【八】陰陽師・安甲晴美

 徳田大統領は、神使セリエに相談してみないとー、執務室で思案していた時。

 黒猫の神使セリエが現れた。康代の心はテレパシーのようにキャッチされている。


「康代、我に用事があるようだにゃ」

『はい、セリエ様』


「知っているにゃ」

「アレはにゃ、永畑の大穴で死んだ意識の残骸にゃ」


「想念が生き霊になるのを知っているかにゃ」

「陰陽師の安甲の管轄じゃから、問題ないにゃい」


「陰陽師に相談したら良いニャー」

『ありがとうございます。セリエ様、相談してみます』


「東都の親衛隊は必要にゃい」

『ありがとうございます、セリエ様』

セリエは消えて光になった。


 大統領は、東都親衛隊の派遣を中止して安甲晴美にお願いした。

安甲は、皇国で最強の陰陽師であり、ある意味、魔法使いだったのだ。

安甲が祈るだけで永畑町の魔物は消えた。


『そんなー』

康代は驚いて言葉を失った。


 徳田康代は神聖神社の神主に呼ばれて社務所を訪問した。

隣には紫色のロングヘアの天宮静女が女子高生姿で付き添っている。

天女である静女の年齢を知る者はいない。



 神聖神社の神主である陰陽師おんみょうじの子孫の安甲晴美あきのはるみは神聖女学園の教師をしている。

体育会系の雰囲気がある三十三歳の女性でショートポニーテールの髪が似合う。

背丈は一七〇センチくらいの美人タイプで生徒の間でも憧れの先生だった。


「康代さん、隣の女子生徒は?」

『安甲先生は、初対面ですね』


「そうですが、面接した記憶がないというか、不思議なオーラを感じました」

『ご紹介しますね。天女の天宮静女様です』


「天女の静女でござる」

「そうでしたか、天女様とは知らずに失礼しました」


「安甲殿、構わんでござる。拙者も神使のお使いでござるから」

『ところで、先日は、魔物駆除をありがとうございます』


「仕事ですから」

『地獄の亡霊が度々出ることは珍しいですが、どうしたのでしょうね』


「怨念の残骸の変質かも知れませんね」

「拙者も同じ考えでござる」

天女の静女は紫色の瞳を輝かせていた。



「転生が出来た魂は成仏しているのですが、

ーー地縛霊化した魂は地獄との狭間から抜け出ることがあります」

『それは、厄介ですね』


「大半は、地獄の主人の配下に連れ戻されますが、

ーーある意味、凶悪霊ですから、こちらとしては駆除するだけです」


神使のセリエが黒猫の姿で現れた。

「あら可愛い猫ちゃん、どこから来たのでしょう」

「安甲殿、神使のセリエ様でござる」


「天女よ、感謝ニャ」

『セリエ様、魔物の話をしていました』


「冥界の管轄じゃが、神使のメリエに相談するニャ」

「メリエ様は上司でござる」

「そうじゃったな、天女よ」


『そうして頂けると幸いです。セリエ様」

「じゃあ、またにゃ」

セリエは消えて光になった。


「康代さん、セリエ様は気さくな方ですね」

『安甲先生、最近のことですの』


「そうなんですね、ところで・・・・・・」

『なんでしょうか、安甲先生』


「学園に転校生が入った事を聞いていますか」

『いえ』


「そうですか」

『ご縁のある方ですか』


「さすがに推察が鋭いです」

『いつの時代でしょうか』


「家康様、信長様の時代です」

『まさか、秀吉ですか』


「はい、豊下秀吉の生まれ変わりの豊下秀美です」

『驚きです。信美が喜ぶと思います』


「生徒会に推薦しますのでよろしくお願いします」

安甲先生が康代にお願いした。


『安甲先生、生徒会は陰陽師の阿甲先生の決定に従うだけです』

『生徒会の件は分かりました』


『信美の下で副首相をお願いしようかな』

「信美さんも喜ぶでしょう」


『今世も、猿顔でしょうか』

「前世の風貌を受け継ぐ天界のしきたりがござる」


『神域には何も申し上げられませんね』

「康代も相変わらずたぬきでござるな」


『そんな、たぬきですか』

「康代さん、ほっぺが膨らんでいるよ」


「安甲殿の申す通りでござる」

『フクロウじゃ、ありませんよ』

神聖神社に笑い声が響いた。



「巫女の姫子ですが、お客さまが見えています」


「どなたですか」

「豊下秀美さんという方です」


『安甲さんの言霊の威力は相変わらずすごいですね』

「姫子、お通しして下さい」


「かしこまりました」

「豊下様、こちらのお部屋にどうぞ」


「失礼します。豊下秀美です」

「今、豊下さんの転校のお話をしていたところなんですよ」


「陰陽師様、意外とお茶目なんですね」



「紹介します。こちらが徳田康代大統領で神聖女学園の生徒会長です」

『生徒会長の徳田です。よろしくね』


「豊下です。よろしくお願いします」

『明日、生徒会室に来てください』


「はい、喜んで」

『豊下さん、生徒会にも参加をお願いします』


「生徒会ですか?」

『安甲先生の推薦です』

安甲は微笑んで頷いた。


「安甲先生、ご用はなんでしょうか」

「もう顔合わせは終えたので、今日は、これでお開きです」


 安甲は、徳田に豊下を紹介するために呼んでいた。

 


 翌日の放課後の神聖女学園の生徒会室には、生徒会メンバーが招集されていた。

豊下秀吉藤吉郎の生まれ変わりの豊下秀美は生徒会室の扉の前に立った。

背丈は一六七センチくらいの可愛い顔立ちに赤茶髪の姫カットのボブヘアをしている。



「豊下秀美です、失礼します」

「お入りください」

生徒会のメンバーが部屋の入り口で豊下を案内した。


「広いお部屋ですね」

「ここは、昔、図書室に使われていたのです」


「新館に図書室が移転してから生徒会が使用しているのです」

「びっくりしましたわ、あまりに広いので」


「生徒会メンバーはクラス代表が兼務することが多く、

ーー高等部の生徒会メンバーは、幹部を含めて三十五名います」

「あなたが入ると三十六名ですが百人以上入れるキャパシティはあります」


 

 豊下はぽかんとして室を眺めた。

大きな窓から初夏の暖かな日差しが差し込んでいる。

部屋の中央には、図書館で見かける大きなテーブルがあった。


「生徒会のメンバーはあとで紹介しますね」


生徒会メンバーが隣室の会長室に豊下を案内した。


「会長、豊下さんをお連れしました」


そこには、徳田、天宮、織畑、前畑の四人がいた。


『徳田です。今日はありがとうね』

「徳田会長、昨日はありがとうございます」


『立ち話もなんだから、会議用テーブルに移動しましょう』


 五人は生徒会の会議テーブルに移動した。


『豊下さん、こちらが昨日、お会いした天女の天宮さん』

「天女の天宮でござる」


「天女様、豊下です。よろしくお願いします」

『こちらが、あなたの前世の恩人の織畑さん』


「信長様ですか」

「生まれ変わりの信美です。よろしくね」


「織畑様、豊下藤吉郎秀吉の生まれ変わりの豊下秀美です」

「懐かしいね」


「懐かしいです」

「今世は、猿顔が薄くなって美人になられたわね」


「信美様、相変わらずお茶目ですね」

『最後が、前畑利家の生まれ変わりの前畑利恵さんです』


「前畑です。よろしくね」

「前畑様、豊下秀美です。懐かしいです。よろしくお願いします」


『じゃあ、紹介が終わったところで、お茶会にしましょう』

「康代、今日はなんでござるかな」

『秘密よ』



 生徒会のメンバーも参加しての大きなお茶会になった。

『みんな、聞いてくれ』

珍しく男口調になった徳田に一同が緊張する。

徳田が男口調になる時は重大発表が多いからだ。



『豊下さんを、みんなに紹介する』

「豊下秀美です。よろしくお願いします」


『豊下さんは、今日からみんなと同じ生徒会のメンバーになった』

『みんなで支えてくれないか』


 生徒会メンバーの拍手が広い部屋に響きお茶会が開催された。

「康代、これはなんでござるか」

『ハーブティーよ』


「なんとも言えぬ香りが素敵でござるな」


天女の発言にみんな頷いていた。


「そうね、美味しいわ・・・・・・」


 から号外が配信されました。

生徒会室のホログラムディスプレイを見た生徒会のメンバーは事態の深刻さに凍り付くのでした。


「大都の反政府組織の集会で永畑町と同規模の陥没事故が発生してビルが地中に消えました」

「反政府メンバーの殆どは絶望視されています」


「また、ヤバイよこれ!」

「永畑町かと思った」


「東都でなくて良かった」


 徳田幕府の反対勢力はアセリア様の意向で駆除されたのを知っている人間はいなかった。



 ニュースを関係者から知らされた康代は、大統領として考える。

問題は、永畑町と同規模の陥没事故の成り行きだが・・・・・・康代は、永畑町に加え大都の陥没事故の対応にも追われることになった。



 田沼博士は、大都の関係者から地震データを入手して解析作業に入ると永畑データと比較した。


「若宮さん、これ、永畑とは別物かも知れない」

「博士、私も同意見です」


「衛星情報の分析からはマグマの気配が無いですね」

「ただ、被害規模が地震規模と比例していない矛盾が残りますが」


「被害規模は、永畑町と同じなのに、まるで別のタイプですね」

「ですが、永畑町も地震規模とは比例して無かったので」


若宮も田沼の疑問を引き継ぎ考えた。

「マグマの直接関与の有無が分かれ目ですね」


 田沼と若宮は、神聖女学園の部室を研究室として仕事を継続している。

名称も変更して、今は神聖地震火山天体研究所とした。


女学園と言う環境が幸いして人手に困ることは無かった。

「今年は、空梅雨かしら、先生」

「ハイビスカスの季節ですね」


「紫陽花(あじさい)も綺麗ですよ」

「今度、学園内を散策してみたいね」


今日も夕日が、大江戸平野の山々に反射している。



 豊下秀美は、豊下秀吉藤吉郎の生まれ変わりだった。

陰陽師の安甲先生の紹介で徳田会長の下で生徒会役員をしている。

背丈一六七センチくらいで、この時代としては普通。

姫カットのボブヘアが似合う愛らしい顔立ちだ。


 そんな豊下秀美が大都への出張を織畑首相に懇願している。


「向こうは、徳田幕府の藩もあるから心配ない」

「織畑首相、失礼しました」


「学園内では、信美で良い」

「はい、信美さま、ありがとうございます」


「秀美は、相変わらず固いな」



 天女の天宮静女は好奇心か、転移魔法で大都へ行って戻って来て、康代を驚かせる。


『さすが、静女は天女様ですね」

「康代、全員、裁きの庭に移動したみたいでござる」


『まだ天罰の続きがあるのかしら』

「続きは分からないでござる」



 康代としては、大都事件が永畑町事件にならないことを願うだけだった。

皇国に反乱分子がいたことを康代は心配した。



 黒猫の神使セリエが現れた。


「康代よ、大都の件はアセリア様が対応済みなので心配ないにゃ」

『ありがとうございます。セリエ様」


「だが、まだまだ異分子の負の波動が皇国に残っているにゃ」

「大半は康代の幕府軍の力を必要としないにゃ」


『セリア様、地盤の沈没は大丈夫でしょうか』

「長畑町の二の舞にと言う事だにゃ」


「今回も負のエネルギーの暴走じゃが、極めて小さいから大丈夫にゃ」

『永畑町は切り捨てて対応したいと思いますが』


「それで良いにゃ」


神使セリエは消えて光になった。



 どうも神使のセリエ様にはテレパシーで相手の心が読めるらしい。

康代もあるにはあるがレベルがまるで違う。

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