我が校に映画撮影に来ていた世界的人気を誇る若手女優と放課後にエンカウントした結果、何故か俺は唯一の友達に選ばれたらしい

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映画のロケ地になったらしい

「おい、聞いたか?」

「ああ……俺は猛烈な感動に打ち震えている」

「俺もだ。ここの生徒だってことに初めて感謝したね」

「話とか出来たりするかな?」

「無理だろ。普通の女優とかならまだしもあの櫛宮くしみやかなでだぜ?」

「だよなぁ……」


 朝から校内は一つの話題で持ちきりだった。

 さっきから同じような会話ばかりが俺の周りを行き交い続け、耳にタコが出来そうになる。


 どうやら我が校がとある青春映画のロケ地に決まったらしい。

 それも主演の女優が数百億年に一人(いや本当かよ?)の枕詞でお馴染みの超人気若手女優らしい。

 俺の家族も朝から凄いハイテンションだった。

 よくもまぁ撮影で来るってだけでそんなに興奮出来るもんだと感心する。


「浩二は気にならないの?お前だけだよ?朝からこの話してないのって」


 ふと近くで声が聞こえたかと思えば、茶髪のお調子者が俺の机の上に座った。

 おい、俺の机はお前の椅子じゃないぞ。


「まだ二ヶ月も先の話だろ。それに撮影に来たからって何かが俺たちの身に起きるってことは万に一つも無い。あったとしても精々ただのエキストラ役に抜擢される……ってぐらいか?喜べる理由が分からん」

浩二こうじは相変わらず枯れてるねぇ。生きてて楽しいか?」

「お前ブン殴ったら少しは楽しくなるかもな」


 目の前のいけ好かない野郎――荻原おぎわら健一がやれやれと肩をすくめ、哀れみの目で俺を見下ろす。

 拳を叩き込みたくなる顔だ。無駄に顔が良いのも腹が立つ。

 こういう野郎がモテるって言うんだから世界は残酷だ。


「商店街なんてもう櫛宮奏一色だったのに。今回も浩二だけが蚊帳の外か」

「それは行動する側が迅速すぎるだけだろ。今朝のニュースだったよな?」

 

 はぁ……地方の何の取り柄もない田舎町ってのは、本当に話題に飢えてるもんだ。飛びつき方が違うわ。

 魚だったら簡単に釣り上げられちゃってるよ。


「たまには世間の流れに身を任せようぜ。逆張り浩二もそろそろ疲れたろ?」

「別に逆張りなんてしてるつもりは無い。ただ何故か周りが色めき立つほどに冷めてくってだけで」

「それを逆張りって言うんじゃないの?」


 難儀な性質をしてるのは俺自身でも分かってる。

 でも生まれ持ったものなんだからそれはもう仕方ない。

 俺は一生このままこの性格だ。無理して変える気もない。


「はぁ……浩二、こんな可愛い子が来るんだぞ?もしかしたらって期待をお前は欠片もしないのか?」


 健一がスマホの画面を俺に向けた。

 そこには黒髪ロングの絶世の美少女が写っていた。

 大和撫子、その四文字が俺の脳裏にハッキリと浮かぶ。

 空想の世界から飛び出してきたかのような、神の寵愛を一身に受けたのかと思ってしまう程度に飛び抜けたルックス。

 男の子が好きな要素全部詰め込ましたみたいな、そういう別格の存在。

 世が世ならその美貌だけで国を幾つも傾けられていただろう。


「無理無理。俺たちただの田舎の男子高校生が何かを期待していい存在じゃない」

「ったく……友人としては良いが、やっぱり同じ男としてはお前と相容れる日が来る気がしないよ」


 俺も全く同じ台詞を返してやりたい。


 人生なんて期待するだけ無駄だ。期待した分だけ落胆が大きくなる。

 なら常に穏やかに、一定のリズムで生きていく方が楽に決まってる。

 植物のような人生って素晴らしいじゃないか。


「お前らうるさいぞ。授業の時間だ。席に座れ、教科書出せ」

「おっと、もうそんな時間か。やばいやばい。壬生みぶちゃん怒ると怖いからなー」


 気付けばホームルーム後の休憩時間が終わっていた。

 先生の一喝により、喧騒に包まれた教室内が少しずつ静かになっていく。


 今日からの二ヶ月、そして撮影が開始すればもっと、この町の盛り上がりは最高潮へと向かっていくんだろう。

 厄介なことが起きなければいいな。

 俺はそう思いながら教科書を開いた。

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