第58話 テストは基本楽

「皆さん、今日からテスト週間に入りますので、いつもよりも勉強をしておいてくださいね」





担任の先生からそんな事を言われた後、俺は千里、零、そして同じく千里の友人である堺天矢さかいてんやと共に集まっていた。


「テストクソだり〜」

「俺としては頑張れとしか言い様が無いんだが」

「うぅ、そんな事を言わないでくれよぉ、薄情者!」

「誰が薄情者だ……勉強ってのは日々の積み重ねだからな。そんな簡単にパッと出来るのなんて無いだろ。そんなにテストが嫌なら常日頃から勉強をしろよ。予習とか、復習とかを何度もしておけば、テストなんて其処まで苦ではないと思うぞ」

「そうだった、仁って割と学力高い組なんだった」


天矢のその言葉に千里と零は苦笑いを浮かべる。天矢って地頭がいいんだから勉強すれば良くなると思うんだけどなぁ。


「ねぇ、仁、頼みがあんだけどさ」

「少し嫌な予感がするんだが、まぁいい、聞いてやるよ。なんだ?」

「テストが出そうなところを纏めておいてくれない?そしたら結構いい点数が取れると思うんだよな」

「そういうのは自分でやってこそだと思うが?社会とかは担当する先生が長いのが好きというか、そういうのをよく出すから、それらを頭の中にインプットしておけば……」

「そういうのじゃなくてさ。もっとバー!っていう感じの……ない?」

「ない」


俺がそう言い切ると、天矢はショックを受けたような、いや、「ガビーん」と声に出しているので此奴まだ余裕あんだろ、と思いながらも、俺は「はいはい、勉強頑張ろうな」と言い、宥める。


「いつか一緒に勉強でもするか?」

「マジですか!?今日!今日お願いします」

「だからいつかだって……少し確認する」


俺はそう言った後、未亜へと視線を送り、大丈夫かと確認すると、未亜はへにゃっと笑った後、親指と人差し指でオッケーの形を作る。


「大丈夫だってよ」

「いやぁ、俺たちも世話になるぜ。……というかさ、なんであれで通じるんだよ。なに?もしかして心が繋がってんのか?」

「別のそんなのじゃねえよ」


俺はそんな発言を口から出すのだが、千里は「またまたぁ、そんなことないんでしょ?素直に言っちゃいなさいよ」と顔をニヤニヤさせながら言う。此奴……千里だけ勉強仲間から外してやろうか。そんな事を一瞬考えるだが、もっと面倒くさくなるだけか、と思い、そんな考えをやめた。








4:32、学校は終わり、天矢の家にお邪魔している。天矢って家が汚いとか思ってたんだが……見事に偏見でござったか。俺は天矢の部屋を見渡しながら、そう感激をしていると、お菓子を持った天矢がこちらにやってきた。


「へいへいへい、勉強する用のお菓子を持ってきたぜ」

「勉強中にお菓子って食うのか?」

「ついつい摘みたくなっちゃうんだぜ」


そんな発言をする天矢に「それって集中できていない証なんじゃ……」と言う考えが巡るのだが、言わんとこ、とそんな思考を心の中に潜めた。


「そんじゃまずワークからスタートしようぜ」

「あ、一ついいか?俺ってテスト範囲の国語、数学、理科、社会、英語のワークが最後まで終わっちゃってんだよ。だから天矢の部屋にある参考書、見させてもらってもよろし?」


俺がそんな事を言うと、天矢、千里、零が心底引いたような視線をこちらに向ける。わかってるよ、山上中学に転入にしてきてから一ヶ月もたってないもんな。それなのに全部終わってるのはやばいよな。でも仕方なくない?未亜に追いつくために、って一生懸命勉強してたらなんか終わってたのよ。


「やっべえとは思ってたけど、此処まで勉強レベルが化け物だったとは……思いもしなかったぜ」

「なんか失礼な言い方だな。未亜ほどじゃねえ」

「いや、学年主席と比べられても……」

「まぁ、仁の勉強レベルが化け物なのはいつも通りとして、仁はこの部屋にある参考書を授けよう」

「おっ、サンキュー。後で返すわ」

「いや、返さないで良いんだぞ。な?」

「いや、な?じゃないんだが」


俺はそんな事を言いながら参考書を開けると、全く使い込まれていないというか、何も折られていない参考書がそこにあった。天矢のやつ、全く使ってないだろ。天矢って自分から買うタイプとかじゃないからな……大方家族か友達からのプレゼントって言ったところか。もっと使ってやれよ。


俺はそんな事を思いながらも、ノートを開き、参考書の問題を書き込む。





「だー!疲れた!」


天矢のそんな叫べ声が俺の鼓膜に響き渡る。突然の大きな声だったので、俺の体は自然と驚いてしまい、ビクリと体を揺らしてしまった。


「もう少し集中して見たらどうだ?もうちょっと頑張れよ」

「あのなぁ!もう2時間ぶっ続けでやってんの!俺もう死ぬて」


俺は天矢のその発言に二度目の驚愕をし、錆びれてしまった機械のように、ギギギと時計のある方向に顔をゆっくりとずらすと、6:30と時計はなっていた。


「てっきりまだ30分ほどかと」

「仁、君の体感時間どうなってるの?」


呆れたような、そんな零の視線が心に突き刺さる。


「そういえば聞きたかったんだけどさ、今どれくらい進んでる?俺は今ワークが終わりかけ」

「今回のテスト範囲15周目」

「やっぱお前バケモンだろ」


天矢からの、本日二度目の心底引いたような視線が俺を見つめる。うん、マジでそう思う。でもさ、だったら2時間で20周している未亜はどうなんだ?未亜って思考加速能力に関しては俺よりも劣っているはずなんですけどね。

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