13
「私、好きって、どういうのか、その時分からなくて……傷つけて、ごめん」
俊のことは昔から好きだった。でも、恋愛感情なのかと聞かれたら、その時の私は分からなかったのだ。
でも今は。今なら、私も分かるのかもしれない。
俊が息をのんだような間があって、私は心臓の音がばくばくと鳴っていることに気づいた。どうしてだろう。俊のことを想うと、私は自分じゃなくなったみたいになる。同時に蓮の顔が浮かぶ。俊と蓮は全然違うのに、私はどうして二人を比べるようなことをしてしまっているのだろう。
気持ちを落ち着けようとして、窓の外に視線を這わせた。何もない、田舎の夜の静寂が、景色からでも伝わってくる。そんなの不思議だった。東京にいる時、私はろくに景色を楽しもうとしていなかった。ただ目の前に迫ってくる友達や俊との毎日を、一心不乱に駆け抜けていただけ。日常生活にこんな素敵な余白があることを、私は引っ越してきて初めて知ったのだ。
「俊……私を好きでいなくていいよ。自由になっていいよ。私が俊を縛りつけてるなら、私はどっかに行くから……だから——」
『バカだなあ、凛は』
この場にそぐわない、クスクスという笑い声がして、私ははっと我に返る。俊の笑った顔が昔から好きだった。俊が笑うと、漫画みたいに目が一直線になって、その顔まで整っていてきれいで。私は俊の隣にいると、自分まできれいな人間の一部になれた気がして居心地が良かったのだ。
『ずっと気にしてたんだろ。バレバレなんだよ。俺は凛に謝って欲しいわけでもないし、傷ついてもいない。凛を好きでいるかどうかなんて、俺が勝手に決めることだ。凛にはただ、笑って欲しいんだ』
俊の言葉は、道に迷いそうになっていた私の心を、月明かりみたいにほの明るく照らしてくれる。だから私は、ここまで自分の足で立って歩いてこられたんだ。
「……ありがとう。私ね、今大事な動画を撮ってるの。蓮って男の子と一緒に。蓮は映像を撮るのが大好きで、オタクみたいなんだよ。完成したら、俊にも見せるね。いや、見て欲しい」
俊と離れて、変わった私を見て欲しい。
変わった私と変わらない私を見て欲しい。
その上で、俊がまだ私を好きでいてくれるなら、私はこれほど嬉しいことはないと思う。
俊がずっと守ってきてくれた道を、私はまっすぐに歩いていけるかな——。
『おう、がんばれ。待ってるから凛、がんばれ』
俊、俊、俊。
小さい頃から呼んでいた愛しい人の名前を心の中で何度も呟く。がんばれと励ましてくれる彼の言葉を胸の中で噛み締める。俊と心で呼びかける度に、まるい宝石みたいなイメージになって、溶けていく。
ほどけそうなこの想いを、私はまだ守っている。
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