ドキドキ!二人で魔法特訓!
「それでは……今から、特訓を始める、です」
「よろしくお願いします!」
学園が襲撃を受けた二日後、俺は早速咲良に特訓をつけてもらう事となった。場所は適当な広場──夢想鍛錬所は借りられなかった──時間は放課後である。わざわざ早起きするのが嫌らしい。
それはさておき……そう、放課後なのである。俺がこれまで補習を受けさせられていた放課後を、遂に自分の為の時間として使う事が出来る様になったのだ。俺が魔法を使える事を教師に証明した結果、補習はもう受けなくてもいい、という判断になったのだ。
ちなみに、襲撃の直前に約束していた比奈との特訓については彼女の方から断られた。「助けてもらった側が教えるなんて出来る訳ないでしょ」らしい。
「まずは、今使える魔法を……」
「はい!」
彼女の言う通り、俺は今使う事の出来る魔法──痛みを麻痺させる"イズラリール"、魔力防壁を作り上げる"プロティレイル"、そして黒い炎を出す"リグラ・グレンズ"を使う。
それを見た彼女は、少し考え込んだ様子を見せ、言う。
「やっぱり……似てる、ですね」
「似てる?」
「まお……昔の知り合い……が、使ってた魔法、です」
『……欺瞞じゃ……』
彼女が言い、それにメリィが反応する。
魔法が似てる、という事は以前のメリィの契約者と会った事があるのだろうか。確かにどこか既知の間柄の様な反応をしているし、きっとそうなのだろう。
「藤堂さんが、契約してる、のは……?」
「ああ、俺は」
『やめろ! 言うな!』
レフストメリス、そう言おうとした時当人からストップがかかる。
一体どうしたというのだろう。そもそもレフストメリス、という名前自体はとっくに公開されているというのに。
『……い、異世界の……ま、魔族だと言うのじゃ』
「お、おう」
いつもは自分の事を魔王魔王と自慢げに言っているくせに、今は何故か極端に正体がばれる事を恐れている様に見えた。
「……俺が契約してるのは異世界の魔族らしいです」
「魔族……魔王、ではなく?」
『ぴィ!?』
「魔王ー……ではないっすね、はい。魔族です」
怖がりすぎだろう、一体過去に何があったんだ。
……あれ? そういえば輝夜先輩は「快人クンが契約してる妖魔は前例がないから分からない」とか言ってた様な? でも咲良は昔会ったって言ってるし、メリィの反応からしてそれは多分事実だろうし……んん?
それでメリィは異世界の魔族(魔王)だろ? って事は、咲良はいせ「藤堂さん」
「あ、はい」
「今日教える魔法……決めた、です」
そんな違和感について考えていると、不意に彼女が言う。
そして、言葉で俺の抱いていたそれはすぐに吹き飛んでしまった。教える魔法が決まった、という言葉には、あれ程の魔法を使える少女にこれから俺が師事出来るという実感を持たせるのに十分過ぎたのだ。
「プロティレイルとリグラ・グレンズは……将来性を感じる、ですが……イズラリールは不要、ですので……」
『なんじゃと! こやつ、我が祖父の魔法を……ぐう、我がこんな状態でなければ今すぐにでも消し炭にしてやるというのに……!』
その後もメリィは咲良への罵詈雑言を叫び続ける。頼むから脳内でぎゃあぎゃあと騒ぐのはやめてくれ。耳をふさいでも聞こえるし。
「今日は、"ヒール"を教える、です」
「ヒール……って、あの時咲良さんが使ってた」
俺は先日の事を思い出す。
あの時、全身が激しい痛みに苛まれていた時。彼女が現れてオークを消し飛ばし、その後温かな光で俺達を癒してくれたのだ。
「はい。初歩的な治癒魔法、です」
彼女が言うには、痛みとは人体に備わった優秀な警報装置であり、傷を治さずにそれだけを消してしまえば自分の限界を知る事がないまま動いてしまう事となりいざという時に動けなくなってしまう。魔力消費が極端に少ないのであればまだ価値はあるが、そういう訳でもない。だからイズラリールは不要なのだ、と。
と、そこでまた違和感。
「そういえば、魔法って他人に教えたり出来るんですか? 魔力の扱い方とかならまだしも、魔法って契約妖魔に付随する物じゃ……」
「私の魔法は、基本的に誰でも使える、ですよ」
「えっ」
俺は耳を疑った。
魔法とは、あくまでも契約妖魔のそれを借りて使っている──極端に言ってしまえば、妖魔が契約者の身体を使い現世で魔法を行使しているのだ。すなわち、魔法は契約者の物ではなく契約妖魔の物であり、それを"教える"など不可能である筈なのだが……
「魔法を使うのに、必要な物……分かる、ですか?」
彼女が言う。きっと違うのだろうが、取り敢えず授業で習った事──一般常識として認識されている物を言ってみる。
「魔力と妖魔との契約、ですか?」
「いいえ……魔力、魔法を使う為の理論、そしてイメージ、です」
魔法を使う為の理論。彼女が言うには、魔法を使う際に魔力回路──魔素を魔力に変換、全身に送る器官──からどの様にして魔力が送られ、魔法により作り出された"結果"にどの様に変化するか。
そしてイメージ。単語だけ聞けば簡単そうに思えるが実際はそう単純でもなく、魔法の行使の過程、及び発生した事象が現世にどの様な影響を及ぼし、最終的にどの様な結果を作り出すかを正確に想像しなければならないらしい。
「……無理では?」
「それを補助するのが……魔法陣と詠唱、です」
魔法陣は魔力を放出する為の出口の役割をする。これにより、半自動で魔法を発動する場所に魔力が送られる。魔法陣自体はまた別に描かなければならないが、これは形を覚えておくだけでいいので負担は遥かに小さく済む。
そして詠唱。魔法の詠唱とは、それを使う為のイメージを唱えやすく言語化した物である。人は口に出した事を第一に考える。それを利用し、イメージしやすくするのが詠唱なのだ。つまり補助的な物であり必ずしもやらなければならない訳ではない。咲良の場合は、例えばショックカノンならば"ショックカノン"の一言で全てのイメージを終えられる様身体を慣れさせている為、その一言だけで発動できる様だ。とてもではないが契約してから一週間だとは思えない。
──思えば、この時から既に俺は彼女の正体に気付いていたのだろう。だが俺は敢えて考える事をしなかった。
彼女が正体を隠している──結構バレバレだが──のならば、それを言いふらしたり深堀りしないだけの良識はある。俺にだって他人に言えない秘密はあるのだから。少なくとも今の俺には彼女の正体を世に喧伝するデメリットこそあれどメリットは一つも無いのだ。
「"ショックカノン"は教えてくれないんですか?」
「"ショックカノン"は……今の藤堂さんでは、難しい……それに、今の魔力量では……一発撃つので精一杯、です。あれはとても、消費が激しい、ですから。教えるだけなら、いい、ですが」
「……咲良さん、滅茶苦茶撃ってませんでした?」
「私は、魔力が多い、ですから……」
……深堀りしない、とは言ったがやはり気になるなあ、彼女の正体。
そんな事を考えながら、第一回目の魔法特訓が始まったのだった。
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