【十二】お蔵入りのスクープ記事!
徳田大統領の幹部は、生徒会の執務室の会議テーブルを囲んで前政権の資料を調べていた。
一般に公開されている普通の資料であるが、ちょっと違う。
それは、前政権の圧力でお蔵入りしたスクープ記事だった。
前畑利恵は、ある記事に着目した。
「康代、これ見て」
『利恵、なんかあって』
利恵は大きなホログラムディスプレイに記事を表示させた。
「当時の総理の記事なんだけど、信じられないことが書かれているのよ」
「たとえば、ここよ・・・・・・」
「為替を円安で誘導すれば」
「円安株高が基本だから輸入物価が上昇して値上げを余儀なくされる」
「輸入単価が上がれば光熱費が高騰する」
「光熱費が高騰すれば工場や店舗に影響して値上がりが始まる」
「結果、全てが値上がり、庶民は悲鳴を上げ利権者は儲かる」
「まだ続くわ・・・・・・」
「為替無しでも値上げるには、元を上げれば良いんだよ」
「たとえば、電気代だけを政府の認可で三割上げたら、どうなるか」
「電気を使う企業の全てが値上げの嵐に晒される」
「それで、追い討ちをしておいて」
「飴を与えれば嘘みたいに感謝するのがお花畑の羊たち」
「円安ドル高で、外人が株を買い漁り史上最高値になるのは当たり前」
「これを何度も繰り返せば無抵抗な国民は諦めますよ」
「値上げにはキックバックがもれなく付く」
前畑利恵の説明に豊下秀美が声を上げた。
「悪魔だ!」
明里光夏も豊下に続いた。
「天罰が無かったらと考えるとぞっとします」
織畑信美は、考えながら話した。
「反面教師と考えれば、どうだろう」
康代も続く
『そうね、今は鎖国で』
『為替市場も株式市場も閉鎖で自給自足体制拡大で影響はほぼない』
『光熱費に至っては国営化と新エネルギーに宇宙発電で問題無い』
『ダブルデノミの影響で更に値上がり要素は消えている』
『ホワイトドレスの汚れに喩えれば、今は汚れのない新品の状態』
『水道の蛇口から泥水が出るのと同じだった五月とは比較にならない改善』
『私たちは、徳田幕府にもお願いして監視強化をしましょう』
黒猫の神使のセリエが康代の言葉に反応したのか現れた。
「康代よ、奴らは地獄にゃ、奈良の魂はそれより酷いことになっているにゃ」
「けれどにゃ、負のエネルギーがある限り、悪魔が消えることはにゃい」
「監視している幕府にも監視が必要かもにゃ」
「セリエも監視しているから心配無用かもにゃ」
『セリエさま、ありがとうございます』
セリエは消えて光になった。
「康代、セリエ殿は、いつも忍者のように現れて、直ぐに消えるでござる」
「康代から事前のアドバイスが無ければ抱きしめていたでござるよ」
執務室にいる幹部は静女の言葉に微笑んだ。
「康代、久しぶりにカフェに行かないか」
『他の人たちも一緒にどう』
「康代、私は賛成よ」
織畑だった。
「私も行くよ」
前畑も続く。
明里と豊下は何やら相談しながら
「お邪魔で無ければ、同行させて頂きます」
「明里と豊下は、相変わらず控えめですね」
前畑が助け舟を出してくれたお陰で二人の表情が綻(ほころ)んだ。
康代たちは、学園の地下通路から移動してショッピングセンターの地下玄関に出た。
センターの地下玄関は、神聖女学園の生徒たちで賑わっている。
康代たちは、変装していたので気付く者はいなかった。
万が一を考えエレベーターを避けてエスカレーターで移動した。
最上階のレストラン街の端にカフェがあった。
平日なので、思ったよりは人は少ない。
天女の静女は可視化モードになっている。
「お客さまは、何名でございますか」
「六名でござる」
康代たちは、学園側が見える大きなテーブルに案内された。
『静女は、何がいい』
「拙者は、クレープをお願いしたい」
「康代は、チョコレートパフェ」
「信美は、チョコレートショコラ」
「利恵は、イチゴパフェ」
「秀美は、チーズケーキ」
「光夏は、イチゴのショートケーキ」
「これで、全部でござるな」
「光夏殿、よろしくでござる」
光夏はテーブルのホログラムディスプレイに慣れた手付きでタッチしてオーダーを完了した。
[オーダーをありがとうございます]
[しばらく、お待ち下さい]
「便利な時代でござるな」
しばらくして、ウエイトレスがオーダーを運んで来た。
「クレープの味は癖になるでござる」
『静女はクレープの大ファンですね』
静女は窓から見える学園都市の田園風景を眺めるのが好きだった。
「最上階の眺めが最高でござるな。生徒会室はどの辺かな」
『中庭に面しているから、あのあたりでしょう』
康代が指を指して言った。
団欒をしていたら、
『先生、こんにちは。宜しかったら、ご一緒しませんか』
「康代さん、偶然ね」
「ちょうど、みなさんと話たい事があったので嬉しいわ」
安甲はカフェのテーブルの端の席に腰掛けて話を始めた。
「みなさんは、人間の感情のエネルギーを知っているかな」
「波動とも呼ばれるエネルギーなんですが」
「拙者は知っているでござる」
「個人のエネルギーは小さいので大きな悪さをしないのですが」
「それが集団となると、まるで違います」
『確かに、そうですね』
康代が頷く。
「そのエネルギーには、プラス側とマイナス側があるのよ」
「普通は、ニュートラル前後なので問題無いのですが」
「永畑や大都で起きた自然災害の引き金になる場合が稀にあるのよ」
[実際は神の天罰だった]
「負のエネルギーの暴走でござるな」
静女は乗り気である。
「その大元は、不安、恐怖、憎悪、嫉妬などで」
「地震や火山だけじゃなくて」
「豪雨、落雷、台風、竜巻などにも影響を与えるのよ」
「五月の永畑は、圧政に苦しめられた国民の負のエネルギーの暴走なのかも知れない」
「裁きでござるな」
「神使のセリエさまは、それをキャッチして事前に知らせてくれるのもそのためよ」
「みなさんには、再び、国民の負のエネルギーが暴走しないように」
「プラスエネルギーを高めるお仕事をお願いしたいの」
「愛でござるな」
静女が答える。
『政策は、順調ですが、それでも膿(うみ)が多少生じます、大都みたいに』
徳田康代は溜め息をつくのだった。
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