第54話 感謝の贈り物

「未亜にプレゼントを渡したい、ですか……相談に乗りはしますが、何故急に?」

「う〜ん……強いて言うならば、最近未亜にお世話になってるから、かな?」

「お世話、ですか……未亜からは料理とか、洗濯とかはジンさんにしてもらっていると聞いていますが?」

「まぁ、そうだけど……肉体的とか、そう言うのじゃなくてね。心の、精神的なものなんだよ」


俺がそう言うと、優香は驚いたように目を見開いてから、自らの子が成長した時のような、そんな生ぬるい笑みを此方に向けた。俺はその視線にいたたまれないと思いながらも、話を次の方向に転換する。


「それでさ、未亜へのプレゼントって何がいいかな」

「そうですねぇ、未亜って意外と可愛いものが好きなんですけど……」

「猫とか犬とかは家主である未亜の許可が必要だし、世話ができる人はいないからね」


俺は優香にそう言いながら、人差し指と親指を顎につけ、いいプレゼントがないか、考えるのだが、全然いい内容が思い浮かばない。可愛いもの、可愛いものってなんだろう。俺はそんなことを思いながら考えを巡らせる。


「可愛いもの……でしたらぬいぐるみとかどうですか?飼う必要もなく、買うお金も大して使いませんし。それに未亜ならちゃんと大事にしてくれると思いますから」

「そうだな……うん、それがいい!てことで、優香、よろしく」

「……もしかして私も着いて行って一緒に選べと?」

「まぁ、そうだな」

「はぁ……しょうがないですねぇ。貸し一つ、ですよ」


俺は優香のその言葉に貸し返すのはどうしようかな、と思いながらも、優香が着いて来てくれると言う事実に一先ず喜ぶとしよう。









「どれがいいでしょう、このぬいぐるみたち」

「うーん、どれでもいいと思いますけどねぇ、未亜って特に動物の好みとかな位ですから。ジンさんが選んだものなら喜んで受け取ると思いますが?」

「いや、わかるよ?未亜なら喜んでくれるって言う確信はあるから。でもね、せっかくなら未亜の喜んで欲しいじゃない」

「そうですか」


優香はそう言いながらクスッと笑みを浮かべる。俺はその笑みに対して、どうして、という思いが湧き出てくるが、当たり前かと受け入れる。前までの俺は積極的に関わろうとしなかった。その性格はロッドといても変わることはなかった。そんな俺が未亜に喜んで欲しいと思い、関わろうとしているのだから。


「でさ、何が良いんだろ。より可愛いもの……これとかどう!?」

「片目と舌が飛び出てますよ。さすがにそれは可愛くないと思いますが?」

「何でよ!?可愛いと思ったんだけどなぁ」

「それは良くてちょいかわクソキモですよ。多分一部の層にしか人気がありませんよ?未亜が受け取ったとしても苦笑いになってますよ」


俺は優香のその言葉にショックを受けながらも、取ったぬいぐるみを元々あった場所に戻す。可愛かったのになぁ、と俺は思いながら置いたぬいぐるみを撫でる。今回は未亜のやつだしなぁ。


「これとか!」

「ダメに決まってるでしょう。なんで毎回毎回可愛くないのばかりを取るんですか。今回はジンさんのではなくて未亜のなんですよ?ちゃんと分かってます?」

「ワカッテルワカッテル」

「なんで片言なんですか」

「分かってるけどさぁ、どうしても俺が可愛いと思ったぬいぐるみはああなっちゃうんだよ」

「自分が可愛いと思っていないのを取ったらどうですか?」

「可愛いと思えないもの?だったらこれとかになるのかな?」

「良いと思いますよ」

「だったら買ってくる!」


俺はそう言ったあと、店員さんのところに行き、買いに行く。







ガチャりと玄関の扉が開く音が鳴り響く。俺が靴を脱いでいると、パタパタというスリッパで鳴らしながら小走りで此方にくる音がする。


「おかえり、遅かったね」

「少し買い物……?食材はジンが昨日買ったでしょ?なにか買い足りないものでもあった?」

「いや、買い足りないものというか……プレゼント、かな?」

「プレゼント?誰のなの?もしかして誰かの誕生日プレゼントなのかな」

「いや、マスターの」

「え?わ、私のなの?」


俺がそう言うと、マスターは目をパチクリさせている。多分まだ情報を理解できていないのだろう。


「ほら、マスターのプレゼント」

「あ、ありがと……いや、どう言うことなの?私の誕生日プレゼントとかじゃないでしょ?私の誕生日ってもう少し後だから」

「礼だよ、お礼。未亜にはいつも世話になってるからな」

「いや、世話になっている度合いでは私の方が……いや、良いや。受け取っておくよ。こうなったジンは執着を感じるくらいにしつこいからね」

「さらっとひどいことを言われた気がするんだが。いや事実なんだけどさ」


俺と未亜はそう言いながらリビングに向かって歩き出す。


「わぁ、ぬいぐるみだ。この子、可愛いねぇ。……にしてもびっくりしたよ」

「俺がマスターの好きなものは可愛いものって知ってることか?」

「いや、ジンがこんな可愛いものを選べるセンスがあったんだなって」

「ひっでぇ、このマスターひどいよ」

「事実でしょ?多分優香に選ぶの手伝ったってもらったんでしょ?」

「……はい……そうです」

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