第2話 僕の日常
「洗ったげるから、もう一回入ろ?」
そうしようか。
僕も、ちゃんと落ち着こう。
話し合いは、それからだ。
少なくとも、このまま二人はお終い、という事態は避けられたようだ。
「うん」
僕も、ようやく……微笑んで、頷いた。
再び、脱衣所に入り、服を脱ぐ。
僕は、男物の下着を、
彼女は、女物の下着を脱ぐ。
脱衣かごには既に、先程僕が脱いでいた、……もう一対の女物の下着。
それを、ちらりと見た彼女の表情は……、やはり複雑そうだ。
僕は、脱いだ自分の男物の下着を上にかぶせてそれを覆い隠した。
……やはり、見られるのはちょっと…、いや、かなり恥ずかしい。
だが、ずっと隠し通せるとも思っていなかったし、これが話す機会だと思えば…。なんとかこの難局を乗り越えれば、きっと今度は隠すこと無く身に着けられる。それが無理でも、隠し事が一つ減るのだ。
関係性としては、一歩前進…そう思えなくもない。
けど、今後の話の流れによっては、関係性の悪化ということもありうる。
だが、せっかくバレたのだ。
もう嘘をついたり、隠したりするのはよそう。
正直に話そう、自分の気持ちを。
それで駄目なら、諦めもつくだろう。
浴室の戸を開けて、中にはいる。
彼女はシャワーノズルを手に取り、お湯を出して身体に浴びる。
僕は、風呂柄杓で湯船の湯をすくって、身体を流す。
そして、先に湯船に浸かる。
彼女は、風呂椅子に座って、肩から胸回り、腰回り、お尻回り、と洗って、お股の辺りもちゃんと洗っている。
「こら」
視線に気づいた彼女が、軽くたしなめる。
洗っているところを観察するものじゃないの、そう言ってよく怒られたものだが、なかなか見られるものではないし、そう言った姿も可愛いと思ってしまう。
でも、嫌だと言うなら仕方がない。
そう思って目線を横に向ける。
「……ちゃんと、女性が好きなのよね……?」
彼女が、そう切り出した。
「もちろんだよ」
僕は答える、嘘偽り無く。
「男も好きだとか……、そういうのは?」
彼女は重ねて聞いてくる。
興味本位ではない、ちゃんと、質問として聞いているのだ。
「それは無いよ。異性愛オンリーです」
それを聞いた彼女は、うんうん、とゆっくり頷いた。
「……よかった」
彼女は、こころなしか表情が柔らかくなった。
そして、シャワーをざっと身体にかけてから立ち上がって、浴槽に足を向ける。
うちの浴槽は大きい。
しかも正方形というちょっと変わった形だ。
二人並んで入れるので、とても気に入っている。
脚を伸ばして入れるサイズのものが欲しくて、方々探し回って買ったものだ。
彼女は、僕の隣に浸かって座り、手足を伸ばし「ん~……」と気持ちよさそうに声を出した。
そして、かるく寄りかかってくる。
「あのね……」
彼女が、話しだした。
「私は……その、女物のぱんつが好きとか、そういうのは……別に、いいの」
そう言って、僕の顔を覗き込む。
「そこは、大前提として……、覚えててね?」
真剣な眼差しに、思わず気圧されそうになる。
「う、うん……」
頷いて答えた。
「ただ、……もっと別な部分で、あたしに不満があったりとか……、もしかしたら、ホントは男のほうが好きなのに……、世間体で女の私と付き合ってたのかな……、とか」
彼女は、身体を捩って寄せてきて、胸のあたりに手を這わせてきた。
「……そういうんだったら、ちょっとやだな……って。」
彼女は彼女で……、随分深いところまで悩んでしまったようだ。
単なる趣味なのに……。やはり、申し訳ないことをした……んだろうな、これは。
「僕も……。大前提として、言うよ?」
僕がそう言うと、身体をくっつけたまま、彼女が頷いた。
「
……いや、厳密に言うと、きっかけは彼女なんだけど。
それはおいおい、話そう。
頷いて、少し間をおいてから彼女が話しだした。
「あたしにさ……、前にね……?」
うん、と、頷く。
「ほら……、ぱんつのカタログ見ながらね……、こういうの穿かないの?って、聞いたことあったでしょ? ……レースのぱんつ、指差して……」
あぁ、そんな事あったなぁ。
彼女は、コットン系のあまり色気のないぱんつを愛用しているのだ。
僕は、レース処理されたものの方が好きだったから、彼女がそういうのを穿くことはないのか聞いてみたのだ。
「あたし、レースの下着……苦手なの。なんか、ちくちくして……肌触りが良くなくて……」
購入者のレビューでも、度々触れられていることだ。
レースの下着は、人によっては肌触りに違和感を生じることがあるらしい、と。
彼女もそうなのだろう。
「昔、自分で一回買って、だめだったから……それ以来、買ったこと無いの」
つまり、最初に買った下着との相性が良くなかったのだろう。だから彼女はずっとコットンぱんつなのだろう。
「でも、……
そう言ってくれるのは嬉しい。
そして、実際に穿いてくれたらそれはきっと素晴らしいことだろう。
けど……、
そこまでしてもらっても、僕自身がぱんつ趣味を辞められるかと言うと……正直なところ自信がない。
見て楽しむと事と……、穿いて楽しむこと……。
これは、別腹なのだ。
理解はされないと思うけど、そうなんだ。
「……ありがと。でも、肌に合わないんだよね……? 無理しなくていいんだ」
彼女は、ずいぶん僕に気を遣ってくれている。
「……それに、そういうのとは違う、ん……」
う~ん……、
「いや、穿いてくれるなら嬉しいんだけど、それとこれとはまた別というか……」
ちゃんと、……話さないとだめだろうな。
「引かせちゃうかも、知れないけど……。聞いてくれる、かな?」
「うん……大丈夫。聞かせて」
……………
最初は、些細な興味だったんだ。
彼女が泊まりに来た時に置いていった、下着のカタログ、
それと、僕の洗濯物に紛れてた、彼女のぱんつ。
彼女は、普段はコットン系のあまり色気のないぱんつを愛用している。
だが、彼女が忘れていったのは同じコットン系ではあるが、薄緑色の……男物では決して見かけない色の物だったのだ。
何気なく手にとって……、まず、あまりの滑らかな手触りに驚いた。
思わず、品質表示タグを確認したが「綿100%」としか書かれていない、自分の穿いている男物と何ら変わらないのだ。それなのに明らかに違う触感…。
そして、同じ洗剤で洗っているはずなのに、発せられる香りが明らかに自分のものとは違う。
なぜ、こうも違うのか。
僕は、カタログを開いてみた。
モデルの女性は、スタイルは良いが美人というよりは整えられている、という感じで好みのタイプではなかった。
だが、その色とりどりの美しい下着に包まれた姿に、感じたことの無いときめきを感じた。
エロい動画や全裸のグラビアとは明らかに違う、不思議な感動だった。
男物とは異質な、圧倒的なデザインの種類の多さ、色もタイプも様々だ。
そして、男が身につけることがない、ブラジャーという不思議な下着。
男にも、大きさや質感は違うが同じものが付いている。
しかし、女性の胸のそれは特別な下着によって覆い隠さなければならない理由があるのだろう。
カタログの説明欄を貪るように読み、そして……改めて、手元にある彼女のぱんつを手にした。
実物が目の前にあるということの、なんと素晴らしいことか。
僕は両掌で捧げ持ち……、そして、そこにそっと顔をうずめた。
信じられないくらい、なめらかな感触だ。ハンカチなんかとは比べ物にならない。
そして、ゆっくりと深呼吸する………。
同じ洗剤で洗ったとは思えない、とても甘美な香りがいっぱいに広がった……。
「──ちょっとまって」
そこまで聞いて、彼女が話を遮った。
「……つまり、匂い嗅いだの? あたしのぱんつの?」
少し怒ったような顔だ。
僕は、真顔で真剣に答える。
「いや、嗅いだというか……、確認したかったんだ。──存在の。」
ぶふっ、と彼女は吹き出して、そのまま体を丸めて笑いをこらえていた。
しばらく体を震わせた後、涙目になって、
「なんで! そんな! 真面目な顔で言うの!? ……行動とテンションが全然合ってない!」
彼女は、また笑いだしてしまった。
「体臭とかは、全然感じなかったんだけど。……いや、体臭なのかな。操を、脱がせた時とおんなじ匂いがしたんだ、洗ったばかりなのに」
彼女は、笑ったような困ったような、変な顔をして、う~……、と唸った。
「なんか……イヤ。……それって、やっぱり体臭じゃないの……?」
そう言われて、話の続きを思い出した。
「僕もそう思ったんだけど、なんだか違う感じもしたんだ」
だから、………確かめてみることにしたんだ。
最初に買ったのは、Wac○alのぱんつだった。色は黒で、凝った刺繍が施してあるものだ。
以前、別な女性から聞いたことだったので、その部分は伏せて話したが、このメーカーのぱんつは値段が高いけど、その分そこいらのメーカーのものとは質が全然違う、と。
ぱんつとしては法外に高い。値引き後の価格で3000円くらいしたが、それでもラインナップの中ではかなり安い方だった。はっきり言って、僕のぱんつは1年分買ってもそのくらいだ。
まさに、清水の舞台から飛び降りる思いで、購入ボタンをクリックした。
次の日には手元に届いた。
さすが世界流通企業。
……だが、その分運送業者の皆様には、大変なご苦労がお有りのことと思う。
頼りすぎるのは……良くないだろう。
さて、初めて手にする、一流メーカーのぱんつ。
手触りは、正直……、ごわごわしていた。
それに、やけに生地が厚い、操のぱんつとは全然違った。
当たり前だが、工場から出荷されたばかりのそれは、素材の匂いしかしなかった。
値段に騙されたか。
そう思ったが、問題はここからだ。
洗濯機に、その黒ぱんつと、僕の買ったばかりのシャツやぱんつを一緒に入れて、洗剤を入れてスイッチを入れる。
洗濯が終わったら、洗濯ハンガーにかけて一昼夜。
そして、乾いたぱんつを捧げ持つ。
そこに、顔をうずめて深呼吸した。
……!!
やっぱりだ。
操のぱんつと同じ匂いがした。
試しに、雑に嗅いでみた僕のシャツとぱんつからは普通の洗剤の匂いしかしなかった。
いや、この黒ぱんつも洗剤の匂いなのだが……香りの広がり方が、まるで違うのだ。
目の前の物体が女性用のぱんつであることから、脳が過剰に反応しているのか……、それは定かではなかったが、明らかに香りの感じ方が違ったのだ。
「……で、その洗ったぱんつを、くんくんしてた訳ね?」
呆れたような顔で、彼女が言った。
「でもね、2、3日したらやっぱり香りが無くなっちゃうんだ」
僕は答えた。
「それはそうよ」
そう言って呆れたように笑う。
「でも、体臭じゃないことは、はっきりしたんだ」
それを聞いて、彼女は疑わしい目で見ている。
「え~、気のせいじゃないの~…?」
「でね、他のメーカーのも買ってみたんだ、今度はうんと安いやつ」
「いくらくらいの?」
「400円のやつ」
彼女は驚く。
「え?!安っす!!どこのメーカー?」
「うん、後で教えるよ」
それよりも、話の続きだ。
今度は、うんと安いものを選んだ。
値段や素材で香りの広がり方が違うのかも知れないと思い、検証する必要性を感じたのだ。
今度のは、前後身頃が綿の一枚ものだが、腰の支える部分がレースになっている、少し凝ったデザインのものだ。色は鮮やかな濃いブルー。
やはり、次の日には届いた。
同じように洗濯して乾かし、香りをチェックする。
両手で捧げ持ち(正しいお作法)、顔をうずめて深呼吸をする。
……やはり、
「──ねえ、……いちいち、私と同じ匂い……っていうの止めない?」
また彼女が話を遮ってきた。
「だって、同じ匂いなんだよ?」
「なんか……臭い、って言われてるみたいで…ヤなの!」
彼女はそう言って唇を尖らる。
とりあえず、検証は済んだ。
1、洗剤の匂いではあるが、明らかに香りの広がりが違う。
2、その香りは操を脱がせた時の香りとの類似性が見られる。
3、ぱんつの素材やデザイン、値段などの影響はごく少ない。
4、洗濯後であるため、体臭の影響は無いか、ごくわずかと思われる。
「……で、気が済んだの、それで?」
彼女は、呆れながらも困ったような笑顔を浮かべて話を聞いていた。
「うん、謎が解けてスッキリしたんだ。」
僕は答えた。
「でも、なんで……そんな事しようと思ったの?」
あ~、うん……。
「……
「あー、あったね……、1年ちょっと前かな。」
少々、恥ずかしいが……正直に話すと決めたんだ。
「……その、なんというか……、操が実家に帰ってから2、3日くらいで……、我慢できなくなって……。」
彼女が、にやりと笑みを浮かべる。
「……しちゃったんだ?……ひとりえっち」
僕は、顔を背けて、……うん、と頷く。
「男の子の生理だもん、気にしないの……。ごめんね、あの時は」
そう言って、首に手を添えて、身体を寄せてきた。
そうして、頬と頭を撫でる。
「……最初は、良かったんだけど……、だんだん、物足りなくなってきて……。」
だんだん、最後まで達しなくなって…不満が溜まって……、
部屋をうろうろしてたら、見つけてしまったんだ。
「……操の忘れ物の…ぱんつ。」
ぷっ、と彼女が吹き出す。
「ま~…、それなら、しょうがないかぁ……。」
で、その後も半日もすれば、また欲求が募ってくる…ということを繰り返しているうちに、変な思考が混ざり始めてしまって、例の検証を始めることになった。
「匂いの、記憶に対する反応って…すごいんだよ?ほんとに、操がいるみたいで…。操と…してる時の記憶が、ぶわぁ~…、って蘇ってきてね……。」
「…も~……、恥ずかしいから……」
彼女は、僕の首元に顔を伏せる。
「で、
「……洗剤の香りだと思うんだけどなぁ……」
彼女はまだ半信半疑と言った感じだ。
まあ、僕としては洗剤であっても別に構わない。
それが、彼女との記憶を呼び覚ますきっかけなのだから。
むしろ再現しやすい分、都合がいい。
「……あれ?でも…それなら、なんで自分で穿くとこまで行っちゃったの?」
うん。
別に、理由はなかったんだ。単に、もったいないから、というだけで。
検証が終わったあとのぱんつは、普通ならそのままお蔵入りか、処分ということになるんだろうけど──。
「ほら、僕って…着るものにお金かけないじゃない?」
「うん」
彼女は即、肯首した。
僕が着るものにお金をかけないのは、僕の
戦前生まれで、長生きだった僕の曾祖母ちゃん……。
大正、昭和、平成、令和と4つの時代を生き、亡くなるときには100歳を超えていた。
戦前戦中戦後の、激動期を生きた曾祖母ちゃんは、超がつくほどの倹約家だった。
誇張抜きで、お金を一銭も使わずに暮らしていける人で、特に着るものに対する倹約ぶりはすごかった。
普段着ている服は、全て家族が廃棄する古着の縫い直したもの。
部屋着などは、僕がゴミ箱に捨てた服を縫い直して着ていたほどだ。
曾祖父いちゃんが亡くなった時に着た喪服も、古いもので、普段着の上から羽織るだけの簡素なもの、下はもんぺのまま葬儀に出ていた。
流石にそれだと…、ということで自分の喪服を買うついでに一緒に買ってあげようとしたのだが、
「着るものに金かけたって、爺様は喜ばん──」
そう言って、断っていた。
そんな姿をずっと見てきたせいか、着るものにお金をかけるという概念が、そもそも僕には生まれなかったのだ。
だから、同級生などには結構、馬鹿にされてたのかも知れないが、着ているもので人を見下げるような人間には関わりたくもなかったので、関係性を持つ人を選ぶ際のいいフィルターになっていたとも思える。
……そのおかげで、
「──単に、棄てるのがもったいなかったから、…検証終わったら自分で穿けばいいや、くらいの気持ちだったんだ。…だから買う時は、一応自分でも穿けるくらいのサイズのやつにしたんだけど」
「普段穿きにしようとしたの…?」
彼女が愉快そうに聞いてくる。
「まあ、最初はね……」
試しに穿いてみた時の、驚きがすごかった。
手触り同様、敏感な部分の肌触りが段違いになめらかなのだ。
そして、身につけていてもほのかに香る、操の匂い…。
「──だから、洗剤だってば!」
彼女が呆れている。
──なんだか、不思議な気持ちだったのだ。
ただ、肌を覆い隠すだけの物のはずなのに……、穿くだけで気分が昂ぶる。
自分の身を覆っている布地に触れると、何故か操の下着に触れているような、背徳感にも似た快感が生まれる。
そして、その色と形状、そして意匠……。
今まで自分が買って身に着けてきたものとは、全く違う……、着ることそのものが目的にさえ成り得るような、衝撃を受けたのだ。
───世の女だけが、こんな良いものを身に着けていたなんて……!
……正直、ずるいと思った。
ちょっと、嫉妬し、……許せないとも思った。
こんな良いもの、……僕にだって、穿く権利くらいあるだろう……!!
着るものにお金をかけるということなど、これまで全く考えたこともなかった。だけど、初めて……身に着けるものにお金をかけたがる心理が解った気がしたのだ。
最初は家で過ごす時に着用してみた。
慣れてきたら、近所に買い物に行くときにも穿いてみた。
そのうち、女性下着を身に着けて外出するのが楽しくなってきた。
今までも、外出する際には洗濯したての汚れてない服に着替えるくらいのことはしていたが、外出する時に穿いていくぱんつで迷うことが、こんなに楽しいことだとは思ってもみなかった。身支度に膨大な時間を費やす世の女性の気持ちが少しだけ垣間見えた。
流石に、お金をかけすぎるのは良くないとは思っていたので、通販サイトで安くて綺麗な意匠のぱんつを探すのが日課になった。
「そのうちね……、どんなぱんつがいいぱんつなのか、だんだん解ってくるようになったんだ」
「……あ~、なんとなくわかる。
最初に買った、黒のワ○ールと、青のノーブランド。
洗濯を続けていくと、明らかに違いが見えてきたのだ。
ワ○ールが何度洗っても品質を維持しているのに対し、ノーブランドの方は明らかに毛玉になったり縫製がほつれてきたり、劣化が早いのである。
「二、三度洗っただけで、ヤレが見えてきたんで慌てて買ったよ、洗濯ネット」
「あ、そこまでちゃんとしてるんだ?……あたしも、気に入ってるのはネットに入れて洗うけど、普段穿きとか二軍のやつは、……もうそのまま洗濯機へ、ぽい、よ~?」
「レースのぱんつって、だんだんヘタってくるんだね、……最初に買ったやつが穿けなくなった時は……悲しかったなぁ」
最初に買ったものだし、思い入れもあったが……、最初の青のやつは、一年ほど穿いた後、お焚き上げして天珠を全うさせた。
下着というのは、直接人に見せるものでない分、交換の目処の見極めが難しいものだと思う。
「そうよ~、コットンのやつでもね、毛玉が出てきたりするとやっぱり気になっちゃうし…。」
「見せるわけじゃないのに、不思議と気になるんだよね」
「ね~?」
変なところで意気投合してしまった。
「……あれ、でもさ?」
彼女がなにかに気付いたように、聞いてきた。
「生地の滑らかさはともかく、穿いてて……きつくないの? ……その、タマタマとか」
たまたま言うなし……。
「うん、やっぱりサイズだけで選ぶと、長時間は穿けない感じになるかな……。ぴったりより大きいのじゃないと」
「……
そう言ってくれるのは嬉しいが、平均値がどのくらいなのかよくわからないし…。多分彼女の言動は、お世辞もあるだろう。
「それでね……。僕も考えたんだ……。」
「ふむ、なにを?」
女性の下着は、実にバリエーションが多いのだ。
その一つに、……僕は目をつけた。
「紐ぱんにしてみよう、って」
ぶふっ、っと、彼女はまたしても吹き出す。
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