第2話 食堂・マギア
私、瀬戸 真夜(せと まよ)は魔女になりたかった。
魔法が使えれば、自分の病気も治って元気になれる。元気になれれば、自分の好きなごはんをたくさん食べられる。そう信じてやまなかった。
けれど願いはかなわなかった。願いが叶う前に私は病気に負けて死んだ。
だが、今。なんと私は魔女に転生している。そしてマリーという魔女とも出会った。
(本当に私、魔女になれたんだ…!)
そんな、自分の願いが叶った事への喜びにあふれている私へマリーは、いいかしら?と声をかけて来た。
「あっ、はい」
「あなた、名前は?」
「あー…」
(こういう時、前世の名前?言ってもいいのかな)
よく分からないので、真夜と答えた。
「まよ、ね…覚えたわ」
「あ、よろしくお願いします」
「ええ、改めてよろしくね」
マリーはにこっと笑うと、私の右手を取って握手してくれた。マリーの手の甲には何やら魔法陣のようなものが描かれていた。
「あなた、これからどうするつもり?」
「どうする、とは?」
「いや、その…これからの暮らしとか…もしかして真夜、記憶失ってるとかそう言う系?」
確かに今は前世?の記憶しか脳内には存在しない。というか今更ながら私は白いくたびれたYシャツと黒いロングスカートを着用している。さっきまでは、病院指定の寝間着を着ていたのに。
今後の暮らしと言われてもすぐには答えが出ない。欲を言うならここで暮らせられたらいいのだけれど。
「多分そう言う系かもです…」
「なるほどね…じゃあ、うちで暮らす?」
「え?いいんですか?」
「もちろんよ!ああ、うちがどういう所か、見せておかないとね」
「?」
ひとまず暮らしについてはなんとかなるようだ。
マリーは、ついてきてと私に告げると部屋から出て階段を降りる。こうして動いている今も息苦しさや体の痛み・倦怠感は全くない。
1階の小さな部屋2つを潜り抜けると、そこには小さな食堂があった。お茶屋さんというか、そんな感じのこじんまりとした食堂だ。
「わわ…」
「今日は冥界廊が閉鎖されてるからおやすみなんだけどね」
「冥界廊?」
「ああ、ここからすぐの場所にある探索地の事。ダンジョンって呼ぶ人もいるわね」
ダンジョン。ゲームでよくある怪物が住む迷路というか、そんな感じの場所の事だろうか?
「とにかく、その探索地に調査や討伐に入る探検家や勇者をもてなすために、この食堂はあるの」
「そうなんですね…!」
「そう!だけどあなたはどうする?ダンジョン探索には魔女はかかせないっていう話だけど」
「そうなんですか?!えっでも…怪物とか出ますよね?」
と、おそるおそるマリーに聞いてみた所、勿論出るしその怪物の討伐がメインな場所や依頼もあるという事だった。
(それは無理ゲー過ぎる)
だがマリーの話を聞いて、私の中でぜひこの食堂で働きたいという欲がだんだんと芽生え始めて来る。ダンジョン攻略よりも、この食堂で働いた方が、安全なのではないだろうか?
それに、まかない…美味しいごはんにもありつけるかもしれない。
よし、そうと決まればマリーにお願いしてみよう。
「あの!ぜひここで働きたいです…!」
「えっ…?いいの?」
「お願いします。働かせてください!」
「ありがとう!じゃあ色々教えていくわね!」
こうして私は、この食堂で働く事が決まったのである。胸の中でわくわくとした感情がボールのように弾んでいる。
(魔女になれて、この食堂で働ける…楽しみ!)
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