後節 人の限界

この数日後、谷先生は驚くことに病気で死んだ。自作したウイルスではなく、医師によると、3年ほど前から異常が見えるはずの病気だという。ようやく合点がいった。3年前、ちょうど谷先生が医大に入った頃だ。その時には死期を悟っていたのだ。


谷先生の死後、瀬戸和樹が谷先生の解毒剤のメモを頼りに、事態を完全に粛正した。そのあと、隔離があけた最初の日、新町長の就任祝いの会を開いた。と言っても彩と拓海と4人で町長の家に来ているだけだ。

「それにしてもなぜ今を狙ったのでしょう?」

拓海がはじめた。

「期を伺っていたとき、君たちから同窓会に呼ばれた。そしてあの校舎は国の規定で数年のうちに大規模工事が必要なこと、さらに近年の少子化で学校を減らすべきという話がなされていたことが重なり、廃校が有力で期限が迫っていたこともあるらしい。後日、本人から事情聴取をしたから事実だろう。この前、調べると実際に廃校の時期が迫っていた」

町長も、僕が言ったあと、谷先生としゃべったらしい。

「でも、結局は自らの死期と君たちの10年同窓会がポイントだったろう。みんな校舎は残したいかい?」

「この悲劇も刻まれているけどやっぱりなくなるのは寂しいな」

彩が言う。

「ただもし残したいならPR特別大使の智樹くんに助けてもらうんだな。どうやら、廃校は覆らないくらい、進んでいた。何か、利用案を出すか買収するかしかないだろう」

「そっか……。智樹に頼んでみよっかな」

「あ! そういえば」

「どうした奏太?」

拓海が聞いた。

「この前、谷先生から封筒を渡されたんだ。3人にって」

「へー、それか。開けよう」

「うん。いくよ」

「待って! おじさんは席外そうか?」

「先生は大丈夫だよ」

彩が立とうとする町長を座らせる。

「いくよ」

チョキッ チョキッ

『―――既に死んでいるだろうか―――』

上から乱雑な字で『私はもうじき死ぬ』と足されている。この字と汚れでほとんどが読めない。封筒の奥に手をいれると、大きな紙と比べ物にならないくらいきれいな小さな紙が出てきた。

一種の暗号のようになっていた。私たちは町長の力添えを受けながら、読み解いていった。場所が指定され、そこには続きの暗号やクイズ。意図せず、許せない男の宝さがしに参加した形となってしまった。ゴールにあったのは薬と二枚の紙の入った箱。1枚は全員の願いが打ち込まれた紙。所々チェックが入っていて、僕らの考える限りではもう叶ったものだ。もう1枚は僕らの願いと同じ形式で彼の願いがかかれていた。これを読み、私たちは気づいた。一緒に入っていた薬は思い出の品だと。

『谷徹哉 彼らの夢を叶える』


後日、そこには彼ら3人とは別のものが黒い車に乗って現れた。彼は箱を開けると二枚の紙の裏側を消しゴムで必死に消した。『不思議なボタンは実在した。怪しきに近づかぬべし』

「谷先生、あなたのお陰で私は本当の先生になれそうです。すべて、あなたに着せれますから。薬頂きますね」

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