11

私は蓮から受け取ったタオルで全身を拭きながら、ポケットの中にスマホを入れたままにしていることに気づいた。しまった。雨に濡れて壊れてたらどうしよう、と恐る恐る画面をタップしてみると、スマホは意外にも生きていた。さすが、最新機器だと感心していると、蓮が私のスマホを覗き込んでいることに気づいた。


「さっき、幼なじみの子から連絡が来とったんやろ」


「え?」


とっさのことで、私はハッとして蓮の方に顔を向けた。蓮はまっすぐな瞳で私を見据えている。


「うん、来てた。でもなんで知ってるの?」


「そんなのすぐに分かるよ。風間さんの表情を見てれば、俊ってやつから連絡が来たんだって。俺、風間さんのことずっと撮ってるんだ。俊のことを考えてる風間さんの顔は、他のどの瞬間とも違う」


蓮の言葉は、俊の言葉とは全然違う。

蓮は出会った時から私のことをカメラ越しに見ていて、でもだからこそ私の細かい表情や機微に気づいてくれる。蓮は私のことを、単なる撮影対象としか見ていないのとは違うような気がして、私は自分の鼓動が早くなるのを感じた。


「まだ返信できてないんやない?」


蓮にそう言われ、私は俊とのトーク画面を開く。

元気にしてる? という俊からの問いかけが来てから約2時間。私は、先ほど返信しかけていた文に続きを打った。


「うん、撮影中。俊のサッカー、また見たいな。撮影してるとね、竜太刀岬の自然みたいだなって思うの。波と岩が殴り合って、荒くて痛いのに、止まらないの。俊と話してると私、なんでか胸の一番真ん中が、波みたいに激しく揺れる。だけど、もっと話したいって、思う。止まらなく、なる」


送信ボタンに触れながら、自分が俊に向けた文章を口に出していることに気がつき、はっと口を抑える。蓮に余計なことを聞かれてしまって恥ずかしい。


「……俺さ、本当はさっき、風間さんが俊に返信できないうちに声かけたんよ」


「え?」


蓮の目が私を見て震えているみたいに揺れていた。目が震えることなんてないはずなのに、私にはそう映った。


「卑怯やろ。知らん間に、俊に、嫉妬してたんかもしれんな」


「……」


蓮はそれだけ言い捨てると、「これ、持っていき」と行って私に折り畳み傘をくれた。用意周到すぎて本当に驚かされる。私は震える手で傘を受け取ると、再びカッパを着て颯爽と建物の下から走り去ってしまった。


「嫉妬して……」


その言葉の意味するところを考えると、今度は胸の端っこの部分が、刺されたように痛かった。私は蓮から受け取った折り畳み傘を開き、自宅の方へと歩き出す。時々雨でぬかるんだ地面に、足を取られそうになるのにも、体勢を整えて回避するのにも、とっくに慣れてしまっていた。

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