最大のピンチ!?特別高等警察あらわる!

 私は生まれつき魔力を持たない体質だった。

 この世界ではありとあらゆる生物が魔法という力を使う事が出来る。人間も、魔族も、魔物も、動物も、植物ですら。魔力さえあれば、誰でも──そんな権利すら、私には無かった。


 生まれて物心もつかない頃、父親が死んだ。そのすぐ後に、母親が死んだ。この世界は、持たざる者には酷く残酷だ。

 だから私は決心した。全てを守れる程強くなると。強くなって、強くなって──


──そして、は死んだ。




「──おい、起きろ」

「ん……」


 隣から聞こえてくる男の声、昨日私を捕まえた柊霞未かすみという名の物だろう。多分輝夜の兄か叔父。

 現状を把握する。両手は後ろに回され手錠、視界は多分魔道具であろう特殊な目隠し、首、肩、胸、腹、両腿、脛、足首にそれぞれ拘束ベルト、足は何か硬い靴を履かされ指一本動かす事は出来ない。


「これより貴様の尋問を開始する。容疑は国家大逆、刑は死刑……」


 彼が何か言っているが、無視する。

 すると私が聞いていないのが分かったのか彼は叫ぶ。


「……どうやらまだ自分の立場がよく分かっていないらしいな。ここが何処だか分かるか? 分からんだ「北緯43.225度、経度142.661度、地下500.12メートル」ろ……」


 私が素直に答えると彼は絶句する。


「時刻は午前六時二十五分。この部屋は魔造超硬質金属セラミック造、半径20メートルの半球形、外部に繋がる扉は六時の方向に一つだけ。中に居るのは私の他男が一人、女が四人。他の部屋は同じ様な物が六」

「もういい! 黙れ!」


 つらつらと述べる私に怖くなったのか、彼は血相を変え冷や汗を垂らしながら言葉を遮る。

 この男は確か特別高等警察だとか言っていた。つまり諜報員、なのにこんなに感情を出しては駄目ではないか、全く。

 などと考えていると、バチン、と頬をはたかれる。力が弱い、本当に諜報員なのか?


「いいか、何か思い違いをしているようだな」

「思い、違い?」

「そうだ。我々は特別高等警察、小娘一人など簡単に潰せるのだ」

「無実の、人間に……随分と、暇、です……?」

「──ッ!!」


 バチン、またはたく。堪忍袋の緒が脆すぎる。

 と、そこで私の目隠しが外され、目の前にモニターが運ばれてくる。その電源が入り、映っているのは兵庫の住宅街にある私の家。確かそろそろ父が仕事に出かける頃、まだ車庫に車はあった。


「これを見ろ」

「私の家、です……」

「そうだ。今貴様の生家は我等の手の者が監視している。これから貴様が反抗的な態度をとる度に親類を一人消す」


 彼の言葉に、私は再びこう返す。


「本当に、暇、ですね」

「ッ……やれ」


 彼が言う。画面は何も変わらない。


「……? おい、聞いているのか。やれ」


 何も起こらない。

 彼は眉間にシワを寄せ、叫ぶ。


「やれ!!」


 玄関のドアが開き、スーツ姿の男──父がバッグ片手に出てくる。塀の上で待っていた黒猫を撫で、車に乗り会社に向かう。勿論何も起こらない。

 そして車が見えなくなった頃、黒猫が不意に画面の方を向き、口を開ける。と共に映像は途切れた。


「な……な、なんだ、これ、は……」


 霞未が血相を変え後ずさる。そしてこちらを向き、叫ぶ。


「貴様ッ、何をした!!」

「何を……? ペットが、不審者と盗撮カメラを壊しただけ……私は、何も」

「ふざけるな!!」


 私が私の家に何の対策も施さない訳がないだろう。家族親戚全員に不可視の結界を張ってあるし、ペットとして戦闘タイプの使い魔の黒猫──実際には小さめの虎──を。また、野生に見せかけた使い魔のハヤブサや哨戒用のスズメ、万が一の回復用のカモメを数体ずつ置いてきている。

 今回もきちんと仕事をしてくれた様で何よりだ。一応言っておくと監視していたらしい人も死んだ訳ではないので安心してほしい。


 さて、彼が再びはたこうと手を振り上げる──だが、それが振り下ろされる事はなかった。

 彼の身体に光の鎖が巻き付き、その動きを妨げていたのだから。瞬間、周囲の女がこちらに飛び掛かってくる。


 ドサリ。


「な……おい、どうした、おい!!」


 その音は、飛び掛かろうとした四人が一斉に倒れた物。


「……貴様、手錠はどうした」


 いつの間にか立ち上がっていた私に彼は問う。私は落ちていたを拾いあげ、見せる。

 彼は絶句する。何しろその手錠だった物は真っ二つになっていたのだから。アダマンタイト製だったので少し勿体ないな……貰っておこう。収納用の異空間に仕舞う。


「ふ、札は」

「札? ああ、これ……」


 彼が言っているのは椅子の後ろにペタペタと貼り付けてある紙の事だろう。何やら魔力を吸おうとしていたが、そんな物意識して止めれば問題は無い。

 私はそのうちの一枚を剥がし、少し魔力を流し込む。あっという間に札は燃え尽きた。許容量を超えたのだ。


「コイツらは」


 先程倒れた四人の女を見る。彼女らは全裸で、ピクリとも動かない。


「契約妖魔との接続を、断った……安心する、です。気絶して、契約由来の魔法が使えなくなった、だけ……魔力はまだ、ある」

「──は」


 彼女らが契約していた妖魔との"関係"を断ち切った。

 彼女らは二度と契約出来ず、それ由来の魔法も使えない。全裸になっているのは契約が消え、魔装を送っていたラインが無くなったからだ。通常魔装を解除すれば妖魔から元着ていた服が返却されるが、そのラインを断ち切ってしまったのでこうして裸になってしまっている訳である。少々不憫だが、このくらいは我慢してほしい。

 それに安心してほしい。私は彼女らから魔力は取り上げていない。この世界の人間でも魔力さえあれば契約せずとも魔法が使えるのは私と快人で確認済みだ。

 私は、魔法を使う権利は全ての生物に与えられるべきだと考えている。だから、魔力を取り上げるなんて酷な事はしない。与えられた権利をどう活用するかは本人次第なので精進してほしいものだ。


 軽くストレッチをしながらそんな事を考えていると、彼が震え声で言う。


「……何をやっているのか、分かっているのか?」

「?」

「我々は国家の代理人、それに攻撃するという事は即ち国家に反逆する事に他ならない」

「そう、ですか……」

「全ての機関が貴様を狙うぞ。警察、軍、魔法師! 貴様の大事なお友達も貴様を狙う事になる!」


 その言葉は、私を心配しているのか、それとも脅しているつもりなのか。

 ふむ、確かに快人や比奈、芽有や雲雀から命を狙われるのは嫌だなあ……本心から、ならだけれど、


「安心する、です。私はそんなヤワじゃない……」


 トン、と動けない彼の額に人差し指を当てる。


「──本当は貴方に、そんな権限はない」

「──ッ!?」


 彼の顔色が更に悪くなる。

 フフ、と軽く笑い私は言葉を続ける。


「貴方は昔から……家の中で、虐げられてきた。男は魔法師に、なれないから」

「な」

「だから、見返してやろうと……貴方は、魔法師を作る計画を、進めた。かつて柊家が進め、放置していた物を継いだ……デウス・エクス・マキナ計画を」

「何故、それを」

「貴方の記憶から……計画は、失敗に終わった。今、やってる事は、本家からの指示……私を捕まえたのは、快人の強化を邪魔されない、為……不本意」


 彼が驚愕する中、私は彼の記憶を読み続ける。


「特高は、グル……貴方の計画に、参加。囚人の女性を、孕ませて……それを使った」


 醜い記憶が流れ込む。まあ、この程度は慣れっこだ。

 彼のそれによれば、今私が居るのは北海道の荒れ地地下に作られた凶悪魔法犯相手の特別収容施設らしい。でも今は誰も居ない。こんな場所に収監される様な魔法師は、大抵何かの実験に使われてすぐに死ぬ。


 と、そこで連行される前に召喚しておいた使い魔から通信が入る。

 どうやら雲雀が限界らしい。そろそろ向かわなければ……だが、最後にやらなければならない事がある。

 私は彼の額に当てていた指を自らの口元に持ってきて立てる。


「今、貴方に呪いをかけた、です」

「の、呪い?」

「ええ。これから貴方は、誰も傷付けられない。手でも、足でも、言葉でも……簡単でしょう?」


 これから彼は、誰に何をされようとも反抗出来ない。蹴り返せないし、はたけないし、罵り返せない。

 誰に対しても怒る事すら出来ない。常に優しい言葉だけを使わなければならない……否、使う事しか出来ない。そして、自分すらも傷付けられない──自らの頭を撃ち抜く事も、撃ち抜けと懇願する事も出来ない。


「何を、言っている」

「あともう一つ。死霊を見える様に、した……ほら、貴方の後ろにも」

「な、ひいッ!? や、やめ、く、来る……」


 "やめろ"、"来るな"。その声が彼の口から最後まで発せられる事は無かった。一つ目の呪いに引っ掛かったからだ。

 ただ怯える事しかできなくなった彼を前に、私は離れて杖を上に向ける。


「"ショックカノン"」


 瞬間、青白い光線が先端から放たれ、上部天井に直撃する。それは壁である厚さ1000ミリの魔造超硬質金属セラミックを融解させ、その上部に詰まっていた500メートルの土と岩石を溶かし進み、やがて地上まで貫き荒れ地に一本の光の塔を建てる。

 本来絶対に光が届かないこの空間に日光が届くという異常事態、彼は茫然自失し怯えるしかなかった。


「ああ、そうだ。忘れてた」


 ドサドサとその場に全裸の女性を数多く転がす。私の家や親戚の家を監視していた人達だ。

 草むらの中で転がしておく訳にもいかないしここに置いておこう。


「それでは」


 ここに居る私以外の人間で唯一意識のある彼に軽く会釈し、私はテレポートする。向かう先は学園、雲雀の前だ。



「な、何なんだ、アレは……」


 ただ一人残された彼は、目の前で見せられた化け物に戦慄する。

 一体アレは何だ? 果たして本当に人間なのか?


「……ひッ!?」


 と、視界の端にまた怨霊が映る。老若男女、頭が半分破裂した胎児──それはこれまで、彼が拷問し、実験し、殺してきた者達の姿。

 だが、彼は何も出来ない。魔女にかけられた呪いがそれを許さない。彼に与えられた選択肢は、ただ怯え、許しを請う事のみ。



「う、わ、あああああああああああッ!!!!!」



 暗い空間の中、一人の男の悲鳴だけが響いた。

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