エピソード4 足掻き

 神様が自室に来てから数分。妙な沈黙が続いていた。私は座ったまま、立っている神様の顔を見上げている。ずっと同じ体勢だからなのか、首が痛くなってきた。顔を見るのを諦めて、意味がないと分かった明日の準備の続きをすることにした。と言ってもそんなに冷静でいられる訳はなく、目が何度も本棚と時間割を往復しているだけで、何も進まない。

「あの、まだ生きたいって言ったら・・・。」

「どうだろうね。まあ祈ってみればいいんじゃない。」

 返答が思っていたよりも雑で少し口角が上がった。

 この後、神様と色々な話をした。もっと色々な人の話を聞きたかった。最後の会話が神様なんて笑っちゃうな。


 いつもはあまり聞こえない、外の世界の音がやけに大きく聞こえる。車が走る音。女の人のヒールが地面にコツコツ当たる音。

 本当につまらない人生だった。好きなことをして生きていく人は本当に凄いな。私は嫌いなことだけしか出来ずに死ぬから。そもそも私は好きなことをして生きるのを諦めていたのかもしれない。

 神様はこうも言っていた。「今日は流星群が見れるだろう。流れる星たちは人の命なんだ。だから三回『安らかに眠れますように』って祈るんだよ。それを君たちが勝手に勘違いして、自分の願望なんかを言うから……ってこんな事を君に言っても仕方がないよな。申し訳ない。」

 神様は白い顔を真っ赤にしながら言った。人間に怒っているんだ。自己中心的になってしまった私たちに。

 私はただ淡々とこれまでの短い人生を振り返っている。これ、走馬灯っていうんだっけ。初めて見たな。当たり前か、死ぬのは初めてだから。

 

 あぁ嫌だな。死ぬタイミングくらい自分で決めさせて欲しい。まだ死にたくない。一応祈ってみよう。

 正しい所作なんて分からないから、とりあえず正座をして、手を合わせた。

「生きる方法を、希望を、教えてください。」

 私だって、もっと生きれるはず。流れ星ではなく、今まで出会った人や家族のことを思い浮かべて願いを口に出した。



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