ズレアクエスト⊂(・ω・ )おかわり
前回は「ズレアクエスト」の話ではなく大半がクソゲーと平成初期の話で終わってしまったので、ここからはこの短編の構想と構成についてテクニック的な面での話をしていきたいと思います。前回の話と被るところもありますが、ご了承ください。
【前回の話】
https://kakuyomu.jp/works/16817330665779367524/episodes/16817330667535330173
まず、この短編は前回話したとおり「未来神話ジャーヴァスの話がしたい」が出発点です。そこでクソゲーをする、というコンセプトが決まりました。
次に登場人物です。どんな人にクソゲーをやらせるかですが、候補としては「現代のクソゲーマーが配信する」「当時の小学生が絶望しながらやる」くらいでしょうか。
ここでまず想起されたのが『ギャグマンガ日和』に登場する「ゲーム大好き兄弟」という話です。弟がダメな兄に人気のゲームを買いに行かせると、似たような名前のクソゲーを買ってくるというシリーズで、例えば「ウィニング11」というサッカーのゲームは「海に行くイレブン」となるような、そんな感じです。
このシリーズでは兄が弟に「せっかくだからやってよ」と買ってきたクソゲーをやらせ、弟が有り得ないクソゲーにツッコミを入れるという構成になっています。そこで「登場人物Aがクソゲーを買ってきて登場人物Bにやらせる」という図式ができました。
ここでひとつ問題が発生しました。それは「未来神話ジャーヴァス」をメインにしていいかどうかということです。クソゲーは主に高難易度型と虚無型、トンチキ型に分類がなされます(偏見)。トンチキ型に関してはストーリーがめちゃくちゃだったり戦闘システムが未熟だったりでゲームそのものが破綻しているもので、これはゲームが複雑になっていくにつれて増えました。一方ファミコン時代のクソゲーは大体「理不尽な難易度」か「淡々とフィールドをひたすら彷徨う作業ゲー」かのどちらかに当てはまると思います。
さて、ここで取り上げたい「未来神話ジャーヴァス」は立派な虚無型のクソゲーです。こんなのプレイ動画を見るだけで眠くなるのに、小説なんかにしたら誰も読んでくれない……そこでメインで取り上げるゲームを「高難易度型」にすることにしました。スペランカーやトランスフォーマー・コンボイの謎などですね。理不尽な難易度のゲームに挑戦するというのは今でもゲーム実況では人気のジャンルです。
そこでスムーズに高難易度クソゲーをプレイさせるために「ドラゴンクエストを買ってきてくれと言うのにドラゴンスレイヤーを買ってきたおばあちゃん」というミームを使うことにしました。ここはほぼ「ゲーム大好き兄弟」と同じなのですが、ニートの兄ではなく「ゲームをよく知らないおばあちゃん」だから文句を言うに言えないという構図があります。
ここでようやく「ドラゴンズレア」が登場します。「ドラクエと間違えてドラゴンズレアを買ってきてしまい、それを泣きながらクリアする」というあらすじができました。ゲームをプレイするので、登場人物はおばあちゃんではなくお父さんと息子くらいがいいでしょう。
これで大体の方針が固まりました。しかし「ドラゴンズレア」は見た目はまともなゲームなので、クソゲーの話をするなら「見た目も中身も最低なゲーム」を先に出す必要が出てきました。そこで選ばれたのが「スーパーモンキー大冒険」です。そんなに酷いのか、と思われる方はちょっと調べてみてください。ファミコン界のクソゲー七英雄を出すなら選出されるのでは、というようなゲームです。グラフィック、システム、ストーリー、全てが「これで一体どうしろと?」という出来です。
そういうわけで「お父さんがドラクエではなくスーパーモンキー大冒険を買ってくる→これじゃないと怒る→今度はドラゴンズレアを買ってくる→失望する→お父さん反省してドラゴンズレアをやる」の流れができました。じゃあ「未来神話ジャーヴァス」はどこ行ったのかって?
ここで「オチに未来神話ジャーヴァスを使う」というアイディアが浮かびました。未来神話ジャーヴァスはクソゲーですが、知名度は上2つには及びません。そこで「これも漏れなくクソゲーなんだ!」と読者に印象づけるため、二度あることは三度あることを暗示させる終わり方にすることにしました。
この結末を言わないで暗示させる終わり方で印象に残っているのが、三兄弟が果物を持ってくるコピペですかね。「長男 スイカ」で全文が出てくるので興味がある人は調べてみてください。なお大変な下ネタですので閲覧の際は気をつけてください。つまり「未来神話ジャーヴァス」の扱いはここで言う長男のスイカです。このタイトルは「お父さんがクソゲーしか買ってこない」ですのでこのゲームも漏れなくクソゲーなんだろうな、と読者も期待するわけです。
最後に舞台背景を考えましょう。この話は「ドラゴンズレアはクソゲー」ということをメインにしたいため、登場人物のキャラ作りは最低限にしました。その上でお父さんにはドラゴンズレアをプレイしなければならない動機づけとして「男は最後まで投げ出すな」「男は無茶をするものさ」と言わせておきます。後はドラゴンズレアのクソさに抗わせればオーケーです。
息子は典型的な「友達の家でファミコンの画面を見ている奴」です。それ以外設定はありません。何だか物分りがいいのは作劇の都合ですね。あくまでも主役は「ドラゴンズレア」なので……。
じゃあキャラの設定がないのに何だか生き生きしているのは何故かと言えば、それは周辺の設定を固めたからです。前回の解説にも書いた通り、1991年の年末あたりの雰囲気をそこかしこに詰め込んでみました。当時の記憶がある方なら「雨は夜更けすぎーにー♪というCMソング」で一気に「JR東海」にタイムスリップすると思います。この辺りの空気感で「実際にありそうだな、こういう親子がいそうだな」と思わせることができます。
そして、小道具なので別にわからなくてもよいくらいの割り切りが必要です。「流行りのCMソングを歌うようなありふれた男の子」が演出できればそれでよしです。「この曲は山下達郎がですね牧瀬里穂が~」とかいらないのです。「外国の大統領」も「相撲」も前回の解説に書いたとおり、説明すれば説明するだけのバックボーンがありますがそこは本筋でないのでカット。これによりテンポを良くしつつ、わかる人には空気感を出す。それでいてわからない人でも生活感は感じ取れる。その塩梅が短編を書く時の醍醐味です。
そしてオチの「未来神話ジャーヴァス」ですが、別にわからなくてもいいように「改心したお父さんと一緒にゲームをする」という見せかけのオチも用意してあります。別に真のオチがわからなくてもここで満足できればそれでよし、真のオチに気づければなおよしくらいのスタンスです。
そういうわけで「親子の絆がよかった!」という感想はそれはそれでありがたいのですが、作者としては「未来神話ジャーヴァスwwwお父さん天然のクソゲーハンターwww」みたいな楽しみ方をされると最高なわけです。でもそんな人は稀でしょうから、「親子の絆」がメインでもういいかな。
ちなみになんで息子の名前がマサルなのかというと、相撲の話題が出たのでパッと「お兄ちゃん(若乃花)」の顔が出てきたからですね……そのくらい安直です。それに何となく昭和から平成の小学生っぽい名前だよね?ザギトワの犬ではありませんよ?
この辺りで、そろそろこの作品について語ることもなくなりました。最後に、この作品を書いた狙いは「クソゲーの愛すべきところを知ってもらいたい」というところでしょうか。これを書いた当時、前回の解説に書いたベネズエラ産のクソゲーに衝撃を受けていました。クソゲー、本当に奥が深い。
そしてWeb小説のよいところは、こういうニッチなテーマでも好き勝手書いてよいというところだと思います。閲覧数があるかないかはおいておいて、この作品を紙の本で出版したいところはひとまずないと思うのです。最近「そんな編集者のいない素人の小説を読んで何が楽しいのか」と言われたのですが、自分の知れない世界を知ることができるのは非常に楽しいと思うのです。この辺でズレアクエストの話は終わりましょう、はい次の作品。
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