【完結】ドッキリで国民的アイドルに告白されたけど断りました。なぜか次の日も告白されて大変です。

やる鹿

第一部

1 雪見「ごめんなさい。無理です」

 高校二年生の春、日曜日の午後、俺はファミレスでのアルバイトに勤しんでいた。


 業務はキッチンでの調理担当。


 まだ始めて三か月だが、一通りこなせるようにはなったと思っている。


 まず注文が入ったら調理スペースの上に設置されているタブレットに料理名が表示される。

 五分経つと黄色、十五分経つと赤色という風に料理名の色が変わっていくので、なるべく早く調理してホールスタッフへ渡す。

 どの料理をどのタイミングで調理すれば注文を捌けるのかを考える。

 正直ゲームみたいで少し楽しい。


「おーい、雪見ゆきみくん~~。なんかエグイ注文入ったよ~~」


 普段ならゆったりしている時間帯なのに、一緒に働くキッチンスタッフの先輩から泣き言が聞こえてきた。

 注文の入ったタブレットに目を移す。


「うわ。マジですね。ハンバーグドリアに茄子スパにオムライス二連にジャンバラヤ三連……」


 そしてその下にパパパと追加注文が並ぶ。


「もう~~何でピーク過ぎてんのに~~。……雪見くん、オレ帰っていい?」


「何言ってんすか先輩。先輩の能力チカラがないとこの量は捌けないですよ」


「……ホント?」


「本当です。先輩にしか無理です」


 俺は露骨にやる気を出す二十五歳フリーター先輩を横目にレンジやフライヤーの数が足りるかどうかを考えていた。

 ラストひと頑張り、やるぞ。



 数十分後、すべての料理を捌き終わり、ひと心地ついていた。


 いくつかの料理は提供時間が遅くなったが、多すぎる注文数からすると及第点だろう。

 すでに煙草を吸いに行った先輩はムラッ気があるものの、やっぱり能力がある。

 効率を極めた注文の捌き方は流石だと思った。

 先輩の指示についていけないところも何回かあったので、次はもっと上手くこなしたいなと軽く反省していた。


雪見ゆきみくんそろそろ上がっていいよ」


 店長から声がかかったのでロッカーで着替えて退勤の準備をする。

 スマホを見ると妹からRINEが入っている。


 妹【まだ微熱あります(´;ω;`)】

 妹【ひえピタとポカリ欲しいです(´;ω;`)】

 妹【あとプリンたべたい(^^)/】


(お、食欲出てきたか。良かった)


 中学二年生になる妹は生まれつき身体が弱く、よく熱を出す。


 これでも歳を重ねるにつれマシになってきたのだが、今週はずっと体調が悪く、今日も朝から寝込んでいた。


 父子家庭で父は土日関係なく仕事が忙しいので、俺がバイトに出ていると家には妹以外誰もいない。


 寂しい思いをしているだろう妹に申し訳なさを感じつつ、RINEの返信をした。


 タイムカードを切り、帰ろうとしていたらバックヤードで店長とホールリーダーが揉めているところに遭遇してしまった。


 店長は四十代のくたびれた男で、ホールリーダーは女子大生だ。


「そんなに怒らないでよ」


「怒ってません。なぜ客数が増えていったタイミングで休憩ローテ回したんですか?」


「普段ならピーク終わりでこんなに一気に客が増えると思ってなかったんだよ」


「じゃあ、客が増えたタイミングで戻ってもらえば良いじゃないですか。どうしてそんなマニュアル通りにしか動けないんですか?」


 先ほどのラッシュはキッチン側も大慌てだったが、当たり前にホール側も大変だったようだ。

 女子大生の坂上さかうえさんはその余波を多大に受けてお怒りのようだ。


「いや、まぁね……。一度休憩入ってもらった手前ね……」


「理由を説明したら良いでしょう。それでも店長ですか」


 緊迫した空気が流れる。


 あー。どっちの言い分も分かるな。


 確かに店長は優柔不断で弱気な人なので、頼りない。


 その上、先に休憩に入ってしまったスタッフは、以前から店長と関係が悪かった。

 ただでさえ弱気な店長がそのスタッフにもう一度ホールに戻ってくれと言えないのも仕方ないと思ってしまった。


 それに女子大生の坂上さんもそんなことは分かってる。


 彼女も店を円滑に回したいという責任感が強いだけで、本当は優しい人なのだと俺は知っている。

 言葉がキツイのは良くないけど。

 できる範囲で助け舟を出そう。


「いやーめっちゃ忙しかったですね!」


 俺は何も聞いてなかった風を装って二人の間に出て行った。


「雪見くん……」


「あ、ユキミン。お疲れさま」


 店長と坂上さんが俺の方を振り返る。

 坂上さんは二十歳で年上だけど俺にも丁寧に接してくれる。


「ちょっと聞いてユキミン。店長の采配でホールは大変だったの」


「いや雪見くん、違うんだよ」


 ダメか。まだ坂上さんの怒りは収まってないようだ。


「キッチンも大変でしたよー。それにしても何でこんなにお客さん多かったんでしょうね。日曜日の午後4時なんていつも暇すぎるくらいなのに」


 俺は客のせいにする作戦に出た。続けて不満をこぼす。


「料理もガッツリ食べる系ばかりだし、フライヤーもレンジも足りなくて……。こんな時間に運動部の集団でも来たんですか?」


 俺の言葉に、ホールに出て客に対応していた店長と坂上さんはこう答えた。


「運動部ではなかったね。むしろ……」


「完全にオタク集団でしたね。それに一つや二つではなく。どこかでイベントでもあったのでしょうか」


 なるほどそうだったのか。


 向かいのデカい本屋(TATSUYA)で握手会とか、お渡し会とか、そういうイベントが行われることはたまにある。

 しかし、いくらでも近くに飲食店がある中で、選択肢のひとつでしかない当店がここまで繁盛するということは相当な有名人が来てたのだろう。


 俺は芸能人に興味がなく、最近はテレビも見れてないようなタイプなので、その有名人を見に行きたかったという感情も特に湧かなかった。


「そういえば坂上くん。お客さんに写真を求められてたけど大丈夫だったかい」


 お、店長。ナイス。心配というものは嬉しい。


「ああ……。はい。なにかナントカニャンに似てる~写真撮っていいですか~とか言われましたね。即断りましたが」


 坂上さんは表情が硬いので強めの印象を受けるが文句なしの美人なのでどこかのアイドルに似てる可能性もあるだろう。

 

 店長の心配を受けて、少し柔らかくなった坂上さんは落ち着いて会話を続けている。

 平和が訪れた。帰ろう。


「そろそろ帰ります。お疲れさまでした」


 店長がこっちを見て顔だけで(ありがとう)と言っているように感じた。


 帰り支度を終えて店を出ると、春の心地いい風が吹いている。


 気持ちいい。


 妹希望のプリンや晩御飯の買い物をしてから帰ろう。

 交差点に向かって歩き、信号待ちをしていた。


 バイトの疲れとスーパーで何を買うか考えていたせいで少しぼーっとしていた。



 だから、目の前に人がいることに気づかなかったのかもしれない。



 気づいたら、目の前にすごい美少女がいた。


 美少女は白いノースリーブニットに、肩に薄い布を羽織っている。

 薄い青の柔らかそうなスカートは、ふわりと小さく揺れている。


 映画の中に迷い込んだような気持ちになった。


 ただの一般人で、黒のTシャツにトラックパンツという地味な服装の俺は、場にそぐわないと思った。

 目を逸らそうとする。


 それを美少女の目線が俺の視線を掴んで離さない。

 というか物理的にぐいっと近寄ってきた。


 な、なぜ。


 近くで見るとさらに異常な美しさに慄いた。顔も小さすぎる。


 そして、その人間離れした美少女は俺にこう言った。


「一目惚れしました。好きです」


「……へ?」


「付き合ってください」


 初めて会った美少女にまっすぐ告白された。


 そう理解した。理解できないが理解した。

 自分でも何言ってるか分からん。


 とりあえず答えなければ。

 会話だ、会話。返事をしよう。


「ごめんなさい。無理です」


「ほぇ?」


「え?」


 美少女は驚いている。


 だが驚いてるのはこっちだ。


 何なんだ。ほぇって。











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