「俺さ、凛のことずっと好きだった」


この時期の春風は、どうしても暖かいと思えない。

まるで突風のように吹いた風が、俊と私の前髪を揺らす。

周りで友達と写真を撮る卒業生の声が、遠く耳に響いた。


「凛が遠くへ行ってしまうって知って、言わなきゃって思って。でも俺臆病だから。こんなタイミングになってしまってごめん。だけど、この気持ちは本物だ」


ああ、俊はどうしてこんなにも格好良くて、優しくて、まっすぐに私の目を見てくれるんだろう。周りにいたクラスメイトの女子が、「好き」という言葉に反応したのか、こちらをちらちらと見ているのが分かった。私は耳まで赤くなるのを感じで、その場で俯いた。


俊は格好良い。頭も良くてスポーツができてよくモテる。時々子供みたいなことを言うこともあるけれど、そのギャップが好きだという女子も多い。

そんな彼が、どうして私なんかを好きなってしまったんだろう。

ただ家が近所で小さい頃から縁があって隣にいるだけだった。私のように地味な女の子に、彼のような完璧な男の子は不釣り合いだ。


「もし凛が俺と同じ気持ちなら……付き合ってほしい」


彼らしからぬ、祈るようなまなざしを私に向けていた。

私は素直に、その目がとても愛しく思えた。でも同時に、私の目の前に広がっている不確定な未来が私の目の前を真っ暗にしていく。私はこれから、まったく知らない土地で生きなければならないのだ。そこに俊はいない。だたっ広い荒野に、俊を連れていくことなんてできるのだろうか。


「……っ」


一瞬のうちにぐるぐると頭の中を思考が駆け巡った。私が答えを出すのに逡巡しているのを感じたのか、俊の瞳は次第にうるんでいった。


「……ごめん、私、分からない」


今思えば、どうしてこんな曖昧な言葉でごまかしてしまったんだろうかと後悔している。でも俊は、そのどうしようもないほどの優しさで「そっか」と私の返事を受け入れてくれた。

振るでも振られるでもなく、私たちの関係はそこで終わってしまった。

近くで見ていた女子たちが、「なにあれ」とささやく声が聞こえる。彼女たちからすれば、私の答えは納得がいかないものなんだろう。ずるくて、卑怯で、感じ悪い。きっと俊だって同じことを思っている。口には出さないが、煮え切らない態度の私に怒っているだろう。


「なんかあったら、いつでも相談して。俺はずっと、凛の味方だから」


痛いくらいの優しい言葉が、塞いでいた私の耳にするりと入ってきた。どうして俊はいつも、そんなに他人のことを思いやれるの。私は、自分のことしか考えられないのに。


「……ありがとう」


まだ冷たい春風が、再び私たちの間を吹き抜ける。俊の背が、いつの間にか私よりも20cmほど高くなっていることに気がついた。小さい頃は、私の方が高かったのに。知らない俊。私の知らない幼なじみの男の子。この日を境に、俊は私の中で、神様にみたいになってしまった。

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