼く見える。


「RPGはもちろん、アクション、スポーツ、STG、FPS、SLG、果てはボードゲームやレトロゲーム、ギャルゲーを含めた恋愛ゲームまでもがプロレベルの腕なのだ」


 つまり、リルはゲームのスペシャリストというわけだ。

 これはかなり頼りになる存在と言えるだろう。


 しかも、この子は魔法使いだ。

 この職業は扱いが難しく、上級者が選ぶイメージである。


 それだけの腕があると思っていいはずだ。

 初心者はだいたい剣士である。


「でも、女の子なのにギャルゲーなんてやるんだね」


 ギャルゲーとは、理想の女の子と仲良くなれる恋愛ゲームのことである。


「クク、ギャルゲーは今なら初見で全部クリアーできる自信があるぜ。女の子のボクは、同性の心理を読むことができるから有利なのだ」


「す、凄いね。でもそういうゲームって、異性と仲良くなるのを楽しむものじゃないの?」


「ボクは難しいゲームほど心が疼くのさ。言っておくが、昔のギャルゲーはそこらのゲームでは比較にならないほど難しいぞ。この世で最も難しいゲームはギャルゲーだ。センチメンタルグラビティとか、初期のときどきメモリアルとか攻略情報無しだと鬼畜ゲーだ」


「な、なるほど」


 よく分からんが、どうやら、狂気の神ゲーマーとしての拘りがあるようだ。

 でも、僕としては素直に尊敬できる部分でもある。


「うん。さすがは狂気の神ゲーマーだ。本当に凄いよ」


 僕はリルの頭を撫でた。


「あ、頭を撫でるんじゃない」


「おっと、ごめん」


 また無意識だった。これはもう、癖みたいなものだな。


「…………まあ、別にいいけどな。変な奴め」


 変人扱いされてしまったか。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。


「おら、トオル。だらだら話してんじゃねえ。クビにすんぞ」


 レオンがけん制するように脅しをかけて来た。

 僕がリルと仲良くするのが気に入らないみたいだ。


 やたら『クビ』という言葉を使いたがるレオンだが、恐らく自分が社会人である事への自慢から、その手の用語を使用しているのだろう。


「リル様。俺、かなり強いですよ! トオルなんかよりは、よほど役に立ちますぜ!」


 リルが大物と分かって、急に媚びを売るような態度をとりだしたオン。

 これも社会人として生きていく知恵なのだろうか。


 意外と小心者……と取れるけど、人間的な思考という意味でなら、実は彼が最もまともである気もする。

 レオンこそが実は普通の人だった。

 そう考えると、相対的に僕が変わり者で、それはモブ脱出と言えるかもしれないが…………うん、複雑だ。


「皆様! 気を付けてください!」


 ガイドの女性の声とともに、目の前にモンスターが現れた。

 鋭い爪が特徴の人型モンスター。これは『ゴブリン』だ。

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