第35話 甘酸っぱいは■の味

「いやぁ、何でマスターの髪ってこんなにサラサラなんだろうね。髪のケアをちゃんとしてるのもあるだろうけどさ、素の髪質が良いのもあるんだろうね」

「そ、そう。ありがと…………………ねぇ、いつ迄撫でるつもりなの?」

「うーん……………もっと甘やかしてから?」

「何で疑問系!?というか、もう一時間は撫でてるでしょ!?」


マスターはそう叫ぶが、俺はそれを聞く事はせず、マスターを俺の胸に押し付け、撫で続ける。俺の胸に押し付けているので、マスターが声を出そうとすると、むず痒くなる。


俺がマスター可愛いなぁ、と思っていると、マスターにポンポンと叩かれた。魔力は纏ってあるのだが、大して痛くはない。しかし少しは聞いてあげようかな、と思い、マスターを俺の胸から離す。


「うぅ……………ジンだけだよ。私をあんなに撫でてるのは。そんなに好き?私を撫でるの」

「うん、大好き!」

「すっごい曇りない笑顔だね。どうやったらそんな笑顔を出来るんだか…………」

「そんな事俺が知ってる訳ないじゃん」

「それやってるのジンなんだけどな」


俺は笑いながら知らないと答えると、マスターから呆れた様な、そんなジト目が返ってきた。俺はそのマスターからの視線にゾワゾワしたのを感じながら、マスターの髪を撫でる。


「んぅ……………何でジンってそんなに撫でるの上手いの?」

「昔とかにね、色々と撫でる機会があったから」

「へえ、そうなんだ………」

「そんなに拗ねないでよ、マスター」

「す、拗ねてない!!」

「あー、そっかそっか。ごめんねー」

「絶対に思ってないでしょ!?セリフがめっちゃ棒読みだよ!?」

「気のせいだよ、気のせい気のせい」

「絶対に気のせいじゃないと思うんだけどなぁ………」


マスターは他の子にも撫でていたという事実を知った時、不満という感情を全開に出し、【ムスー】と擬音が聞こえそうなくらいに頬を膨らませていた。俺はそれを可愛い嫉妬やなぁ、と思いながら撫でる。そうすると落ち着いてきたのか、顔が蕩けていく。


俺がその様子を見て無意識に呟いてしまう。


「可愛い」

「あー、きもちぃ…………ん?ちょ!?い、いきなり可愛いなんて!?」

「え?……………あー、ごめん。心の声が漏れてたみたい。たまに漏れちゃうんだよね」

「漏れちゃったって……………本当に思ってたの?」

「まぁ、そうだけど……………本当にウッカリしちゃったかなぁ。いつもは心の中で留めてるのに」


俺はそう言いながらため息を吐いていると、マスターは俺が無意識に可愛いと言った時よりも顔を赤くさせている。


「マスター?」

「………………………………」


俺はどうしたのかと思い、マスターと呼ぶのだが、マスターは反応してくれず、顔を晒すばかりだった。しかし……………


「マスター、耳が赤くなってるよ?そんな分かりやすく照れてくれるんてね…………可愛いよ、マスター」

「うるさい…………」

「ふふっ、マスター、可愛いよ」


俺がマスターの耳元に近づき、そう囁くと、マスターの身体が少しだけだか揺れる。俺はマスターの動きに目を細め、再びマスターの耳元へと近付く。


「魔法を開発した時に喜んでいる姿が可愛い。甘い物を食べてる時に顔に出るのが可愛い。俺が撫でたりして甘やかしてる時に顔が蕩けてるのが可愛い。拗ねた時に頬を膨らませるのが可愛い。楽しい戦闘だと自然に笑みを漏らすのが可愛い…………他にも色々な可愛いがあるよね」

「あうぅ………………ジンの、バカ」


マスターは赤面した顔を俺に向けた後、俺が先刻に言ったみたいに頬を膨らませてそんな事を言った。


子供っぽい、そう評する者も居るだろう。しかしマスターのこの顔は俺にとって……………


「んぶっ!?……………ちょっと、どうしたの?ジン。いきなりハグしてくるなんて」

「さっき言ったよね。頬を膨らませてるマスターが可愛いって。だからそれだよ。マスターが可愛いから」


俺は少し顔を赤くしながら、マスターに向かってそんな事を言い放つ。


マスターは急激の事で事態を呑み込めなかったのか、ポカンとした顔で固まっている。しかし感覚としては理解できるらしい。マスターの顔は先程よりも更に赤らめている。


そして数分後、マスターは漸く事態を呑み込めたらしく、居心地が悪そうにしていた。両手の人差し指でモジモジしながら。


両手の人差し指でモジモジしながら!!!


※大事な事(ジンにとっては)なので二回言いました


俺はマスターのその行動に存在して無い心臓の鼓動が激しく鳴り始める。


そしてその鼓動から発された熱が徐々に身体を侵食し始める。


しかし悪い気はしない。この熱は俺が使っている邪力の侵食とは違い、とても心地良く感じる。








「マスター、■■■だよ」

「え?なんて言ったの?ちょっとノイズみたいなのが走って聞こえなかったんだけど」

「そりゃあ態とやったからね。聞こえてもらったら困るよ」


私はジンが言ったのに、と思い、ジンへと呆れた様な、ジトー、という視線を送る。


「言っとくけどさ、そんな視線を送ってきても教えないからね」

「なんでよ。私、気になるんだけど」

「知らなくて良いから」

「でも………………はぁ、それじゃあ諦めるよ。こうなったジンは頑固だからね」


本当に困ったよ。宿主である私にも教えてくれないなんて。







「ん、分かってくれて嬉しいよ」


ジンはそう言いながら、煌びやかな笑顔を私に向かって魅せてきた。


本当に困ったものだよ。その笑顔を見ちゃったら、隠している事なんて気にしなくなっちゃう。









_______________________

□獄権の書

この本を所持している所持者に能力と地位がプレゼントされる。

能力

・地獄ノ火

・地獄ノ水

・地獄ノ雷

・地獄ノ氷

・地獄ノ闇

・地獄ノ遺産

・地獄ノ裁判

・地獄ノ階層指定


地位

【地獄ノ王】である閻魔大王の地位。


補足:この能力は今の所持者が使える能力だけなので、更に増える可能性もあるのだとか。


更に補足:初代【地獄ノ王】はジン

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