第55話 やってくる!ぬいぐるみマスター未亜!
リビングにある机、未亜と俺は向かい合い、勉強をしていた。勉強中なので、いつもの様な会話は存在していなく、ただの硬いシャーペンが紙を引っ掻く音が響くのみだった。そして俺はこのページは終わったので、次のページをめくる。
「……」
俺はこの問題をどう解くのか、それに迷い、少し頭を抱えるのだが、前に未亜に教えてもらった公式の応用方法を思い出し、問題ノートに直接書き込む。
次はこの問題か。俺は直ぐ取り掛かろうとするのだが、少し気になることがあり、問題ノートを見るために俯いていた顔を上げ、未亜に声をかける。
「コーヒー、どうだ?前は飲めないって言っていたが」
「大丈夫、ちょうど良くて美味しいよ。さすがにブラックでは飲めないけど」
「全員が全員ブラックを飲める訳じゃ無いだからさ、そんなに気にしなくても良いと思うぜ?」
俺はそんなことを言いながら、自身で入れたコーヒーを口の中に入れる。うん、美味しくできた。まぁ、流石に勉強に集中しすぎて緩くなっちまったけどな。
多分だが、未亜が飲めないと思っていたのは、前に飲んだのコーヒーが砂糖もポーションミルクも一切使用していなかったのが大きいと言えるだろう。全く、初心者にブラックはバカだろう。俺はそんなこと思いながら、心の中で苦笑いを浮かべる。
「というかさ、随分と集中してたよね。自分の入れたコーヒーに目もくれなかったじゃんか」
「うん?……まぁ、予習はしておいて損はないからな」
俺はそう言いながら再びコーヒーに口を付け、味わっていると、未亜の方向からサクッという音が聞こえてきた。俺はその音の方向に目を向けると、未亜がクッキーとハムハムと食べていた。未亜はこのクッキーなどの小さなお菓子を食べるとき、リスがきのみを食べるときみたいにちょびちょびと食べる。
本人はいたって真剣なのだろうが、それを見ている側からすれば、ただただ可愛いだけである。未亜的にはいっぱい味わって食べたいのだろう、一口一口、口の中に入れるたびに、顔が綻んでいる。
「どうしたの?視線を感じるけど。それも生ぬるいというか、微笑ましいものを見ているような目というか」
「いや、可愛いなって思っただけ」
「それは……ありがとう?」
未亜は自身の食べている姿が可愛いと言われ、何故今可愛いと言われたのだろう、これはどう反応をすれば良いのだろう、という考えを抱えながらも、とりあえずということでありがとう、という感謝の言葉を伝えた、少々の疑問符がついているのだが。
そういうのを含めて、俺は可愛いなぁ、と思うのだが、これ以上生ぬるい視線を送っていると、未亜から何か言われそうなので、俺が送っている生ぬるい視線をやめる。具体的にいうと、呆れの視線と抗議の声が飛んでくるであろう。そして多分だが、俺の横腹にポンポコ拳攻撃も飛んでくる。
「未亜、俺もおかし食べても良いかな」
「うん?良いと思うよ?私の許可とか必要ないし。あ、でも勉強はいいの?」
「未亜が美味しそうにお菓子を食べてるのを見たら少し惹かれちゃって」
俺はそう言いながら、未亜が先ほどまで食べていたクッキーの同じ種類を取り、口に運ぶ。そうすると、俺の口内に濃厚なバターの風味が駆け巡る。けれども、味はしつこくなく、何度でも食べれそうである。うん、未亜が好きな味だ。まぁ、未亜が好き好んでこのクッキーを取っているから当たり前なのかもしれないけど。
「本当にジンって食べ物を美味しそうに食べるよね」
「そう?だったらありがとう。でも美味しそうに食べるのは未亜もだと思うよ?自分の好きなものとか、美味しいものには嬉しそうだから」
「え?そんなに美味しそうに食べてるの?私は。自分だと自覚とかないんだけどなぁ」
「自分だけだと自覚できないものはどうしてもあるよ」
俺がそう言うと、未亜は大きく顔を見開かせた。
「何その顔、俺の発言に心底驚いたみたいな顔だけど。そんなに変?」
「いや、変と言いますか、ビックリしたと言うか」
「ビックリした?なんで」
「ジンにもそういうのがあるんだなって思ったら、いつの間にか顔に出ちゃってて」
「そうなんだ……俺にもあるよ、そういうの。当たり前じゃん、俺だって能力になる前は人間だったんだから」
「あれ?ジンって竜だったんじゃ」
「竜だよ、でもその前は人間だったよ」
俺はそのことを言った後、生まれながらの竜だと思ってたのかよ、と呟くと、未亜はブンブンと首を縦に振った。
「それで、自覚云々の話だったよね。そもそもね、人ってのは自分では自覚ができない。いや、できることはできるけどさ、限りがあるっていう話。今の平和の世界では、それを受け入れられない人も生きていられるけどさ、俺のいた原初の時代では、それを受け入れられないものは死んでいく時代だった。未亜、少しだけでいいから心に残しておいてくれ、自覚という重要性を」
終えのその発言に未亜は再度目を見開く。未亜はそんなことがないから知らないだろうけどさ、あの時代にとって、仲間が死んでいくのは日常茶飯事。世界を守護する役割を持った俺たち
だから身に沁みてる。自覚という弱点を常に晒している恐怖を。
「そんなものだよ、俺が自覚を受け入れている理由なんて」
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