部長! ストレートで空振りの取れる女子高生なんていかがですか?

みなゆ

1章 プロ入り、プロ1年目

第1話 欲しい投手

 一目見た瞬間から、その投球に目を奪われた。


 まず、フォームが美しい。


 左腕が、流れ落ちる水のように、滑らかに上から振り下される。


 キレイなフォームはタイミングがとりやすいなんて言う人もいるけれど、目の前にいる投手のフォームは実践的だ。

 正面から見れば分かる。左腕が、ボールを放つギリギリまで見えないのだ。

 ローラー式のピッチングマシンのように、背中に隠れた左腕からボールが突然、飛び出してくる。


 次に、球筋が美しい。


 なんだか美しいとばかり表現しているけれど、事実としてそうなのだから仕方がない。


 糸を引く、という表現がそのまま当てはまる、真っ直ぐな軌道。

 重量を一切感じさせない、弛みのないボールの軌道もまた、正面から見ると浮き上がるような錯覚を覚えさせられ、バックネットの後ろにいるにもかかわらず、その迫力に仰け反りそうになってしまう。


 そしてなにより、対戦しているバッターが、この投手のボールにまるで対応できていない。


 真っ直ぐに飛び込んできたボールの遥か下をバットが潜る。

 なんとか当てた速球が、ボテボテと内野に転がる。

 時折混ぜられた変化球にまるでタイミングが合わず、バットが空を切る。


 誰も自分のスイングをさせてもらえない。

 圧巻だった。圧倒していた。


東野ひがしの監督」


 隣で同じ光景を見ていた、独立リーグに所属するこのチームの監督に、私は申し出た。


「このバッティングピッチャー、私にください」

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