第57話 お疲れには美味しいご飯を

此処は……√2か。よし、とりあえず全体が終わったから丸つけでもしようかな。


此処は正解、此処も正解。……全問正解、か。そりゃあ何度もやってるからね、取れるだろうけど……違う参考書を買ってみようかな。数学だけだと十冊くらいあるけど、その一冊だけで何十回もやっちゃったし。


私はそんな事を考えながらシャーペンをくるくると回しながら時計を見ると、一時間程経っていた。最初は五時間とか余裕で掛かってたんだけど……成長した証なのかな。いや、何度も何度もやっているから当たり前なのかもしれないけどさ。


「はい、お疲れ様。昼飯休憩のオムライスだよ」


ジンの声が聞こえ、反応するために声を出そうとするのだが、ジンはそれよりも先にオムライスの皿を机に置き、私の言葉を遮る。いつから作ってくれたのだろうか、そんな疑問が私の中を駆け巡るのだが、私はただ感謝をしようと思い、両手を合わして合掌をし、「いただきます」と声を口から出す。


「おいひ〜!……このオムライスすっごくふわとろだよ!?私にはこんなのできないよ……」

「そう言われてもこれは慣れだからね。俺だって最初から出来たわけじゃないよ」

「そうなの?だったらどうしてやってたの?英雄とか、世界の守護者をやってたならそんな余裕はないと思うけど」

「英雄時代の仲間と出会う前にね、荒れてた時期があったんだよ。仲間が結構死んじゃったからね。まぁ、それでも生きている人たちは居たんだけど……それでもあの時の俺からしてみれば限界も限界でさ。だから俺を崇めてくれてる奴らや、従者を名乗ってるやつらのことさえも信じられなくなって。だから料理とかも自分でするようになったんだよ。まぁ娯楽とも認識してあったからね。苦ではなかったよ」


私はジンのその言葉を聞いた時、悪い事を聞いたと思い、気まずく感じてしまい、自然と眉を下げてしまった。私のその様子にジンは困ったような、けれども問題ないというのを感じさせる笑みを見せた。


「そんなに気にしなくても大丈夫なんだけどな。もう昔のことだから……いや、最近までは引きずってたんだけどさ。でも未亜がそんな事をかき消してくれた。流石にすべて乗り越えてる、とまではいかないけどさ」


「だから、心配しなくても大丈夫だぜ?」と落ち着かせるような、穏やかな声色を私に向ける。私はその言葉に余計な気遣いをさせちゃったかな、という思いが発生するのと同時に、なら良かった、という安堵の気持ちが漏れる。


「未亜も頑張ってみればできるかもだよ?」


ジンはそう言いながら、自身の作ったオムライスを頬張り、とっても美味しそうに食べる。努力、か……それは私の得意分野だしね、少し頑張ってみようかな。まぁ、戦闘とかよりは上手くいかないだろうけど。勉強とかと同じペースだといいんだけどね。


「ジン、今度は私も挑戦してみるよ」

「ん?そう?……だったら今度やってみようか。まぁ、簡単な料理とか、食材を切るのはできるみたいだし、必要なのは具体的な料理操作技術かな」


私はその人の言葉にふーん、と思いながらオムライスを口に入れる。どれだけ努力してもジンに追いつける気がしないといのは、黙っておいたほうがいいのだろうか。私はそんな事を考えながらオムライスを口にしていると、「カン」という金属音が私の鼓膜に響く。


私はその音に驚き、その音がなった方向に目を向けると、私が先ほど食べていたオムライスが米粒一つすらも残さず消えてしまっていた。うぅ、オムライスが消えるの早いよぉ。いや、ジンの料理が消えやすいのはいつものことなんだけどさ。私がオムライスが消えて無くなったという事実にしょぼんとしていると、ジンから困ったような、それでいて少し嬉しそうな声色が飛んできた。


「そんなに悲しそうな顔をしなくても、また今度作ってあげるよ?」

「分かってる……分かってるけど」

「その顔は納得いってない顔だな。おらおら、食いしん坊め。少しは食い意地を抑えたらどうだ」


ジンはそう言った後、私の頬を両手で掴み、私が痛くないと感じる程度で引っ張る。「むにむに」と擬音が付きそうなくらいに


ひゃめへ、ほほがのひるやめて、頰が伸びる

「痛い?」

いひゃくはないへろ!痛くはないけど!


私は頰が掴まれて、いつものように喋れなくても、私自身の意思を伝えようと言葉にしたのだが、「ならいいじゃん」とジンは言い、私の頰を引っ張り続ける。私はジンが私の頰で楽しんでるのを見て、なかなかやめてって言えないなぁ、という思いを抱きながら、ジンの頰遊びを咎めず、続けさせる。








「ふぅ、楽しかった」

「私はジンに頰を遊ばれて不満足だよ」

「いやごめんて。ついつい長々と遊んでしまいました。未亜の頰の魔力があんなに強力とは……恐ろしいものを体験した」

「人のことを禁忌の物みたいに呼ばないでくれるかな。というか、ジンは私の頰を何度も触ってるし、さっきみたいに引っ張ってるでしょ」


本当にジンは何を言ってるのだろうか。恐ろしいものって……思いっきり堪能していたじゃん。私はそんな事を心に抱きながら、ジンに呆れの視線を向ける。


「何か冷めた目で見られてる気がする」

「別に冷めて視線で見てないよ。ただ呆れた視線で見ているだけ」

「そっちの方が時と場合によっては傷つくんだよ!……機嫌直しにこれを提供いたしますから。どうぞ機嫌をお直しください」


ジンはそう言った後、亜空間倉庫からパフェを取り出した。お店とかで出しても遜色ないようなパフェが。


「ちょっと見栄えをあまり気にしなかったから少し不恰好なパフェになっちゃったけど。それにまだ研究途中だったんだよね」


私はジンのセリフにほんのそこし呆れを抱いてしまう。どこまで向上心が高いんだ、このバカ竜能力は。


「いや、全然美味しそうだよ。それじゃ、いたただきます」

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