第54話 正竜甘嫉行
「マスター可愛いねぇ」
「はいはい」
「適当な返事だねぇ」
「そりゃあジンにたくさん言われたからね。流石に彼処まで言われると慣れちゃうよ」
「そうなの?それにしては此処が赤いように見えるけど?」
「うっさい、勝手に耳を触るな。……ジンにこう甘やかされながら可愛いって囁かれるとこうなっちゃうの」
「そういうところ、可愛くて好きだよ」
俺は照れて赤くなっているマスターの耳に囁く。そうすると、マスターの体がビクリと揺れる。そういう所があるから可愛いって言いたくなるんだよねぇ。
「というかさ、マスターって最近筋肉ができて来たよね。ほれほれ、腹筋とかついて来てるじゃん」
「んぅ……あんまり触らないでよ?お腹を触られるのは好きじゃないんだよ。前までの柔らかかったお腹じゃないし。触ってて気持ちよくないでしょ?」
「触ってて気持ちいいよ?確かに前までの柔らかかったお腹じゃなくなったけどさ、今の筋肉ができて少し硬くなったのもいいんだよ」
「そうなの?……しょうがないね。仕方ない、そんなに好きなら触ってもいいよ」
俺はマスターの許可をもらったので、思う存分にマスターのお腹を触りまくる。少し硬いマスターの筋肉をツーとなぞったり、人差し指と中指の腹で形を確かめたり。服の上から触っているのだけれど、よく存在を示している。このお腹、直に触ってみたいという気持ちが芽生え始めるのだが、それを理性で押さえつける。流石にそれはアカンという考えがあるからだ。
「ひゃっ!?いきなり肩に頭を乗せないでよ。意外と重いんだよ?」
「鎖骨ごと出てるワンピースをそのまま着てるからでしょ。デートの最中に俺がどれだけ嫉妬したか分かってるの?」
「でもジンは可愛いって……ひうっ!?」
俺はマスターの言葉にイラつき、マスターの首の肉に弱めの力で噛み付く。俗にいう甘噛み、というやつだ。とは言っても、全力の力じゃ無いっていうだけで、マスターの肌に噛み跡が残る強さではあるのだが。
「ごめん、マスター。俺、気持ち悪い事をした」
本当に気持ち悪い。こんな気持ち、マスターには知られてほしく無かった。薄汚い、醜い、そんな評価を自己に送る。
「いや別にそれは良いんだけどさ……噛み跡が出来てる。はぁ、全力でなくとも少し強めに噛んだね。これ、どうやって隠そうかな。マフラーとか、そういうのじゃ出来ないよね。今はまだ11月だから着れないし。想定しておくべきだったかな。ジンが独占欲が強いのは知ってたし。これは私の失態だからね、ジンは気にしなくても良いよ」
そんな俺の醜い嫉妬を肯定する様な言葉をもらって、俺の頭の中はどうすれば良いのか分からなくなる。
「ねぇ、聞いて良い?何で私にそんなに独占欲を抱くの?普通は宿主にそんな感情を抱かないよね?」
「マスターの事が好きだからだよ。友人とか、そんなのじゃない。異性として好きだからだよ」
「そうなの?……私も…」
「言わないで。今マスターが言ったところで恋人にはなれないから」
「へ?どうして?」
マスターはそんな苦しそうな瞳を俺に向ける。そんな目を向けないでくれ、俺だって苦しいんだ。
「俺が竜で英雄って事は言ったよね。そして高位存在であるという事も。だけどさ、俺の場合はたたの高位存在じゃ無いんだよ」
「生まれながらの高位存在なんだから特別だと思うけど」
「違うよ、そういうのじゃ無い。人から高位存在になったのは俺以外にも沢山いる。でさ、俺の何が特別なのか、それは超越だからだよ。ほら、
「確かにそうだね。……超越ってなんなの?」
「高位存在の中でも世界に認められてなれるものだね」
「ふーん、世界って神とか?でもジンって確か…」
マスターは首を傾げながらそんな疑問を口にする。
「そうだね、神がクソほど嫌いだ。まぁ、最高位の神に世界神っていうのがいる。昔は別名で神王帝って言われてたりする事があったけどな。世界神は世界の権能を持っている、ただそれだけだ。世界を管理し、統括する。そんな力を持っていようとも、世界の意思では無い。世界ってのはな、独自の意思が存在しているんだよ。そしてその世界によっては世界の守護者を作る。だけど最初から世界の守護者な訳じゃない。世界がその世界の守護者候補、つまり英雄候補に試練を課す。英雄候補っていうのはマスターや色白、域外がそれに当たるな。それが今の世界だ」
「今の?」
「あぁ、昔の世界はそういうのじゃ無くてな。世界は今ほど力は無くて、神が中心となってたんだよ。だから今世界が世界の守護者候補に課している試練は神々がやっていたのよ。そしてこれの何が理不尽かってさ、資格が無い者にもやった事よ」
「そうなんだ……それで?私が今言っても受けれないってのは?」
「さっきさ、超越は世界に認められてなるって言ったでしょ。その中でもね、俺みたいな超越、概念は特別なのよ。俺の概念は勇気なんだけどさ、俺とその勇気の概念は同一なのよ。それでその勇気が世界から消失したらどうなると思う?」
「……どうなるの?」
マスターは頭を手で押さえて考えるのだが、一向に出てこないのか、俺にその答えを聞いた。
「世界が崩壊するんだよ」
「崩壊っ!?何でそんな事に……」
「マスターは知らないと思うけどさ、世界って完璧で歪な、とても脆いピースで埋まってるんだよ。だから世界という存在があり続けるんだ。それでその完璧で歪なピースは概念なんだけど……その概念というピースが抜けてしまったらどうなると思う?」
「歪で、とても脆いピースなんでしょ?そんな大事なのが抜けたら崩れてしまうに……あ!」
「気づいた?そんな脆いピースを簡単に渡すわけが無い。そして何より恋という心的なもので」
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